スナックすまいるにて

来たる約束の月曜日。お腹はなんとか完治した。
スナックお登勢は休店日。銀さん達には、お妙ちゃんと遊びに行ってくると言ってある。スナックすまいるに行くとは言うなとお妙ちゃんに言われていたから、場所がどこだとは言っていない。銀さんはソファに寝転んでジャンプを読みながら、ふーん、行ってくればと送り出してくれた。
そして今。私は地図を辿って着いた目的の建物を目の前にしてぽけーっと立っていた。


「スナック、すまいる……ここだよね、お妙ちゃんが働いてるところ」


なんだか、ちょっと雰囲気が入りにくい。でも怖がることなんかないはず。よし行くぞ、と足を踏み出す。ほんの数センチ扉を開け、顔を覗かせる。すると、誰かと話をしているお妙ちゃんを見つけた。


「お妙ちゃん!」
「…あら!いらっしゃいにゃんこちゃん!」


私を見るなり嬉しそうに駆け寄って来てくれた。その後ろから話をしていた何人かの女の人も着いてくる。皆綺麗に着飾っていて、お妙ちゃんも普段よりも可愛い。


「約束通り来てくれたのね!嬉しいわ」
「この子がお妙が言ってた子?確かに可愛いわ。さすがお妙、いい目してるわ」
「そうでしょう?私の目に狂いはないのよ。さ、早速準備しましょ!」


え、とぱちくりとしていると、にっこり笑ったお妙ちゃんは私の後ろに回って背中を押した。


「ど、どこ行くの?遊ばないの?」
「遊ぶにも準備が必要よ。私がもっとかわいくしてあげるわ」
「ほら、おいで!にゃんこちゃん!」


腕を女の人に引っ張られ、背中はお妙ちゃんに押され、半ば強引に奥へ奥へと進んで行った。そして入った部屋に閉じ込められる。何が何だかわかっていない私を鏡の前に座らせ、鏡越しににっこり笑った。


「良いって言うまで動かないでね?瞼を閉じていて。変身させてあげるから!」


そして、次に目を開いて鏡に映る自分を見たときには、自分では無いんじゃないかと疑うほどに別人と化していた。しっかりとしたメイクは、背伸びした睫毛と淡い桃色の頬、ぷるんと艶めく唇。それらを引き立てるアップにした髪型。今の私はお妙ちゃんにも見劣りしない。


「す、すごい…私じゃないみたい、お化粧の力すごいわ」
「お化粧じゃなくて私がすごいのよ。元がいいからよ。うん、上出来!」
「可愛いわ!にゃんこちゃん!ほら、衣装はこれよ!」
「え、着物まで?」


それまで着ていた着物を剥がされ、華やかな着物をあっという間に着せられる。可愛い、と褒められて思わずはにかむと、お妙ちゃんは私の手を引っ張って立たせた。


「さあ、にゃんこちゃん。これから、私たちと一緒に、お客様と遊びましょう。今日いらっしゃるお客様は特別なの。ご機嫌を損なわないように、とりあえず愛想良く笑ってお話してればいいわ」
「ええ!?待ってお妙ちゃん!どういうこと?私、接客するの!?遊びに行くんじゃなかったの!?」
「これが遊びよ。それに接客ってほどでもないわ。楽しくおしゃべりすればいいだけよ。私も一緒だし大丈夫、ね?」
「え、え…!」


だ、騙された!?今気づいてももう手遅れ。にっこり笑ったお妙ちゃんにぐいぐい引っ張られ、進んでいくのだった。





「お客様のご来店よ!ほら、にゃんこちゃん。お出迎えするわよ!」
「あ、はい…!」
「緊張しないでいいわ。とっても大切なお客様だけど、普段通りでいいのよ」


にっこりと言い聞かせられ、頷く。何が何だかわからないが、もうここまできたらやるしかない。普段通りで、楽しくおしゃべり。それだけすればいいことだ。自分に言い聞かせ、ゆっくりと開いていく扉を見つめる。


「「上様〜!ようこそいらっしゃいましたっ!」」


ずらりと並んだ店員が、声を揃えてそう言った。私だけが、この状況に取り残されている。
黒い服を着た男の人達を引き連れて、先頭を歩いて来たのは、いかにも身分の高そうなきりっとした男性。大切なお客様って…上様、って………まさか、将軍んんんんん!?


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