シクラメン


 降り積もる雪。しんしんと舞うそれの中を、私はマフラーを巻いて歩く。

「おはよう」

 私の傍を通り過ぎようとした誰かが、私に声をかける。

「ああ……おはよう」

 居たのは、マフラーをぐるぐると首に巻き、何やら分厚い手袋をし、可愛らしい耳当てをした男子だった。

「そのカッコ、寒くないの?」

 耳当てはアレかもしれないけど、手袋くらいしなよー、と彼は白い息を吐きながら言う。

「……あんまり、寒くないから良いの」
「そんなの嘘だよ、だって鼻赤くなってるよー?」
「アンタだって鼻赤いから」

 じい、と覗き込む顔を、手で払いのける。すると彼はうわ、と声をあげた。

「ちょっと、めっちゃ手ェ冷たい!」

 ギュ、と手を握られる。

「別に寒くなんかないから」
「でも」
「大丈夫なの!」

 私は、彼の手の中から私の手を勢い良く出す。とたんに手がひんやりして、鳥肌が小さく立った。

「……やっぱり、寒いんじゃないの」
「寒くないんだってば!」

 早足で学校へと急ぐ。

「顔赤くない?」
「……寒いからでしょ!」
「なあんだ、やっぱり寒いんじゃん」

 慌てて思いついた言い訳を言うと、ソイツはにっこりと笑った。

「手袋貸そうか?」
「いらない」
「じゃあ手、繋ぐのと貸すのどっちがいい?」
「どっちもいらない」
「どっちがいい?」

 ソイツはにこにこ、笑う。

「……」
「ん?」
「……じゃあ、手袋」
「……はーい」

 返事するまでの空白の時間が地味に怖い。心の中で、舌打ちとかされてたらどうしよう。
 借りた手袋は、当たり前だけどブカブカだった。
 その大きさに慣れなくて、更に早く歩く。

「あれ? もっと顔赤くなったよ?」
「なってない!」

 私は見えないように顔を伏せた。


シクラメン
花言葉 恥ずかしがり屋




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