夜埜様へ5000ヒット記念

氷があたり一面に広がっていた。木々は凍りつき、太陽の光を受けてキラキラと反射していた。

慧は眉を潜めた。未だ眠っている他の四人をチラリと見て、溜め息をついた。

「ん、うん……」

ムクリと龍が起き上がった。

「起きましたか」

「うん……ってどこだここ!?」

目を擦っていた手を止め、龍は辺りを見渡した。だが見えるのは氷ばかり。

「氷付けの世界……」

龍がポツリと呟いた。

「……きれいだ」

「……そうですね」

太陽の光は暖かかった。慧は違和感を覚えた。

「──おかしいですね」

「え、何が?」

龍はキョトンとした。

「確かにおかしいな」

「蒼。起きたんですか」

「どこがおかしいんだよ。というか一面氷付けなとこだけでもう十分おかしい」

碍も起きて、蒼に突っかかった。それに俊も加わる。

「そうっスよ、俺はその意見に賛成っス先輩!」

「それも十分おかしいですが、もっと奇妙なことがあるんです」

慧に視線が集まる。

「寒くないのに何故氷は溶けないんです? 氷自体はヒヤリとしてますが触っても溶けませんよ」

慧は掌に氷を乗せていた。一同は暫く氷を観察していたが、その氷は確かに溶けることはなかった。

「──調べる価値がありそうだな」

蒼の言葉に、頷いた。そして、慎重に歩き出す。



最果てで出会う



張っていた結界が、震えた。

「……何だ?」

「どうしたんスか、つらら」

急に扇子を振る手を止めたつららに、コウが訊いた。つららはそれに答えず、神経を集中させる。

何かが、動く気配がした。それは動物などではなく。

「──人?」

「え、人がどうかしたんっスかー?」

つららはさらに、その人が一人や二人だけではないことを感じとった。

「何か、変な気配を感じないか?」

「え、あ──そう言われれば」

「行ってみるぞ」

そんなに大きく結界は張っていない。そんなことを考えながらつららは向かった。


 * * *


近付くと、話し声が聞こえた。

「この氷、どこまで続くんスかね、先輩!」

「それにしても本当に奇妙なところだな……視覚と体感がまるで一致せん」

「なんか魔法みたいだなー」

「そうですね。もしそうだとすればメルヘンチックで良いです」

「慧可愛いっ……俺王子様、慧お姫様!」

「俊が王子様とか、姫かわいそー」

何ともつかみどころのない会話だった。

つららとコウはわからない言葉に戸惑いつつ、先ほどの会話を分析する。

「コウ、あの者たちは"魔法"みたいだと言ったな?」

「そうっスね、でも、その言い方ってまるで……」

「"魔法"という言葉は知っているが"魔法"そのものは実在せん、というような言い方だな」

そのような事はこの世界では有り得ない。現に、自分は今魔法使いなのだ。それに、能力の差はあるが、村にも魔法が使える者がいないわけでもないし、第一皆"魔法"の存在を知っている。少なくとも彩崎の人間はつららが空を旋回して警備を行っているのを見ているはずだ。

「接触してみる価値、有りか」

コウが頷いた。


 * * *


ガサッと音を立て、慧たちの前に一組の男女が現れた。女は髪の毛を高い位置で一つにまとめ、二人とも着物を着ていた。

「そなた達、何者か。何故ここに居る」

女が訊いてきた。

「私は慧といいます。あなたは誰ですか? 私たちは、目が覚めたらここにいたんですけど、ここはどこなんですか?」

「目が覚めたらここにいた?」

「はい」

女は眉を潜めた。隣にいた男が、女を心配そうに見ていた。

「──そうか。神隠しにでもあったか」

そういうと女は懐から扇子を取り出し、振り上げた。

すると、するすると氷は溶けてなくなっていく。慧たちが驚いているなか、その男女は至極普通と思われる表情でいた。

「先輩、これって……!」

「魔法、か……?」

「なんだ、魔法を知らないのか?」

はっ、と彼女は笑った。その態度に碍はムッとした。

「魔法くらい知ってる……!」

「"知ってる"? 使える者はいないのか」

彼女はますます眉を潜めた。

ひゅう、と風が吹く。砂埃があがった。

砂埃が晴れると、そこには男の姿があった。

「つらら、澄信が呼んでっぞ」「馬鹿者、澄信"様"だ」

「あいつが良いって言ったんだから良いんだよ。ったく、結界なんか張りやがって……。おかげで解けるまで待たなきゃなんなかっただろーが」

「結界?」

蒼が疑問に思ったのか尋ねた。女の隣にいた男がこたえる。

「ええ、つららが魔法の鍛錬のために張るんっス。つららは他人に邪魔されるのが嫌スからね」

そして男は続けた。

「さっき来た男の人、行平っていうんスけど、相当な魔法使いなんです。その行平でも破れない結界を通り抜けて来れる人はいないから、つららは不思議に思ってるんだと思いますよ」


 * * *


「お、つらら、帰ってきたか! 鍛錬ご苦労様」

「……なんであなたがいるんですか、史憲公」

「いやー今日は澄信に新春記念宴会をするからこいと言われてな」

「……だからあの男がいたのか」

つららの目線の先には行平がいた。

「ところで、後ろのは誰だ?」

「ああ、この者たちはどうやら神隠しでここに辿り着いたようで……」

「へー……あ、お嬢さん名前なんてーの? 綺麗な髪の毛だなあ」

そう言って史憲は慧の髪の毛に触れようとした。が、すかさずそれを俊が止めにはいる。

「ちょっと、慧の髪の毛に触れんなよ!」

史憲は目をパチクリとさせた。そして、ニヤッと笑う。

「お嬢さん、慧って言うんだ。俺ここの国の隣の国の領主の史憲っていうんだけど」

「へー史憲っていうんだ。だけど残念、俊って名前の方がカッコいいもんね」

「俊ー? はっ、今時そんな名前流行らねーぜ。今の流行りは史憲よ!」

「漢字一文字がブームなんだよ。そんなのもわかんないのに国の領主?」

「ぶーむ?」

「そんなのも知らねーの、やっぱ馬鹿だ」

「つららさん、ここってパフェありますか?」

「ぱ、ぱふぇ? 何ですかそれは」

「甘くてとっても美味しいんです」

「はあ、甘味どころならあるが……」

「甘味どころ? 是非行ってみたいです」



最果てで出会う



俺たち、無事帰れんの?

夜埜様宅のキャラクターとのコラボ


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