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夜埜様へ6000ヒット記念
「さあ、どうぞ! どれでも好きなの取って良いよ!」
ソイツは満面の笑みで言った。その手にはトリュフチョコレートが数個入っているタッパーが掴まれている。
朝、教室に入ると、ソイツは待ち受けていたのだ。
俺の隣にいた男子がゴクリと喉を鳴らす。それにつられて、俺もゴクリと唾を飲み込んでしまった。
「どうしたの? いらないの?」
ソイツは眉を少し下げてそう言う。
バレンタインのチョコレートなのだ。欲しくないワケがない。むしろメチャクチャ欲しい。
だが、素直に喜べない。その原因は、今チョコレートを差し出しているコイツだ。
コイツが嫌い、というワケではない。逆に女子の中だったら一番仲がいいと思う。ただ、性格なのだ。コイツは、ドSでいつもイタズラをして楽しんでいるような奴なのだ。
そんなコイツが、この差し出されたチョコレートに、細工をしないハズがない。だから、チョコレートを素直に受け取れないのだ。
「お前、先取って良いぞ」
そう言って、俺は隣の奴をど突いた。
「い、いやお前先に取れば」
奴はど突き返して来た。
「……もしかして、チョコレートいらなかった? ごめんね、気をきかせたつもりが、迷惑だったんだね……。ごめんね」
ソイツの瞳が、悲しげに揺れる。それを見て、俺は本当に今回はイタズラとかなしでちゃんと作ってくれたのかもしれない、と思った。隣の奴もそう思ったらしく、必死で「違うんだ、あ、えっと、あの」とかつぶやいていた。
「お前がこんなん作るなんて思ってなかったから、ちょっと唖然としてただけだ。だから、そんな心配すんな」
そう言って、チョコレートに手を伸ばす。
「あ、うん、詰まるところ、そういうことかな」
隣の奴も俺に便乗して手を伸ばした(先に自分から伸ばせよ!)。
パクリ、とチョコレートを口の中に入れる。隣の奴の顔が、真っ青になって、直ぐに赤くなった。
「食べてくれて、ありがとうね!」
ソイツは実に楽しそうに、先ほどより満面の笑みで言った。
「か、辛っ! なにこれ」
「俺の何か分からんが結構美味しいぞ」
隣の奴は、チョコレートの中に、カラシか何かが入っていたみたいだ。そう考えると、俺は当たりだったのだろう。というか、先ほどせっかく期待したのに、全然普通のチョコレートじゃなかったし。
「ソレね、唐辛子を粉にして、チョコレートでくるんだんだよ! 辛いだろ。ざまあ見ろ」
ソイツは、俺の隣の奴に向かってそう言った。
「ソッチはね、マヨネーズとケチャップを混ぜて、それをチョコレートにくるんだの! 結構いけるなら失敗だったな」
俺に向かって、そう言った。
……俺の方が、当たり、だった?
いやいや、内容聞けば当たりじゃないじゃないか。無性に吐き気がしてきた。どうすれば良い。内容なんか聞くんじゃなかった。
「ま、というワケだからホワイトデー期待してるわ!」
そう言うと、ソイツは自分の席に戻って行った。実に楽しそうな顔だった。
俺たちは、どうやってアイツに仕返すか、額を寄せて話し合うしかなかった。
俺が欲しかったもの、
それはつまり
△ ▽