助ける

私が歩いていると、私を押しのけてすさまじい勢いで男が走って来た。なにこいつ!危ないわね!


「ひったくりよォォォ!」


すぐに後ろから女の人の声がした。ひったくり…!?そういえばお財布を持っていたような!


「んにゃっ!」


だっと駆け出す。追いついてみせる!猫なめんなよ!
だだだだっ。みるみるうちに男の背中が迫る。
とうっ!
その背中に体当たりした。


「うわっ!」


倒れ込んだその顔を思いっきり爪でひっかく。


「ぎゃぁあ!」


男の顔は無残にも、引っかき傷でいっぱいになって真っ赤になった。もういいか、と爪をしまう。天誅よ、自業自得だわ。


「猫ちゃんが助けてくれたのね!ありがとう、お利口な猫ちゃん」


後から走って来た女の人は、ポニーテールの綺麗なお姉さん。財布を拾い、にっこりして私を撫でると、痛さに悶えている男を見下ろした。…あ、あれ?顔つきが変わったよ?目つきが、なんか怖く…


「おいてめェェェごらァァア!!私の財布盗みやがって命落とす覚悟あんだろうなてめェェェェ」
「ぎゃっ、ふげっ!」


怖っ!!えっこれ今さっきのお姉さん!?踏んでる蹴ってる!!痛そう!めっちゃ痛そう!私もさっき引っ掻いたけど!


「にゃー…」
〈も、もうそろそろやめたげたら?〉


と言ったつもりだったのに、お姉さんは黒い笑みで笑いかけた。


「あら、猫ちゃんも加勢してくれるのかしら?本当にお利口ね」


違うゥゥゥ!もうこれ以上は犯罪になりそうだよ!!


「お妙さァァァァん!無事ですかァァァ!この近藤勲がそばにおりながらお守りできずにすみませっがふぅぅぅ!!」
「この役立たずゴリラがァァァ!てめェストーカーしてたんだったらどうにかしろよおらァァァ!」
「か、厠に行ってましてェェェ」
「くたばれゴリラァァァ」


目の前で繰り広げられる惨劇。お姉さん強っ。なにこの状況。なんか、このお姉さんだったら私助けなくても別に良かったかな…はあ、とため息を漏らして立ち去ろうとすると、お姉さんが声をかけた。


「もういくの?ありがとうね、助かったわ猫ちゃん。今度会えたら高級なキャットフードをごちそうするわ。こいつが」
「俺ェェ!?ま、まあお妙さんの為ならば!…猫!ご苦労だったな!また会おう!」


可愛らしい笑顔とは裏腹に、言ってる事はえげつない。綺麗なお姉さんなのに、もったいないなあ…その横に立つゴリラ似の人間がかわいそうになってきた。キャットフードは欲しいけど。
あわれみの眼差しを向けてその場を後にしたのだった。


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