「できるだけトリオンは温存しておけ、戦闘が長引くかもしれない」
「了解、ですっ…!」

返事をしつつライトニングの引き金を引く。空中を浮遊するトリオン兵の群れに次々命中すると、地上に落ちたそれらを歌川くんが撃破していく。他方では菊地原くんと風間さんがモールモッドを駆逐しており、各々次々に撃破して確実にトリオン兵を減らしていく。幸い初めて見るトリオン兵としては空中を浮遊する小型トリオン兵”バド”の他には見られず、モールモッドやバンダーなどの慣れた相手が多い。近場のトリオン兵をあらかた撃破し終えるまでにそう時間はかからなかった。

「よし。ここはそろそろよさそうだな」
「移動しますか?」
「ああ。三上、応援が必要そうなところを」
『はい』

そのとき、無線から聞こえてきたのは東さんの声だった。

『新型トリオン兵と遭遇した!人に近い形態で二足歩行、小さいが戦闘力は高い!特徴として、隊員を捕えようとする動きがある。各隊警戒されたし。以上』
「新型トリオン兵…!?」
『この付近で現在諏訪隊が戦闘中。援護に向かったほうがいいかと』

三上先輩が示したレーダーを頼りに視線を巡らせると、諏訪さんたちが見たこともないトリオン兵と対峙しているのが視えた。うさぎのような耳が特徴的だが、そんなかわいいものではなさそうなのは明らかだ。

「み、視えました!諏訪さんたちです…!」
「わかった。急いだほうがよさそうだな、すぐに向かう」
「了解!」

すぐに走り始めた三人について私も向かう。新型の分厚い装甲に苦戦しているようだ。幸いそう遠くない。一刻も早く向かわねばならない。
到着したちょうどそのとき、諏訪さんが新型の手に捕まれたかと思うとその体内へ捕えられた。

「すっ諏訪さん!!」

私が叫んでいる隣で、菊地原くんと歌川くんがすぐに笹森くんと堤さんを助けに行った。ぎりぎりで新型の攻撃を避けることができてほっとする。

「だ、大丈夫ですか、堤さん…!」
「蒼井…風間隊!た、助かった…!」
「さがってろ諏訪隊。この新型は俺たちがやる」

風間さんが本部に、諏訪が新型に食われた、ただちに救出に入ると連絡する横で、堤さんに声をかける。笹森くんは攻撃をうけて気を失っていたようだったが、目を覚ますとすぐに風間さんに言った。

「オレもやります、オレがやられたせいで諏訪さんが…!!」
「俺たちがやると言ったはずだぞ。攻撃手の連携は銃手よりシビアだ。慣れない奴が入ると逆に攻撃力が落ちる」
「でも…このままじゃ引き下がれないです…!!」
「じゃあ勝手に突っ込んで死ね。それでお前の役目は終わりだ」

きっぱりと残酷なまでに言い切った風間さんに笹森くんが返す言葉を失う。笹森くんの気持ちは痛いほどわかる。しかし、風間さんの言い分も正論なのだ。

「おまえは堤さんとほかのトリオン兵を追ってくれ。諏訪さんは俺たちが必ず助ける」
「………了解…!」

歌川くんに言われて悔しそうにそう声を絞り出した笹森くん。本当は自分の手で諏訪さんを救い出したかっただろう。その気持ちは私たちがしかと受け取った。必ず、笹森くんと堤さんに変わって助けてみせる。ぐっと新型を見据える。体内を視るが、諏訪さんの姿はない。しかし代わりに、トリオンキューブが一つ不自然に入っている。もしかしたら、あれが諏訪さんなのかもしれない。

「…か、風間さん。体内に諏訪さんは視えません、代わりに、トリオンキューブが一つだけ…!」
「トリオンキューブ?…だとすると、そのキューブに諏訪がまるごと圧縮されていると考えるのが妥当だろうな。それを回収すればいいわけか」
「そのようです…!」

トリオンキューブの内部まで目を凝らしてみるが、その中には何も視えない。ただのトリオンキューブだ。あれが諏訪さんだとすると、どうやって元の体に戻せばいいのだろう。わからないが、まずはキューブを奪い返すのが先だ。

「三上、この区画のデータを」
『了解です。支援情報を視界に表示します』
「敵の数が多い。さっさと片づけて次に行くぞ」
「「了解!」」

その言葉を合図にバッグワームを起動して狙撃ポイントに移動を始める。笹森くんと堤さんのためにも、絶対に助け出す。待っててください諏訪さん。


連携攻撃で様子を見つつ攻撃する。イーグレットで隙を作ろうと何度か狙撃してみているが、いかんせん装甲が厚くてイーグレットの威力ではかすり傷程度だ。東さんの攻撃記録によるとアイビスでもはじくほどの装甲らしいので、装甲の薄いところを狙わなければあまり意味がないようだ。
突然新型が地面に向かって一発入れた。地割れが起きて皆の動きが鈍る。そこを新型が狙い、菊地原くんに攻撃を仕掛ける。

