万事屋での目覚め

ゆっくりと目を覚ますと、銀さんの寝顔が目の前にあった。


「っ!?」


一瞬で覚醒した。
どどどどどっ、どういう状況なのこれはっ!ちっ、ちっか!!寝息がっ、顔にかかる!


「…んう」


もぞ、と銀さんが動く。すると、足が当たった。身動きして触れるほど近いのだ。
こんな近さ、猫のときはなかった。そうだ、私人間になったんだ。嬉しい…けど、この近さには耐えられない。


「ぎぎぎっ、銀さん。あの、近…」
「…んー…?」


寝ぼけた銀さんがぎゅっと抱きしめて来て、私の首に顔を埋めた。ちょっ、わ、私にはまだハードルが高過ぎるよ…!!こんなこと初めてで、どうしたらいいのか分からない。
固まっていると、ガラッとふすまが開けられた。


「朝ですよ、いいかげん起きてください………って、なにやってんのォォォ!?」


新八君だ。朝っぱらからキレのあるツッコミだ…びっくりした。いや、それよりも!


「た、助けて新八君…っ!」
「んあ…?」


涙目で訴えると、新八君はがってんとばかりにすぐさま寝ぼける銀さんをはがしてくれた。


「ちょっ、銀さん!にゃんこさんになにしてんですか!」
「あ、ありがとう…っ」


とにかくホッとして、胸を撫で下ろす。すると、押し入れが勝手にあいた。


「何の騒ぎネうるさいアルな…」


寝起きの神楽ちゃんが目をこする。そんなとこで寝てたのね。


「銀さんがにゃんこさんにふしだらなことを!!」
「この腐れ天パァァァ!」


押し入れから身軽にジャンプしてどごっと飛び蹴りをくらわす。銀さんがうめき声をあげた。い、痛そう…。


「ぐはぁ!な、なにすんだ神楽!起こし方が過激すぎるだろてめェ!」
「なにすんだはこっちのセリフネ!!昨日会ったばっかりのにゃんこになにしたアルか!」
「あ!?」


銀さんは起きたばかりで頭が働いていないらしい。神楽ちゃんと新八君がなにを言っているのかよくわからないけど、銀さんは何もしてない。抱きついて来ただけなのでとりあえずフォローにまわる。


「め、目が覚めたら隣にいて、抱きついて来られただけよ。だから大丈」
「抱きついてんだろォがァァァ!」


私を遮って神楽ちゃんがパンチを放つ。あっ抱きついたのがアウトなのね。銀さんはやっと理解したかのようにポンと手を打った。


「あ…!いや、それはだな。昨日にゃんこを先に寝かせただろ、んでにゃんこをこっちに寝かせたら俺はソファに寝ないといけねーんだけど、やっぱこっちがいーなーと思ってこっちに寝たわけ、んでさっき夢の中でやわらけーなんかに抱きついてたんだけども、あれってにゃんこだったんだな、いやーごめんごめん」
「もっと簡潔に言えやァァァ!」


荒れた神楽ちゃんを新八君がなんとか落ち着かせる。銀さん、ソファで寝ないといけなかったのか。私がいたから。申し訳なくて謝ったら、いーからいーから、と言われた。やっぱり優しい。きゅん、とした。




ご飯の前に座った。新八君が作った朝食はとても美味しそうだ。
ご飯と、お味噌汁、卵と、小さいお魚。人間の食卓は初めて食べる。興味津々だ。匂いもいいし、魚がとっても美味しそうだ。魚が。


「「いただきまーす」」


銀さんたちの真似をして、手を合わせる。食べるときの合図なのだろう。そして、いざ食べるとなって、動きを止めた。


「どうしたんですか、にゃんこさん?」
「新八のご飯まずかったアルか?」
「ううん、そうじゃなくて…」


二本の、おはしが使えないのだ。どうやって持つのこれ?これで食べるの?五本の指で操れるの?とりあえずぎゅっと持ってみたが、隣の銀さんのように魚が切り分けられず、突き刺したら身が崩れた。食べられないです。
銀さんたちはきょとんとしていたけど、まず銀さんが口を開いた。


「箸、使えないのお前?」


こくりと頷くと、新八君が神妙な顔で言った。


「そういう生活面の基本的なことも忘れちゃったんですかね。それじゃ、今から大変ですね…とりあえず、これでご飯を食べてください」


差し出されたのは、フォークとスプーン。これで食べろということか。これなら食べやすそうだわ。魚をスプーンのへこみに乗せて口に入れた。


「…!美味しい」


お登勢さんにもらっていた魚より美味しい。人間って、こんなに美味しいものを食べていたのか…!もぐもぐ、ごっくん。目を輝かせる。


「お前…魚好きなの?」
「うん…!魚好き!」


にっこりして頷くと、銀さんは面白そうに笑った。ご飯もお味噌汁も、美味しい。興味津々で全てを食べ切ると、神楽ちゃんに頭を撫でられた。


「にゃんこ、大人だけど子供みたいアルな!」


頭を撫でられて、嬉しくなるのは元猫の性だ。目を細めて手に擦り寄ると、神楽ちゃんはにっと笑ってもっと撫でてくれた。


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