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俺の事を好き、とあいつは言った。
俺の事を美しい、とあいつは言った。
それは、一昨日の事だ。昨日、俺は河原に行かなかった。
蔑まれるのではないか、と思うと怖かった。
何に蔑まれるかは分からない。あいつにかもしれないし、他人かもしれない。もしかすると、もっと多勢の人間に、かもしれない。
とにかく、怖かった。
* * *
あいつは俺の事を好きだと言った。
それはお別れの言葉だったのかもしれない。そう思うと、悲しくて足がすくんだ。
この廃墟から、抜け出せない。
でも、河原に行かなければならないような気がする。根拠なんかないけど。
取り敢えず立ち上がる。そしてのろのろと歩きだす。
あいつは来るだろうか? 本当にお別れの意味であの言葉を言ったのだったら、俺は……。
本当の事を知りたい。けど、知りたくない。
足は勝手に、動き続ける。
普通の人間として生まれたかった。
そう願う事は無駄な事であろうか?
同じになれたら良いのに
気づけば、河原に着いていた。
△ ▽
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