帰り道で

ゆらゆら、心地よい振動。そしてほんのりとした暖かさ。なんだか気持ち良くて、擦り寄る。ああ、とってもいい気持ち。


「……おーい。起きてんのか?にゃんこちゃーん」


聞き慣れた声がすぐ近くから聞こえた気がして、んむうと唸るように返事をして、重たい瞼を押し上げる。そして一瞬で覚醒した。


「!?ぎっ、銀さん!!」
「耳元で叫ばないでくれますー」


目が覚めたら、銀さんの背中におぶられていました。なんてことだ、擦り寄っていたのは銀さんの背中!!なんてシチュエーション神様ありがとう!!
とは思いつつ、だんだんと冷静になってきた。どうしてこんな状況になっているのか。銀さんにおぶられるまでに至った経緯を全く覚えていない。あれ、私将軍様とお話してなかったっけ。


「銀さん、私…何がどうなったの?さっぱり思い出せない」
「俺が聞きてェよ。いきなりお妙から電話かかってきて、にゃんこちゃんが大変だから迎えに来てっつーから何事かと思って迎えに来てやったら、お前がソファで爆睡してたんだよ」
「……ええ?」
「お妙が言うには、ドンペリを一気飲みしたんだと。バカだよねそうなんだよね。なんで一気飲みなんてしたんだよ!それもドンペリを!…覚えてねェか?」


ドンペリ、という単語にだんだんと記憶が蘇る。そういえば、将軍様と甘味処へ行く約束をしてから、松平さんがお酒を勧めて来たのだ。断ろうにも、将軍様の手前断りにくくて、受け取ったら最後、一気飲みコールが始まってしまった。どうにでもなれと一気に飲んで、その後から記憶がない。ああやってしまった、将軍様にスライディング土下座で謝りたい、今すぐ。


「にゃんこてめー、わかってんのか?銀さん怒ってんの」


不機嫌そうな声が聞こえて、追い打ちがかかる。泣きそうになりながら縮こまって謝った。


「ごめんなさい…お酒飲んで、こんな迷惑かけて…」
「そこじゃねーよ。銀さんはスナックすまいるに勝手に行ったことに怒ってんの。あそこはキャバクラ、お前が行くようなとこじゃねーの。お妙に誘われたからって、ホイホイついて行くな。危ねえだろうが」
「……う、うん」


心配、してくれてるんだよね。叱られているというのに、少し嬉しくなってしまった。悟られないように、意識をしながら返事を返した。


「まあ、大体悪いのはお妙なんだけどな。どうせ口止めされたんだろ?あのゴリラ女…あとで新八締めとくか……」
「ま、待って!何も考えてなかった私が悪いの、お妙ちゃんは悪くないからっ」
「…てめーはお人好しだな。そんなんじゃこの町で生きて行けねーぞ…あ、そういや」
「?」
「化粧と着物で変わるモンだな。いやーびびったびびった。一瞬、にゃんこだと気づかなくてよ」


そう言われて、まだ着せてもらった着物、そして化粧を施されたままだということに気がついた。今度着物は返さなくちゃ、ああでも化粧の落とし方がわからないな。洗えば落ちるかしら、と思っていると、銀さんが爆弾を落としてきた。


「なかなか似合ってんじゃねーの」
「え!!」
「馬子にも衣装って感じで」
「マゴニモ…?」
「……やっぱいいわ」


よくわからないが、とにかく、銀さんが、褒め言葉を…!?よかった、おんぶされている今は、真っ赤になっているであろう顔を見られない。その代わり、心臓の音が伝わってしまわないか心配だ。


「で、どうだった?客に何かされてねェだろうな?」
「あ、うん!大丈夫!真選組の方と、将軍様がいらっしゃったの」
「はァァァ!?将軍んんん!?」


銀さんは思い切り叫んでぐりんと首を私に向けた。顔が!!!近い!!!頷きながら慌てて身を反らす。


「つーことは、土方くんたちにも会ったのか」
「うん。万事屋に居候してるって言ったら、驚いてた」
「そりゃ、だろうな」


将軍と警察揃ってキャバクラとはずいぶん暇そうなこった、と呟いたのが聞こえた。ああ、あと、将軍様との件も言っておかなければ。


「それで、今度、将軍様を、行きつけのあの甘味処にお連れすることになったの」
「へー、あっそう…は?将軍と!?」
「うん、まあ成り行きで…」


緊張するけど結構楽しみなの、とっても優しい方でね、とにこにこしながら言う。銀さんも心なしか嬉しそうだった。


「よくやった、玉の輿だぞ。しっかりがっぽりもらってこい」
「いや下心が見え見えすぎるよ!!ただのお茶会だから!そんなのないから!」
「んだよ、せっかくのチャンスを無駄にすんのか」
「何のチャンス!?」


銀さんは将軍様と二人きりでお出かけすることにたいしては全く無関心だ。心配とか…あわよくばヤキモチとかしてくれないのか、っていやいや何考えてるの私!この頃だんだん欲張りになってきてる気がする。そばにいれるだけで幸せなんだから、と自分に言い聞かせた。


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