腹痛で

ものすごくお腹痛い。


「だから言ったでしょう、何で食べたんですか!」
「勇気あるナ、にゃんこ…」
「バカかァァ、アレを見て何で食べようと思ったんだよ!」


口々にそう言われて何も言い返せない。床に転がってううう、と唸るばかりだ。

先程、お妙ちゃんの手料理を完食して来た。あの黒い物体を。見た目だけで食べる気は失せたが、出されたのに食べませんはダメだと思った。これは食べるしかないと、思いきり口に掻き込んであまり味わわないようにして飲み込み、さっさと帰って来た。
道中はなんとか無事だったのだが、帰ってきて玄関すぐの廊下で倒れてしまった。そして今に至り、お腹が大惨事である。
例えるなら、猫時代にゴミ箱から漁った腐った卵と腐った魚を同時に食べてしまって、慌てて飲んだ水が泥水だったときのようだ。つまりヤバイ。
しかし、お妙ちゃんは完食されたことに感動していて嬉しそうだったので、良いということにしておこう。


「お前なー、そんなんじゃこれからやっていけねェぞ。かぶき町は普通の町より物騒なんだからな、女の頼みくらい断れねェなら詐欺にでもあって身ぐるみはがされてしめェだぞ」
「で、でも…お妙ちゃん、食べてもらえて嬉しそうだったから…私後悔はしてない!」
「にゃんこは優しいアルな!」
「でも、やっぱり完食はさすがに…」


大丈夫、と言い返そうとしたが、ぐぎゅるぎゅる、とお腹の中で卵の残骸が暴れまわって言えなかった。


「完食してこれくらいで済んだのが逆にすごいですよね」


呆れたような感心したような新八くん。だって野良猫だったし、胃袋はそれなりに鍛えられてましたから。
銀さんがボリボリと頭をかく。


「とにかく、出すもん出さねェと。トイレにでも行って吐いちまえ」
「ここでリバースするくらいだったら銀ちゃんの上で吐くヨロシ」
「何もよろしくないからね!!」
「い、今は…吐くことも、出来ない…」


やっとのことでそう言ってお腹を抱え直す。すると、銀さんが私をゆっくり抱き上げた。ばっと顔をあげる。


「とにかく、布団に移動すんぞ。あったかくすれば少しは違うだろ。新八、布団」
「はっ、はい!」


口をぱくぱくして私を抱き上げる銀さんを見つめる。うわあああやっぱり猫の時と全然違う!もっとドキドキする!心臓も暴れ出し、腹が痛いのか胸が痛いのか、私フルボッコである。


「あと、何かして欲しいことは」
「な…ない、です」


どもりながらもそう言うと、どもるほどキツいのかと心配された。
新八くんが用意してくれた布団に入り、お腹を抱えるようにして丸まる。相変わらず痛みはあるが、ほんの少し和らいだ気がする。

そのとき、ガララと玄関から音がした。誰かが来たのだろう。


「姉上!」
「あら、新ちゃん。銀さんいるかしら」


まさかの本人登場だ。私は立ち上がろうとする銀さんに私がお妙ちゃんの料理のせいでこうして寝込んでしまっていることは言わないで欲しいとこそっと言う。銀さんはわーったよと小さく返事をして部屋から出て行った。


「よう。何しに来やがった、お妙」
「あら、にゃんこちゃんは?さっきのお礼を言おうと思ったのだけど…まあいいわ。コレを持って来たの」
「んだこれ。キャットフード?」


布団をかぶっているのでくぐもって聞こえるが、お妙ちゃんはキャットフードを届けに来たのだ。冷や汗をかきながら耳を澄ます。


「お利口な猫ちゃんにあげてほしいの。猫ちゃんに一度お世話になったから、そのお礼にね。銀さん、懐かれていたわよね?今度会ったら食べさせておいて」
「わかった…と言いてェが、そういやこのごろ見かけてねェよな?あの猫」
「そういえば見てないアル…って、"あの猫"じゃないアル、にゃんこネ!」


あああ、神楽ちゃん!!名前言っちゃった!疑われること間違いなしなのに、と一人うな垂れる。案の定、お妙ちゃんは不思議そうに問うた。


「にゃんこ?あの猫ちゃんはにゃんこっていう名前なの?」
「うん!私がつけたアル。可愛いでショ?」
「にゃんこちゃんと同じ名前なのね。偶然だろうけれど」
「そういやそうですね。気づかなかったなあ」
「言われてみればそうだな」
「そういえば…にゃんこさんが住み始めてから猫も来なくなったような気がするんですけど」
「そう言われてみれば…そうアルか?」


ああ。みんな気づいてしまった。余計なことまで。違和感に気づくのは時間の問題か?とはらはらする。いや、もう気づいているのかもしれない。その証拠に、新八くんがつぶやいた。


「偶然にしてはすごいですね」


そんなの偶然だよと言いたいが、お腹は相変わらず痛いし話を聞くことしかできずにもどかしい。すると、呆れたような銀さんの声がした。


「何お前、不思議そうにしちゃってんの?ただの偶然に決まってんだろォが。それとも、何?にゃんこがあの猫だとでも言いたいんですかァ?どっからどう見たらあれが猫に見えんの、そのメガネでちゃんと見ろダメガネ」
「わっ、わかってますよ!!そこまで言わなくても!!」


銀さんがそう言ってその話は終わった。ほっと息を吐く。なんとかギリギリでばれてない。危なかった。銀さんナイスフォロー、まあフォローしたつもりではないだろうけれど。
その後、またお腹の痛みの波がやってきたので、銀さんがとりあえずキャットフードを受け取ってからは聞く余裕がなく、覚えていない。


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