将軍様と

「ふっ、ふつつか者ですが今日はよろしくお願いします!!」
「こちらこそよろしく頼む」


お互いに深々、頭を下げる。お茶を出してくれた店員さんが戸惑ったようにこっちを見ていた気がしたが、気にしちゃダメだ。将軍様は今日はお忍びで来ているらしく、きらびやかな衣装ではなく地味な普通の着流し。私は今回は化粧ナシのすっぴん、ではないが、お登勢さんにうっすらと施してもらったナチュラルメイクだ。

「今日の方がいいと思う」
「はい?」
「化粧だ」

なんて会話が、今日顔を合わせた際の一言目だった。嬉しいけど、嬉しいけど…!!なんかすみません!!


「ええと、まず何か頼みましょうか。甘味は何がお好みですか?」
「にゃんこ殿のおすすめにしよう」
「ええ!…じゃあ、白玉あんみつで。お気に入りなんです!おいしいですよ。すいません、お願いしまーす」


ぱたぱたとかけてきたいつもの店員さんにあんみつを二つ頼んだ。にこやかな店員さんはぐっと親指を立ててきた。なんでそんな上機嫌なんですか。聞きたかったが、聞く暇もなく厨房に戻ってしまった。


「さて、にゃんこ殿」
「はい!」
「この前は迷惑をかけたな。大丈夫だったか?」


酔いつぶれてしまったときのことを言っているのだと気づいて恥ずかしさで真っ赤になった。


「こちらこそすみません、その後のことを全く覚えてなくて…何も粗相してませんよね?」
「ああ。すぐに寝てしまったから」
「よかった……、お恥ずかしい限りです…」
「起こそうとは思ったのだが、なにぶん起きる様子がなくてな…保護者を呼ぶから心配ないとお妙殿に言われたのだが、保護者とは、例の居候先の?」
「そうです!すぐ迎えにきてくれましたっ」


恥ずかしさで熱い頬を抑えて俯いていたが、ぱっと顔を上げる。銀さんのことだ。と同時に、おんぶして連れて帰ってもらったことを思い出して再度顔が熱くなった。緩む頬が抑えきれずにはにかんで笑うと、将軍様はふっと笑って言った。


「そうかそうか。にゃんこ殿はその殿方のことを好いておられるのだな」
「へっ!!」


素っ頓狂な声が出て、慌てて口を閉じる。それを肯定ととったのだろう、将軍様は当たりだなとニコニコしておられる。


「な、なんで、お気づきに……?」
「わかるさ、にゃんこ殿を見ていればすぐに。……少し残念だ」
「残念?どうしてですか?」
「いや、…気にするな」


眉を下げて笑う将軍様。しかし真意の程は分からない。とにかく、私の頭の中はそんなにわかりやすかっただろうかという心配でいっぱいだ。まさか銀さんは気づいてないよね?と表情をくるくると変えていると、あんみつを持って店員さんがやってきた。受け取り、将軍様に渡す。美味しそうだと嬉しそうにして、一口頬張るのをじっと見つめる。


「うん、美味だ」
「…!よかったです!」


お気に召さなかったらどうしようかと思っていた。ホッと胸をなで下ろす。よし、私も食べよう。一口白玉を口にいれ、もちもちとした食感を楽しんだ。


「にゃんこ殿の片想いなのか?」


いきなりそう切り出され、白玉が喉に詰まりそうになり、ゴホゴホと咳き込んだ。なんでその話題?


「は…はい、そうです」
「そうか…うまくいくといいな。何か悩みがあれば遠慮なく言ってくれ。相談に乗ろう。いいアドバイスが出来るかはわからないが」
「はあ…ありがとうございます」


とは言ったものの、別に銀さんの彼女になりたいとかは別段思っていない。いや、あわよくばという気持ちがないわけではないが、そばにいれる今のままで本当に十分幸せなのだ。これ以上を望んではいけない気がして。
だから、私は悩んだ挙句、この質問を思いついた。


「では、相談を一つだけ、いいでしょうか?」
「もちろんだ」
「私、彼にたくさんお世話になっているので、お礼がしたくて。でも、彼が喜ぶようなことが思いつかなくて…何かアイデアをいただければ嬉しいのですが…」
「ふむ、喜ぶことか」


真剣に考えてくれている。とても優しい方だなあとしみじみ改めて思っていると、将軍様は間も無くにっこりと言った。


「にゃんこ殿がされて嬉しいことをしたらいい」
「私がですか?でも、それで彼が喜ぶとはわかりません」
「にゃんこ殿がされて嬉しいことなら、相手もされて嬉しいことに違いない。きっとそうだ」


確信を持った表情ではっきりとそう言うものだから、なぜか納得してしまった。よし、じゃあ、何をするか決めた。


「わかりました、やってみますね。ありがとうございます!」
「結果を今度聞かせてくれ」
「もちろんですっ」


ああ、銀さんに会いたくなってきた。愛しいあの銀髪を思い浮かべ、へにゃりと笑うと、将軍様も微笑んでくれた。それからも話は弾む。一市民である私なんかの話ににこやかに相づちを打ってくださって、打ち解けるのに時間はいらなかった。本当に優しい方だなあ。


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