新たな住まい

万事屋銀ちゃん。人間の目線は猫なんかよりとても高いから、初めて来たような感覚だ。
バスタオルを貸してもらい、体を拭いて、さらに借りた毛布にくるまってソファに座っている。
とりあえず万事屋に連れて来てもらったものの、自分でもまだ状況が飲み込めずにぼーっとしていると、目の前にマグカップが置かれた。


「どうぞ。寒くないですか?」


新八君が覗き込んで来る。


「あ…ありがとう。大丈夫よ」


やっぱりふつうに喋れている。喉に手を当てた。…向かい側に座る三人からの視線が痛い。神楽ちゃんが私を指差して銀さんに聞いた。


「で、こいつ誰アルか。銀ちゃんこんなキレイなねーちゃんに何したアルか。何かしたから裸なんだろーが。変態アルな。見損なったアル」
「なんで俺のせいみたいになってんの!?道路でこいつが震えてたから優しい優しい銀さんが連れて来たんじゃねーかよ」
「それはさっきも聞きましたよ。でも、なんで道路にその…は、裸でいたんですか」
「知らねーよ。俺に聞くな」


そこまでやりとりすると、三人が私を見る。飲んでいたココアを置き、ゆっくりと口を開いた。


「私…は、」


次の言葉に迷う。猫だったんですけどいきなり人間になりました、なんて正直に言っても、信じてもらえないし引かれるに違いない。かと言って、他になんて言えば…
俯き、視線をおとすと、新八君がハッとして言った。


「も、もしかして記憶喪失とかじゃないですか…?」


がばっと新八君を見る。それだ、それがあった!それで貫き通すしかない。


「そ、そうみたい!えっと…、あんまり記憶がなくて…なんであそこにいたのか、どこから来たのか、覚えてなくて…」


とりあえず、こんな感じで言っておけばいいのかな。しどろもどろになりながらも説明していると、さらに新八君が助け舟を出した。


「天人が誘拐して、いらなくなったから記憶を消して身ぐるみはいで捨てた、という感じかもしれませんね。天人ならやりかねませんし、裸だった理由になります」


新八君ぐっじょぶ…!!後光がさして見えるよ…!!内心拍手喝采だったが、表情には出さずに不安そうに曖昧に、こくりと頷いておいた。


「なるほどなあ。…名前は分かるか?」
「名前も忘れたアルか?」


名前と言われて、つい口から出たのは、猫のときに神楽ちゃんにつけられた名前だった。


「にゃんこ…」
「にゃんこ?偶然アルな、にゃんこって名前の猫がいるネ!」


ギクリとする。それって私の事なんだけど。
神楽ちゃんはなんとはなしに言った言葉だったようで、その話はそこで終わった。


「銀さん、どうするんですか、にゃんこさん。行くあてないですよ、このまま雨の中追い出すんですか?」
「そんなのかわいそうアル!」


二人が銀さんに迫る。銀さんは困ったようにボリボリと頭をかいた。


「つってもよー…ウチの家計は火の車なの知ってんだろーが。車燃え盛ってんだぞ。三人と一匹で手一杯なの、養える訳ねーだろーが」
「大丈夫アル、にゃんこは万事屋の従業員しながら下のババアんとこのバイトもやればいいネ!」
「それに家事とかしてくれたら僕も助かります。一人でやるの大変ですから」


銀さんの袖を引っ張る神楽ちゃん。こんなに二人が助けようとしてくれてるんだ。私だってアピールしなくちゃ。


「私、なんでもやります!だから、ここに置いてください!」


ばっと頭を下げると、銀さんはわかったわかった、とため息混じりに言った。


「仕方ねェな…にゃんこ。身元が分かるまで万事屋にいろ」


ぱっと顔をあげる。新八君と神楽ちゃんが嬉しそうに顔を見合わせた。


「いいの…?」
「仕方ねェだろ、裸の女をこの雨の中放り出す訳にもいかねーからな。女一人増えたところで変わりゃしねーよ」


やっぱり銀さん優しい…!ホッとしたのと惚れ直したのと嬉しいのとで、涙が出そうだ。もう一度頭を下げた。


「ありがとう!」
「ん。俺は坂田銀時、銀さんな。こっちのは神楽で新八。あと、でかい犬が定春。万事屋の従業員兼下のババアんとこのバイトって事でいいな?」
「…うん!本当にありがとう。お世話になります…!!」


ということは。これからは、万事屋の人間として憧れだった銀さんと一緒に過ごせるんだ。
満面の笑みで銀さんに向けたのだった。


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