当真師匠に呼ばれて基地まで全速力で移動するが、残念なことにトリオン体だというのに私の機動力は凄まじく低く、呼ばれたのに目的地までまだ時間がかかりそうである。このあと大仕事が待っているだろうというのにテレポーターを使うにはトリオンが勿体無いし、とにかく早く走らなくちゃと走っていると、天の助けの声が聞こえて来た。

『おーい、瑠花ちゃん。こちら冬島。遅れてごめんな〜』
「えっ、ふ、冬島さんっ!?」
『屋上までまだ距離あんだろ?ワープさせてやるから、ちっと待ってな』
「ええっ、ワープ…!?た、助かります…!!」
『おう、足元にマーカー出たらタッチしてくれや』

間も無くして、キンッと足元に現れた冬島隊のマーク。腰を下ろしてタッチすると、浮遊感を感じたと思ったら次の瞬間には屋上にいた。ひえええ便利すぎる…!!助かった…!!
イーグレットを担いだ当真師匠が私にひらりと手を振った。

「おーやっと来たか。おっせーぞー」
「すす、すいません、冬島さんがワープさせてくれてやっと…!」
「隊長もっと早くやれっての。まあいいや、こっちこっち」

当真師匠に手招きされるままに端まで走る。

「向こうに人型近界民がいるらしいんだが、視てみ」

指し示される方を視ると、住宅街の家々に阻まれた向こうにサカナのような物体が空中を泳いでいるのと、人型近界民がいるのが確認できた。

「み、み…視えました、あれは……」
「敵のボスだってよ。とりあえず出水がそろそろ付近の建物一掃するから、射線通ったら撃つぜ」
「えっ、でもサカナが邪魔で…」
「何言ってんだ、それをかいくぐって撃つに決まってんだろ?」
「えええええ」

さも当たり前のように当真師匠が言う。しかしあのサカナの大群をかいくぐって狙撃なんて、当たる気皆無なんですけど。

『蒼井、こちら奈良坂。俺たちもいる、大丈夫だ』
『蒼井さん、頑張りましょう!』
「!奈良坂先輩、古寺くん…!!」

内線から聞こえて来たのは、三輪隊の狙撃手二人。心強いことこの上ない。当真師匠が私の頭をがしがしと乱暴に撫でる。

「そんなに心配しなくてもだーいじょうぶだっての。師弟の力を見せつけてやろうぜ」
「は……はい!!」

嬉しい一言をもらって、不安はあっという間に消えてしまった。そうだ、当真師匠がいるなら、何も怖くない。ぐっと前を見据える。
出水先輩がメテオラで付近の建物を爆破する。さすが出水先輩、規模がでかい。更地と化した近界民の周りは射線が通りまくりだ。直後奈良坂先輩が一発当て、腹部を大きく削った。

「サカナを避けて的に当たるゲームか、いいねえ」
『遊びじゃないですよ当真先輩!』
「うーるせえな章平、物の例えだっての」
『遊びでもいいからちゃんと当ててね、当真くん』
「わかってるってば、蓮さん。俺たちにかかれば楽勝だぜ、なあ奈良坂、瑠花」

当真師匠の不敵な言葉を聞きつつ、スコープを覗く。大群と化したサカナとサカナの隙間を正確に狙うのは確かに、難易度が高いけれど。隣に当真師匠がいて、奈良坂先輩も古寺くんもいる。怖がることなんて何一つない。

『当然だ。あの程度では、防御のうちに入らない』

奈良坂先輩の声が聞こえた瞬間引き金を引いた。ドンッと音がして、人型近界民の足に命中する。ひええ、当たった!案外やってみれば出来るものだ。当真師匠と奈良坂先輩も当たり前のように命中していて、かなりの傷を負わせた。

「おっ、瑠花もちゃんと当たってんじゃん。さすが俺の弟子」
「は、はい…当たるものなんです、ね…」
『いや普通当たんねえよ!ウチの狙撃手どもは変態だな!』
「ま…また変態って…!!」

出水先輩の声が聞こえてきてショックを受けるが、落ち込んでいる暇はない。次に備えてイーグレットを構えていると、いきなり頭上にぽっかり黒い穴が開き、新型が現れた。あまりの至近距離に現れた、あの異常に強い新型を前にして思わず叫ぶ。

「ぎえっ!?ししし新型!?」
『空間操作…!気をつけて、使い手が近くにいるはずよ』

月見さんの言う通り、黒いツノを頭から生やした美人な女性が私たちを見下ろしていた。わああ黒トリガーの人型近界民!!人型近界民が何人いるのかは知らないが、遭遇しすぎてコンプリートしそうな勢いだ。慌てまくっていると、当真師匠が腰を落として地に手をついた。

