依頼を手伝う

「にゃんこちゃーん」


カウンターで寝ていた私に愛しい声が降って来る。
一瞬で覚醒した私。がばっと飛び起きると、目の前にニヤニヤした銀さんがいた。新八君と神楽ちゃんもいる。


「ちょーっとばかし、お前に手伝って欲しいことがあんだけどよ」
「にゃんこにしか出来ないことアル」


私にしか出来ないこと?銀さんの頼みならば、なんでもやります!


「今さっき、依頼が来てよ。猫を探して欲しいって依頼なんだよ」
「それで、同じ猫だし、探すのを手伝って欲しいなと思ったんです。もしかしたら友達とかかもしれないし」
「いつも構ってやってんだろ?な、頼むよ」


猫探しのお手伝い。どうせ今日もヒマだし、銀さんの頼みだし、私の返事は決まっていた。たん、とカウンターから降りると扉へ向かいながらにゃあと鳴いた。


「手伝ってくれるアルか!」
「うっし!んじゃいくぞ!」
「良かった、早く終わりそうですね!」


期待に応えられるよう、がんばらなくちゃ!張り切ってスナックお登勢を出た。


*


新八君の説明によると、三毛猫のミケというらしい。
メスで、お上品な感じの猫。首輪は赤。家出なんかしない猫なのに、門限通りに帰らないそうだ。
銀さんは門限を守らなかっただけで過保護だ、と言ったけれど、とにかくおかしいから探して欲しいということだったらしい。
なんと、その猫は私の友達だった。ミケちゃんと私は野良と飼い猫だけど、結構な頻度で一緒に遊んでいた。このごろは会っていないなあ、スナックお登勢に入り浸りだったから。
銀さんが急かすものだから、急ぎ足でいつもミケちゃんと会っていた公園へ。果たして、いるのだろうか。


「……」


いない。…いや、正しくは…今は、いない。匂いと、足跡が残っている。それを辿って歩き回る。


「オイオイ、いねェじゃんかよ」
「でも、にゃんこの他はあてもないですから」
「にゃんこを信じるアル!」


銀さん達も、公園のあらゆる所を探し回る。私はミケちゃんの形跡がある所で途切れているのに気がついた。不自然な途切れ方に違和感。もしかしたら_____
銀さんの方へ走る。


「お!?いたか!?」


嬉しそうな銀さんの足元で、ぶんぶんと首を降り、ひっきりなしに鳴く。


「にゃーにゃーにゃーっ!」
〈ミケちゃんは、もしかしたらさらわれたのかもしれない!〉
「何?何、どうしたにゃんこ?見つかんねェのか?」
「お腹空いたアルか?」
「いや違うでしょ」
「みゃあお!」
〈誘拐されたんだわ!〉


なかなか分かってもらえない。もういい、とにかく探す!
勘に頼って公園を出ると、一台のワゴン車が出るところだった。その車からは、かすかに猫の振り絞ったような鳴き声が聞こえた。


「ニャーッ!」
〈あれだわ!!銀さん!〉


銀さんを振り返り、鋭く鳴いて今にも出発しそうな車に飛びかかった。天井に飛び乗り、ふしゃーっと威嚇する。


「…!よくやった!後はまかせろ!」


銀さんは木刀を腰から抜き、だんっと地面を蹴った。

ドガシャァァアン!!!

車のフロントガラスを叩き割り、そのまま運転手と隣の席の間に木刀を振り下ろした。あまりに突然の事で、乗っている奴らは悲鳴さえ出ない。


「猫誘拐たァいただけねェなァ、オイ」


銀さんはニヤリとして木刀を引き抜く。私は車から降りて、窓ガラスを割り、中に飛び込む。


「ニャーッ!」
〈ミケちゃん!〉


ミケちゃんは、顔だけ出されて黒い袋に入れられていた。袋をツメで引き裂くと、ミケちゃんは袋から出て驚きながらも嬉しそうに私を見た。


「にゃー!」
〈にゃんこちゃん!良かった…!ありがとう!〉
「にゃっ」
〈無事で良かった、とにかく出よう!〉


割れた窓を飛び越え、車から出る。すると、神楽ちゃんと新八君が駆け寄る。


「ミケちゃんアル!さすがにゃんこネ!」
「二人とも…じゃないや、二匹とも大丈夫?」


ブロロロ、とボロボロになった車がどこかへ発車して、銀さんが頭をかきながら戻って来た。


「ったく、どこまでもクソな奴らもいたもんだな。ま、これにて解決。報酬ぶんどるぜ」
「最後の一言で台無しです!!」
「それが銀ちゃんアル」


神楽ちゃんがしらーっと銀さんを見るが銀さんは気にせず、ありがとな、と私を撫でた。役にたてたようだ。目を細めてごろごろと喉を鳴らした。


「にしても…ひでー目にあったな、ミケちゃん」


ミケちゃんは顔をあげて、にゃあと一鳴き。もう落ち着いたようだ。よしよし、と乱暴にミケちゃんの頭を私にするときのように撫でて、けーるか、と言うと歩き出した。私も銀さんを追おうとしたとき、ミケちゃんがぽつりと言った。


「…みゃーお」
〈あの人、とても優しいわね。ちゃらんぽらんだけど。〉
「!」


ミケちゃんの目がいつもより優しくて、ぎくりとする。ミケちゃんに慌てて声をかけた。


「にゃん!」
〈好きになっちゃ駄目だよ!?〉
「にゃー。…みゃ?」
〈さすがに人間を好きにならないわよ。もしかして、あなた、あの人に惚れたの?〉


ドキッとして、俯く。無言の肯定に、ミケちゃんは呆れたようにため息を深く吐いた。


「…にゃ、にゃん」
〈誰に惚れようがあなたの勝手だけど、猫と人間なんて、叶うはずないのに。〉


…知ってる。知ってるけど、わかってるけど…
図星をつかれて、背中を丸めた。


「にゃあ」
〈ごめんなさい、でも本当のことよ。〉


そう言って、たっと銀さんを追うミケちゃん。私はしばらく俯いていたけど、やがてゆっくりと歩き出したのだった。


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