「うわあ…やだなあ…」
「きく…、!」

これは囮なのだと遅れて気づいてアイビスにトリガーを変えた。菊地原くんが重い一発を受け、ぶっ飛ばされる。痛そうだが目を瞑らないように意識しつつ、スコープを覗く。風間さんと歌川くんが弱点を狙うが気づかれてふせがれてしまう。続けて装甲の薄そうな耳を狙って撃つと、命中して片耳が大破した。こちらはうまくいってほっと息を吐き出す。

「もー何やってんですか…一撃で決めてくださいよ。せっかく僕が囮役になったのに…」
「陰密攻撃に反応されたか。蒼井はうまくいったようだ」
「…でも、装甲が厚くて…比較的そうでもなさそうな耳を狙いましたが、厚いところはアイビスでもはじかれるみたいです……」
「いや、耳を狙って正解だ。耳がセンサーになってるようだからな」
「菊地原。装甲が厚いのはどのあたりだ?」
「特に厚いのは両腕、あとは頭蓋と背中。これ削り取るのしんどいですよ」
「薄いところから解体していけばいい。まずもう片方の耳。足、それから腹だ」

了解、と言って場所を移動する。その際、ふと本部の方を見ると、本部の近くに開いたゲートからくじらのようなトリオン兵が近づいているのが視えた。えっ、あれ大丈夫だろうか。私が連絡するまでもなく沢村さんが気づいているだろうが。本部も気にしつつ、とりあえず目の前の新型に意識を集中させた。




「嵐山隊が先に倒しちゃったらしいですよ」
菊地原くんが不満そうにぶうぶうと言う傍らで、新型はズダボロになって戦闘不能になっている。少し時間とトリオンはかかったが、無事倒すことができた。

「別に競争してるわけじゃない」
「そりゃそうですけどー…」

初討伐が嵐山隊に先を越されたのが余程不満だったのか、風間さんたちが慎重すぎるから、などと不満を漏らしている。それを耳にいれつつ、私と歌川くんは新型の諏訪さんの救出作業に入っていた。

「中にキューブがあるんだよな?視えるか?」
「うん…諏訪さんはいないよ…っ」

私が頷くのを確認するとスコーピオンで新型の腹を割っていく。すると中にはトリオンキューブがしっかりと固定されているのを見つけ、歌川くんが無理やりひきちぎって取った。

「これです、風間さん」
「堤と笹森を呼べ、本部でエンジニアに解析させろ」
『了解です、連絡します』
「すすす諏訪さん、大丈夫でしょうか……!?」
「生きてりゃいいですけどね…」
「おい」

菊地原くんが物騒なことを言いだすのでより不安になってきたが、本部のエンジニアの方々は優秀なのできっと戻してくれるはずだ。そう信じてとりあえず立ち上がる。心配なのは諏訪さんだけではない。途中攻撃をくらっていた本部基地も気になっていたのだ。あらためて基地を確認するが、倒壊などはなさそうでほっと胸を撫でおろす。基地が気になっていたのはもちろん私だけではないようで、菊地原くんが風間さんに聞いた。

「なんかさっきドカドカくらってましたけど、大丈夫なんですかね?本部」
「問題ない、本部には太刀川や当真がごろごろしてる。いざとなれば忍田本部長もいる」
「し…忍田本部長は、戦われるんですか…?」
「ああ、間違いなくボーダーで一番強い。太刀川の師匠だぞ」
「…あ!」

そういえば、私が入隊するときに太刀川さんが師匠が本部長だと言っていた。忍田本部長が戦っているのは見たことがない、少し興味あるなあなんて思ったが、本部長は指揮官なのだから、戦いに出ない方がいいに決まっている。本当に最終手段となるのだろう。
そうこうしている間に、待機していた堤さんと笹森さんがこちらへやってきた。

「す、諏訪さんは…!!」
「このトリオンキューブが諏訪らしい。本部に届けてエンジニアに解析させろ」
「りょ…了解!」
「風間隊の皆さん、…ありがとうございました!!」

笹森くんが大事そうにキューブを抱えて、勢いよく頭を下げると堤さんも深々と頭を下げた。気にするなと風間さんが言うと、お二人は本部の方角へ走っていった。


その後、B級隊員では倒すことが難しい新型を狙って次々倒していった。一体一体種類が違って対応に追われる場面もあったが、風間さんの迅速かつ正確な指揮のもと目立ったピンチもなく退治していく。三体目を倒し終えたころ、菊地原くんが唐突に言った。

「なんかさっきからカシャカシャ音がする」
「ん?なんの音だ?」
「この音は…この近くにラッドがいる」
「ラッドだと?ゲートを開く可能性があるな。早めに…」

退治しておくか、と風間さんが言い終わる前に、バチバチと聞き覚えのある音がすぐ近くで聞こえた。この音は、ゲートが出現した音だ。一手遅かったらしい。ぽっかりと目の前に黒い穴が開いた。近界民が出てくる、と身構えると、真っ白のバケモノの姿は現れず、かわりに黒いマントを羽織った男性がその穴から出てきた。

「チッ、ガキばっかかよ。ハズレだな」

風間さんたちを見るなりいかにも不満そうな表情で言葉を発したその人の頭には、黒いツノがついていた。どくんと心臓が大きく脈打つ。血の気が引いていくのが自分でも分かった。
現れた近界民は、ツノ付き、それも黒トリガーの、一番恐れていた人型近界民だったのだ。


警鐘エコー


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