スナックお登勢
「にゃんこです。よろしくお願いしますっ」
勢い良くお辞儀をする。
お登勢さんとたまさん、それからキャサリンさんは迷惑そうにすることなく、明るく歓迎してくれた。
「記憶喪失かい。そりゃ大変だねェ。困ることもあるだろうね、なんかあったら言いなよ」
「にゃんこ様ですね。インプットしました」
「フン、チョットカワイイカラッテ調子ニ乗ルンジャネーゾ。イイナ、私ガ上司ダカラナ。ナンデモ相談シロヨ」
快く(?)歓迎してくれて、本当に助かる。初対面じゃないんだけど、今の私は人間。初対面なんだから、発言には気をつけないと。たった今知り合ったのを装う必要があるというわけだ。
「これから、お世話になります。万事屋さんに居候させてもらって、万事屋従業員兼ここのバイト、という感じになります」
「分かったよ。にしてもアンタ、礼儀正しいねェ。久しぶりにアンタみたいな奴に会ったよ。ここらの奴らはみんな馬鹿ばっかだからね」
「ソウソウ、馬鹿バッカ」
「アンタもだろ」
お登勢さんが感心したように言って、キャサリンさんが頷いた。
本当は礼儀正しくなんてわからないし、敬語なんて使い慣れてない。態度も人間の見よう見まねだ。でも、お登勢さんにはいつもお世話になっていたから、少しはきちんとしたいだけだ。
お登勢さんが声をかける。
「あんた、着物ないんだろ?お古で良けりゃやるよ」
願ってもない申し出だ。そう、着物。困っていたのだ。着るものがないとどうしようもない。今は、銀さんが貸してくれた寝巻き用の着流しを着ているものの、大きいし、みっともないと思っていた。
「いいんですか!?ありがとう…!」
「お安い御用だよ」
そのとき、ガララと扉が開いた。まだ開店前だというのに、誰だろうと振り向くと、そこにいたのは、いつか会った美人なお姉さんだった。
「あら、今来ちゃいけなかったかしら?」
「おはようございますお妙様」
「お妙じゃないかい。いや、大丈夫だよ」
いつかひったくりにあっていたお姉さんだ。あのときは少し、というかだいぶ怖い印象だったけど、今は全然違う。優しそうで穏やかだ。目が合って、ぺこりと会釈した。
「どなた?」
「銀時が拾って来た女さね。記憶喪失で倒れてたらしい、にゃんこっていうんだ。ここのバイトさ、良くしてやってくれ」
「はじめまして、万事屋さんにお世話になってます。よろしくお願いしますっ」
「そうなの。そこで働いてるメガネの奴の姉よ、お妙っていうの。年も近いみたいだし、仲良くしましょう。敬語もいらないわ」
「メガネ、って、新八君…?そうなのね!よろしく」
にっこりと笑うお妙ちゃん。前と変わらない笑顔だ。まさか新八君のお姉さんだったとは。世間は狭い。
「さ、とりあえず見なりからだ。こっちへ来な」
お登勢さんから手招きされて、小走りでついていく。
たくさん着物をもらって、着付けも習って、働くことも教えてもらって。覚えきれないほどだが、どれも楽しくてすぐ覚えられそうだ。
せっかく人間になれたのだから、お登勢さん達に恩返しをしたい。少しでも手伝えたらいい。またスナックお登勢での仕事を覚えなければならないが、猫の頃に飽きるほど眺めていたので少しは役にたてそうだ。アルバイト、頑張ろうと思った。