落ちる、落ちる

それは、久しぶりの大雨の日の事だった。
ここ何週間か、雨は全く降っていなかった。今日、突然に大粒の雨が降って来て、人々はみんな大慌て。予報では、今日も晴れだとなっていたのだから、傘なんて持って来ているはずもない。それも、夕方ごろで帰宅ラッシュ。家路を急ぐ人でごった返していた。
もちろん私もその中の一人…いや一匹だ。私は野良猫だけど、変な所で寝たくない。濡れるのは嫌だったけど、ガードレールの上を走ってすみかとしている場所まで一目散に走っていた。

そのときだった。

ガードレールは濡れきっていて、さらに筒型、ただでさえ足場が悪い。そのうえ、その横には増水した川があった。
早く帰りたい一心で、油断しきっていた私。あろうことか足を滑らせた。


「にゃっ!」


そのまま川にドボン。うかつだった、なんてことだ。本当に、私とあろうものが、情けない。冷たくて、一気に体の芯まで冷え切ってしまった。
増水した川じゃ、泳ぐことも出来ずにもがく。しかし、人々は気づかない。
なんとかもがきながらも、川端に近づく____が、波が来てまた遠のいた。


「…っ!!」


一際大きい波が襲った。もう、だめか…?
そんなことさえ考えて、うっすらと閉じかけた瞳に映ったのは_____銀色、だった。


「…っぷは。オイオイ、大丈夫か?生きてますかー?」


咳き込み、ぐったりする私の頭をぺちぺち叩き、両手にしっかりと抱えるその人間は、いつだったか、お登勢さんの所にいたあの銀髪男、"銀さん"だった。
助けて、くれたの…?
川から出ながら、私を優しく撫でた。


「もう大丈夫だ。気ィつけろよ」

「…!」


なんで助けてくれたの?増水した危険な川に飛び込んでまで…猫なのに…
聞きたい事はあるけど、そんなこと、どうでもいい。
冷え切った体に腕のぬくもりが伝わって来て、優しいあたたかさに涙が出そうになった。
この感情は何なんだろう。猫が持つことはない感情。ぽかぽかして、どきどきして、体は冷えて冷たいのに心は熱い。こんな感情、私、知らない。

そのとき、確かに、

恋に落ちる音がした。


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