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鏡の中には、獣の耳を付けた男が見える。俺はため息をついた。

毎日毎日、次起きた時にはこの耳がなくなっていて、人間の耳になっていますように、そう思って寝る前に鏡を見る。

俺の耳は、犬の耳なのだ。何で耳が犬の耳なのか、そんな事知らない。気付いた時にはこの耳だった。こんな格好では外にも出られないから、俺はずっと1人でビルの廃墟で暮らしてきた。

親が居なければ友達も居ない。だから淋しいなんて思う事もなかった。

食べ物も、なんとかしてきた。犬の耳と関連してか、よく鼻がきく。足も速い……のだと思う。他人と比べた事なんか分からないから分からないけど。

でも、あれだ。

食べ物盗んでもこの特性のお陰で警察に捕まらなかったんだから、皮肉なものだ。

この耳や尻尾(実は真っ黒いのがついてんだ)のせいでこんな生活しか送れないのに、この特性のお陰でここまで生き延びて来たんだからな。


 * * *


鏡越しに窓の外を見ると、月が綺麗にポツンと淋しそうに光っていた。星も、ゆらゆらと微かに瞬いていた。

食べ物をとりに行こうと思い、帽子を被り、尻尾をズボンの中に隠す。

そして、暗く光る外に、出た。


 * * *


外に出て、何気なく後ろを振り返ると、さっきまで居た廃墟が月明かりを鈍く反射していた。

近くに立ち並んだ家からは、「コラ、アキ、なんて事するんだ!」という楽しさの混ざった怒り声が聞こえてきた。この家の娘はアキという名前なのか。

……あ、美味しそうな匂いがする。

はあ。

俺は1つ大きなため息を残すと、歩きだした。







今までの事総て、必然への軌跡



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