連翹


 突如として、辺りが真っ暗になった。周りが全くといって言い程見えない。
 手を伸ばしてみる。私が見ることが出来たのは、辛うじて指先までだった。そこから先は何も見えない。
 だんだんと恐怖が体を覆っていく。
 手探りで進んでみようと思ってはみたが、先が見えない状態ではとても足を踏み出す気にはなれなかった。
 ──怖い。
 一度そう感じると、足が竦んでしまい、体がフラフラと揺れてしまう。立っていられなくなってしまい、しゃがみ込む。
 すると、私が立っていた場所にがらくたのような、瓦礫のようなものが転がっているのが見えた。私はそのうちの1つを拾い上げる。それは、小さなガラスの破片だった。
 そのガラスの破片が、キラリ、微かに光った。
 ──光、った?
 私は首を傾げた。何故。ここは真っ暗なハズなのに。光なんて、ないハズなのに。
 キラリ。ガラスは再び、しかし先程よりはっきりと輝いた。
 何故。その疑問だけが私の頭を埋め尽くしてゆく。そうすると、不思議と恐怖は薄れていた。
 ドシン、と何かが私の背中に当たった。その勢いでガラスの破片を投げ出してしまった。急いで振り向くと、そこにいたのは知らない少年だった。

「だ、大丈夫?」

 私は頭を押さえている少年に声をかけた。少年はゆるゆると顔をあげる。そして、私をまじまじと見た。まだあどけなさを残した風貌だった。

「俺は、大丈夫です。……あなたは?」

 私は少年の問いに頷いた。少年は良かった、と微笑む。私は何故か少年の表情に安堵し、微笑み返した。
 しかし、人の顔というのは不思議なものだと思う。少年の顔を、微笑みを見ただけで生きた心地になる。先とは、恐怖とは正反対の気持ちだった。

「それにしても……急に、暗くなっちゃうから何があったのかと怖かったけど、1人じゃなくて良かった」
「そうですね……あ、他にも人はいっぱい居ますよ」

 安心して下さい、と少年は続けた。その言葉に私は辺りを見渡してみる。
 先程まで真っ暗だと感じていたのはどうやら間違いだったようだ。うっすらとだが、物の輪郭が見える。その中に、何人かの姿もあった。
 少年がカチリと、何かのスイッチを押した。明るい真っ直ぐな光の帯ができた。少年は懐中電灯のスイッチを押したようだ。先程のガラスの光はこれを反射したものなのかもしれないな、と思った。

「灯りがあると安心しますよね」

 少年はそう言って笑う。私はそうねと答えた。
 その光に気付いた周りの人々が、懐中電灯に集まってくる。口々に大丈夫か、怪我はないか、と安否の問いかけをしていた。
 独りじゃない。その事が私にとって心強かった。不思議と、笑顔がもれた。



連翹
花言葉 希望


ツイッターの笑顔企画で書いたもの。
こんなことしか出来なくてごめんなさい
こんな文章で笑顔になれるの?
かえって暗い気持ちにさせてしまったらどうしよう…
トラウマになると思うのに、地震は



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