夜埜様へ2000ヒット記念

先生にあいつを呼んで来るように言われてずっと探しているんだけど、あいつの姿がどこにも見当たらない。

今だって授業中だってのにあいつの席は空いたまま、要するにどこかでサボっちゃってるワケだ。

しかも、今の授業は私に頼んだ先生で、あいつが居ない事、すなわち私が呼べれなかった事(先生は"呼ばなかった"、と思ってるみたいだけど)に腹を立ててか、先程から私ばかりを当ててくる。

……早く、終われば良いのに。

そのままうつ伏せるワケにもいかず、結局授業中ずっと当てられ続けた。


 * * *


授業が終わり、教科書や筆記用具を鞄に詰め込む。

「あれ、帰るの?」

前の席の女の子が話しかけてきた。

「うん、ちょっと気分悪いから早退する。担任がなんか言ってたら体調悪いって言っといてくれるかな?」

私の言葉にその子は「りょーかい!お大事にね」と手を振ってきた。

バイバイ、と返し教室から出る。

気分が悪い、というのは本当だ。先程の先生のはほぼ八つ当たりだと思う。私が呼べれなかったのも悪いが、それはあいつが居ないのだから仕方がない。それに、八つ当たられて嬉しい人など滅多に居ないだろう。

そんな事を考えながら下駄箱へと向かう。

途中何人かが声をかけてきたが私はそれに上手く返事が出来なかった。



 * * *



学校の敷地内から出た私は、ある場所へと向かった。

私が学校を早退したのも、九割がたこのためである。その場所は、あいつが何かあると必ず訪れる場所だ。

良い事も悪い事も、嬉しい事も悲しい事も、何かあればあいつはその都度その場所に居た。

学校から一駅分ほど離れた所にある場所に、カラカラとのんびりと自転車を漕ぎながら行く。

日差しが突き刺すように眩しいが、そこに行けばあいつに会えると思うとそんな事はまったく気にならなかった。

それでもやはり、暑かった。


 * * *


進むにつれ、海の匂いがして来た。私はこの匂いが好きだ。

長年親しんだ事もあるが、この匂いはあいつを思い出させる。この感覚が好きなのだ。

更に進むと、ザザアン、と波の音が聞こえてきた。

もう直ぐ、あいつに会えるかもしれないと思うと胸が高鳴った。

浜辺の横を通る道路に自転車を置き、その場所へ向かう。

あいつに何があったのが、話を聞いてあげよう。……良い事だったら、良いな。

そう思いながら浜辺に足跡を残して行く。

すぐに、その場所についた。

岩肌が剥き出しになった所に、それはあった。小さな洞窟みたいな穴が、ポカリとあいているのだ。

「おーい」

そう言いながら、その中を覗く。おそらく中に居るであろうあいつを探して。

だが、その期待に反して、中は空っぽだった。

「はあ……」

つい、溜め息をついてしまった。

私は何の為にここに来たのだろう。

涙が、出そうになった。







洞窟みたいな穴の中から外を見ると、綺麗な海が広がっていた。太陽の光を反射して、キラキラと輝いて居る。

あいつがこの場所を教えてくれた時も、海はキラキラと光っていた。



 * * *



「あー、もう泣くなって!」

あれはたしか、小学生になってすぐくらいの事だったであろうか。

「おばさんも本気でああ言ったワケじゃないとおもうし、な!」

そう言いながらあいつは涙でぐしゃぐしゃになった私の顔を自分の服でゴシゴシと拭った。

「で、もお……! "お前をそんなことする子にそだてたおぼえはない"ってえ……! "出て行け"ってえ……!」

嗚咽を抑えきれなくなった私の背中を、あいつは優しく撫でてくれた。

「しかたないなあ……。おれのひみつの場所教えてやるから、泣きやめよ!」

そう言って私の手を掴み、走り出した。

暫く走ってついた場所は、海だった。

「……もうすぐ、だから」

海には誰も居らず、2人の息切れの音と、波の音だけが聞こえる。

海についてから少し歩き、洞窟みたいな所に到着した。

「ここ……?」

「ああ、ここだ! 入って、海見てみろよ。すっげえきれいなんだぞ!」

あいつに言われるまま洞窟に入り、海を見る。

とても、キラキラして見えた。

「わあ……!」

「ふつうに見るのもいいけどさ、ここから見るのが一番だと思うんだ」

あいつの言葉に、私はただただ頷く事しか出来なかった。

暫くそこに居て、家に帰ると、今度は"なんで本当に出て行っちゃうの!"と怒られた記憶がある。

当時は"理不尽"なんて言葉を知らないから、ムチャクチャな! なんて思いながら泣きながら謝ったような……。




 * * *



ツンツン、と頬をつつかれ、我にかえった。

「あ、やっと起きた」

つついてきた方を見ると、そこには今日ずっと探していたあいつが居た。

「……なんで居るの」

「なんで居ちゃいけねえんだよ。ここは元々俺の秘密の場所なんだぞー?」

あーはいはい、とあいつの言葉を聞き流しながらふと海を見ると、海は夕日に照らされて赤く輝いて居た。

「私がどれだけあんたを探したと思ってんの」

「え? ずっとここで寝てたんじゃねえの?」

「あんたねえっ」

キレそうになった私の目の前に、ズイと鯛焼きが差し出された。

「……こんなモンで釣られるような私じゃない……」

「でも食べちゃうんだ」

「うるひゃい!」

まあ、あいつの声が聞けたから良かった事にしようか。






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