耳と尻尾

沖田さんに問い詰められ、私の嘘がばれそうになって。そんな大変な出来事があったその日の夜、具合が悪いと言って早く休ませてもらうことにした。布団の中で、私はずっとこの”秘密”のことを考えていた。

今回はあっさりと引き下がってくれたが、絶対に沖田さんの疑いは晴れていない。すごく怪しまれている。感づき始めているかもしれない。私が本当はいない存在であるということに。

やっぱり、私はここにいてはいけない存在なのだろうか。戻るべきなのだろうか。元の野良猫の”にゃんこ”に。かと言っても、戻る方法もわからない。いや、それは建前だ。私は猫の姿に戻りたくないのだ。
せっかく憧れだった人間になり、人間としての生活にも慣れて来て、こんなに銀さんの近くにいれるのに、こんなに幸せなのに。切ないあの生活に今更戻るなんて考えたくない。
それに、何より。想いを伝えるために人間になった。それなのにまだ、肝心の気持ちを伝えていないのだ。
でも、このままずっと記憶喪失で貫く訳にもいかない。いつか、そう遠くないうちに、記憶喪失ではないとばれるときがやってくるかもしれない。いっそ本当に記憶喪失になれたらいいのに、なんて思ってしまう。私の過去なんてすっかり忘れて、本当の人間になれたらいいのに。

ごろんと寝返りをうち、寝ようと無理矢理目を閉じた。ああ、悩みは尽きない。


眠りに落ちる瞬間、何か身体を熱い電流のようなものが走った。
これは感じたことがある。まさかと思って布団からがばっと起き上がり、自分の手を見る。人間の手だ。よかったとホッと息を吐き出し、再度布団をかぶる。そのとき何か手に触れた。ふわふわしたもの。頭に。


「っ、みみ………!!!」


以前の、猫のときのような耳が頭についている。サイズはだいぶ増しているようだが、紛れもなく猫耳。鏡を見に行こうと立ち上がり、お尻から伸びている長いものに気がついた。


「尻尾まで……!?なんで、耳と尻尾だけ猫に戻ってるの!?」


くらりとした。だらだらと冷や汗を流し、血の気が引いて行く。嫌だ嫌だ嫌だ戻りたくない!
どうしたアルかー、と神楽ちゃんの声が聞こえてハッとした。見られちゃだめだ!私はすぐさま布団に潜り毛布を頭までかぶって、何にもない、おやすみと布団の中から叫んでからどくどくとうるさい心臓の音を聞いていた。落ち着け、落ち着け。すーはーすーはー。


「よし寝よう。寝て、起きたらきっとなくなってるはず…ッ」


そう自分に言い聞かせ、目をぎゅっと瞑った。しかしそんな状態で眠れる訳もなく。
なくなってなかったらどうしよう。銀さんに見られたら何て言おう。全てを打ち明けるしかないのか?そして立ち去るしかないのか?嫌だよ、ここにいたいよ。お願いだから消えてくれ、耳と尻尾!!結局、眠りにつけたのはそれから数時間後だった。




「おはよう……」
「おは……にゃんこ、ちゃんと寝たアルか?すんごい隈アルヨ。めっちゃブサイクネ」
「うーん…ちょっと寝不足で…」
「寝不足?早く寝たのに?昨日も具合悪いって言ってたネ。大丈夫アルか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」


ゴシゴシと目をこする。眠い。眠すぎる。どうにも出来ない眠さに倒れそうだが、何よりも今重要なことは。洗面台に立ち、じっと鏡を見つめる。頭は至って普通の髪の毛しかないし、お尻にも尻尾はない。私は長い息を吐き出して座り込んだ。


「よかったあ……」
「何が?」


ばっと振り向くと、そこには銀さんが立っていた。じっと私を見ている。視線が怖い。まさか、まさかばれた?いや、そんなはずは。ごくりと息をのむと、銀さんは口を開いた。


「何もよくねェからな、今何時だと思ってんのにゃんこちゃん。超・寝・坊!!!下からババアが呼んでるぞ!!」
「ごっ、ごめんなさいィィ!!」


着物にすぐさま着替えてダッシュで駆け下りる。お登勢さんに怒られてしまったが、気持ちは軽かった。銀さんにはバレてないし、耳も尻尾もないし。本当によかったなあ、とのほほんとしていると、またお登勢さんにシャキッとしろと叱られた。


back < | >
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -