ポリアンサス


「あたしの彼氏はね、寂しいって言ったらいっつも優しく抱きしめてくれるの!」

 友達のその言葉に、周りの女の子のきゃあと反応する。羨ましいわ、と。

「ウチの彼氏は何にも言わなくてもギュってしてくれるよ! 寂しいって思ったら自然とだから、きっと一心同体なのね」

 その女の子はうっとりとして言う。また周りの女の子はきゃあと反応する。素敵ね、と。

「あたしの彼氏なんて……」
「私の彼氏は……」
「いやいやウチの彼氏は……」

 途端に始まった彼氏自慢を、私は呆然と眺める事しか出来なかった。
 私の彼氏はなんか自慢出来るような優しいとこ、あったかなあ……。

「で、あんたの彼氏はどうなわけ?」

 急に話を振られて、私は苦笑いを返すことしか出来なかった。

「何よお、あんたも自慢しなきゃ詰まんないじゃない」

 集まっていた女の子がみんな私の方へ注目している。私、こういう雰囲気苦手なんだよなあ。

「別に、何もないよ。手繋ぐのもちゅうするのも私から、だしね」

 私の言葉に再び女の子たちは色めき立つ。はあ、と溜め息しか出てこなかった。

 * * *

 学校が終わり、更に部活も終わり帰路につこうと校門から出ると、彼氏が待っていた。……今日、一緒に帰る約束してたっけ。

「待ってくれてたの?」
「……」

 寒いためかマフラーに顔の半分を埋めた彼は、返事をしない。

「ねーえ、聞こえてる?」

 彼は返事の代わりに歩き出した。余程寒いのか、制服のポケットの中に手を突っ込み、早々と歩く。
 仕方ないから、私は遅れないように早足で歩いた。
 暫くそんな感じで、私はだんだんと不安になって来た。……これを、付き合ってるって言うのだろうか? みんなみたいに、なんかこう、甘い経験がない。
 彼が突然歩みを止め、私の方へ向く。差し出された手に、私は戸惑った。

「手」
「……え?」

 彼は更に手をずいと差し出す。

「いいから、手」
「あ、うん」

 よく分かんなくて、私は取り敢えず彼の手に私の手を重ねた。
 するとまた、彼は歩き出す。私の手は握られたまま。
 ……これって、手、繋いでる状態!?
 彼から差し出してきたという事実が何だか信じられなくて、私は繋がれた手をまじまじと見てしまった。

「な、なあ」

 顔を半分マフラーに隠し、前を向いたまま、彼は言った。

「んー?」
「き……」
「き?」
「き……き、綺麗な夕焼けだな」

 言葉につられて、空を見上げる。

「もう……夜だよ?」

 星がいくつか瞬いていた。

「そ、そうだったかな!」

 彼は私の方を見ようとしない。まあ、そういう事は今までにも何度かあったけど。

「なんか、変じゃない? どうしたの?」

 彼は何も言わなかった。正確には、押し黙った。

「ねえ、なんか……」
「お、俺と! き、キスしませんか!」

 彼は私の目を見ていた。私が見つめ返すと、気まずそうに目は逸らされた。

「もしかして、あの話、聞いてたの?」

 顔は半分マフラーに埋もれてるけど、きっと彼は真っ赤になってるはずだ。

「お、おう」

 彼の返事に、何だか嬉しくなる。

「何にやけてんだよ。良いから答えろよ」

 彼はジロリと私を睨む。

「可愛いなあ、もう!」

 ちゅうくらいいくらでもどうぞ!
 そう言うと彼は耳まで赤くなった。


ポリアンサス
花言葉 好転




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