「瑠花!ボーッとしてんなよ!…隊長!!」
『はいよ』
「え、あっ…!お、お願いしますっ!!」

そうだ、ワープが出来るのは向こうだけではない。私たちだって出来るということを忘れていた。慌ててかがんで、マークに手をつけると、屋上の全く違う方へワープした。これなら十分な間合いだ。ワープし終えた奈良坂先輩が近界民を捉えて瞬時に撃つが、黒い穴に弾は吸い込まれ、もう一つの穴から奈良坂先輩に向かって弾が返ってきた。あんなことも出来るのかと感心してしまう。

『今下から風間隊と諏訪隊が上がってきてる。待って連携してやろうや』

そこでハッとする。自分のことに精一杯で、風間隊の皆と連絡を全くとっていなかったのだ。

「あっ、あのっ、内線を!三上先輩に繋いでもらえますか…!」

若干青ざめながら蓮さんにそう言うと、すぐに繋いでくれた。

『こちら三上、瑠花ちゃん?大丈夫?』
「みっ三上先輩…!!あの、た、単独行動ばかりしていてすみません!風間隊は…!?」
『蒼井、こちら風間だ。連絡をせず悪かったな、本部に侵入したあの黒トリガーを始末していた。無事終えたぞ』
「ええっ…!!本当ですか!!」
『ああ、お前の読み通りあいつは気体にもなれるトリガーだったようだ。諏訪隊、忍田本部長と連携して無事倒せた。』
「よ…よかったです!すいません、私駆けつけられなくて…!」
『いや、攻撃手じゃないと仕留められなかったからな。気にするな』
「は、はいっ」

私が知らない間にいろいろと大変なことが基地で起こっていたようだった。何はともあれ無事に済んだようでほっと胸をなでおろす。

『今、諏訪隊と菊地原たちがそっちに向かってるが…米屋がC級隊員の避難のためこちらに向かっているから、お前は米屋の援護に向かえ』
「了解です…!」

そう言い終えると、冬島さんのワープで本部基地付近のビルの屋上へ落とされる。米屋先輩に内線で、援護に来ました、と言うと、米屋先輩が嬉しそうな声を上げた。

「瑠花か!助かるぜ、本部の方はいいのか?」
「当真師匠たちもいるので、大丈夫です…!」
「ふーん、なら援護頼んだ!」

ビルの屋上から、米屋先輩とC級隊員に向かってくるトリオン兵を退治していると、だんだんと米屋先輩が本部に近づいていく。
私もそろそろ移動しようと立ち上がると、遠くにちらっとある姿が視えた。あれは。あの人は。

___メガネくんのピンチにお前が居合わせるかもしれない。もしそうなったら、メガネくんを助けてほしい。
___瑠花ちゃんが、今だと感じたときだ。そのときになれば、わかる。

「か……風間さん!!」

ひゅっと息を吸い込んで、大きな声で言った。今、視界に視えたのは、まぎれもなく三雲くん。今視界に入ってきたのは、きっと偶然じゃない。今が、迅さんの言っていたときなんだと確信した。

『どうした?』
「あの…っ、お願いがあります!私に、三雲くんのサポートをさせてください……!!」

ワガママを言っているのは百も承知だ。C級隊員の援護も必要な仕事で、私はそれを指示されたのだから。でも、ここで行かなければ、後悔する気がした。
私が少しでも、迅さんの恐れる未来を回避する助けになれるなら。無理かもしれないけど、少しでも可能性があるなら。相手が黒トリガーだろうとなんだろうと、立ち向かってみたい。

『…いいだろう。行ってこい』
「…っ、ありがとうございます…!!」

すると、内線がぶつっと途絶えたかと思うと、こちら菊地原、という声が聞こえてきた。えええっ。びっくりした。

『三雲の援護って、相手は黒トリガーなのわかってんの?』
「う…うん、でも、…でも、迅さんから頼まれたの…三雲くんの援護を…!私が少しでも力になれるかもしれないなら…!!」

すると菊地原くんは数秒黙ったのち、はあとため息をついた。

『…絶対、無茶しないでよね』
「う、うん…!ありがとう!」

心配してくれていたのだとやっと気づいた。やられたとしても緊急脱出するのだし、そんなに心配いらないのに。でもその気遣いがうれしくて、背中を押された気分になる。
米屋先輩に事情を説明すると、すぐに了承してくれた。ぐっとイーグレットを抱えなおす。狙うのは女性の黒トリガーの方。男性のサカナの黒トリガーの方は、当てても回復できてしまうということがわかってしまったし、この距離からあのサカナをかいくぐるのは難しいだろう。女性の近界民なら、ワープさえ見極めて死角からつけばいけるかもしれない。
ああ、この一撃が、どうか意味のあるものになりますように。祈るような気持ちを込めて、引き金に指をかけた。


闘志を刃に、誓いを胸に


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