万事屋に入る

今日は思いきってスナックお登勢の二階である銀さんの家に行ってみることにした私。玄関まで来たのはいいんだけど、どうするか悩む。勝手に入ると、あまりにもおこがましい…よね。私はとりあえず野良猫だから、嫌かもしれないし。かと言ってここでずっと立ち往生しておくわけにも…
玄関の扉を見つめて考えていると、扉が急にガラッと開き、騒がしい音と共に眼鏡をかけた綺麗な女の人が銀さんに蹴られて出て来た。


「てんめーっさっさとどっか行きやがれ!今度は俺のパンツ漁りやがって、もう我慢ならねェ!!」
「ああんっ痛いわ銀さん!そうよ、もっと私をいじめなさい!」
「気持ち悪いんだよ!!」


ぶつかりそうになり、さっと避ける。なんなんだ。銀さんから強く蹴られ、眼鏡を落としてしまった女の人。


「あっ、眼鏡眼鏡…」


四つん這い、手探りで眼鏡を探す。その眼鏡はちょうど私の足元に落ちていたので、前足で押して差し出した。すると、女の人はすぐさま眼鏡をかけ直して、ふう、と息を吐き私を見た。


「よし、眼鏡完了。ありがとね、猫。って、猫?」
「にゃあ」


返事をすると、銀さんはその鳴き声でやっと気づいて私を抱き上げた。


「お、今日はウチに来たか。よーしよし。そんな奴の近くにいたら納豆の匂いが移るぞ」


きゃああああ銀さんに抱き上げられたァァ!内心心臓ばっくばくだ。何気に初めてなんです。ていうか、納豆?


「銀さんなんなのその猫はっ!その猫とこのごろ仲がいいじゃないの。私はいつだって見てるんだからね!」
「ストーカー行為を堂々と当たり前のように言うな」
「銀さん、私という人がありながら…!猫にうつつをぬかすなんて!」
「殴っていい?殴っていいよね?」
「銀さんに抱き上げられるなんて、羨ましい事山のごとしじゃないのォォォォ!」
「知らねーよ!!」


また蹴られる。ああ痛そう。ガララッ、ピシャン!と玄関を閉め、銀さんはため息混じりに私を撫でた。銀さんはゆっくり私を降ろして、ふああ、とあくびをした。


「あー、眠ィ。ちょっと昼寝でもすっか」
「!」


銀さんと!昼寝っ!ソファに仰向けに寝転がった銀さん。銀さんが促すようにチラリと目配せしたので、ぴょんとジャンプして胸に飛び乗る。勢い余って銀さんがぐえっ、と呻いたけれど気にしない。ああ、幸せすぎます。ゆっくりと上下する胸の上で、目を閉じた。
が、すぐに目を覚ました。なぜかというと、気配が近づいて来たのが分かったから。その気配というのは、今さっき追い出されたはずの女の人で。目が合って、女の人はしーっと口に指を当てた。


「起こしちゃだめよ。今から天井裏に忍び込むんだから」
「………」


まるで忍者みたいだ。その女の人は、しばらく寝顔を見つめてから、私に言った。


「愛しい銀さんは私のものよ!相手が猫だろうと、容赦しないわよ。猫なんかが私と銀さんの間に入ろうなんて、無駄なんだから。猫は猫らしく、ニャーニャー言ってなさい!」


そう言い残して、去って行った。私はしばらくぽかんとしていたけど、言葉の意味を理解して心臓がずくりと痛んだ。
そうだ、私は所詮猫で銀さんは人間。そんなこと、このまえミケちゃんに言われたばかりだし、知っていたけど。あの女の人は銀さんの恋人なのかな…
心地よいぬくもりが、なんだかとても遠く感じた。


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