風間さんと三雲くんの戦いは一方的だった。訓練室ならトリオン切れの心配はないので陰密トリガーも使い放題、三雲くんが止まっている間に風間さんが一撃で三雲くんを仕留めることを延々繰り返している。それは見ていられないほどだった。こうして見ると、陰密トリガーの威力は相当なものだとわかる。もちろん弱点はあるし、実際トリオンの消費のことを考えるとむやみやたらに使えるものでもないのだが、ある程度対策をとらなければ攻略しにくい戦法だとまざまざと感じた。私はこうしている間にも風間さんの動きは見て取れるのだが、三雲くんからしたら、かなり厄介だろう。

「ふっつーすぎ。光るものがないよね、なんであんなやつに絡んでるんだろ風間さん」
「…まあ確かに、迅さんの後輩ってことで期待しすぎたか?」

菊地原くんと歌川くんがそう言っている間に、20戦をあっというまに超えてしまった。風間さんは一つも手を抜かず、きっちり負かしている。
ようやく終えたかと思ったが、しばし間があってからもう一戦始まった。しかしそれまでと三雲くんの雰囲気が違う気がする。

「まだやんの?ムリムリ、また瞬殺で終わりだよ」
「……でも、表情が…変わった気が…」
「表情?それが何、風間さんに太刀打ちできっこないよ」

そうかもしれないけど。無意識のうちにがんばれ、と小さく呟いてしまった。それを聞き取った菊地原くんが私をじろりと見て何応援してんのと私に言う。なぜか感情移入してしまうのだ。
三雲くんはまず、細かいアステロイドをあたり一面にまき散らした。普通射手トリガーは速い弾速しか見ないが、弾速を一気に下げて超スローの散弾にしているのだ。確かにこれなら透明化なんて関係ない。カメレオンを使ったままでは防御できずにくらってしまう。

「す、すごい……!」
「やるじゃないか」
「こんなのカメレオンを封じただけじゃん」

菊地原くんの言う通り。普通の攻撃手相手なら、うまくいっていただろう、しかし相手は風間さんだ。カメレオンを使わなくても、十分すぎるほど強いのだ。目にも止まらない速さで散弾を斬りつけ、ものともしていない。三雲くんは迎え撃つつもりなのか、レイガストを構えてトリオンキューブを用意している。風間さんが一気に間合いを詰めた瞬間、三雲くんがレイガストを加速させて突撃した。

「!」
「スラスター!?」

シールドを背に張って押しつぶされるのは避けたが、風間さんが壁まで押し込められる。しかしこの距離では風間さんの間合いだ。風間さんが反撃しようとすると、三雲くんがレイガストの盾モードで閉じ込めてしまった。そのままレイガストに小さな穴をあけた。まさかと思ったそのとき、アステロイドの大玉でゼロ距離射撃を放った。

ドンッ!!
「風間さん!」
「まさか…!!」

射程ゼロ、その分威力倍増のアステロイドの大玉の一撃で轟音と煙が立ち込める。今のは、もしかして、もしかするかもしれない。どきどきしながら煙の中へ目を凝らす。するとそこには、首をスコーピオンで貫かれた三雲くんがいた。

「……あ…!」
「蒼井視える!?」
「どうだ?負けたのか!?」
「……ほぼ同時に風間さんのカウンターも決まってる…これは…!!」

次第に煙が晴れていく。そこにいたのは、穴から伸びたスコーピオンに首を貫かれた三雲くんと、ほぼ同時にアステロイドを受けて甚大なダメージを負った風間さん。これは、相打ち。引き分けだ。

「……引き分け…!」

三人、顔を見合わせる。予想だにしない結末だ。風間さんがB級隊員相手に引き分けた。三雲くんを見ると、空閑くんとハイタッチしていた。すごい。最後の最後で、すべてをひっくり返した。拍手を送りたい気分で見つめていた。

風間さんが戻ってくると、四人で作戦室へ戻る道を歩き始めた。道中、菊地原くんが不満そうにぶつぶつ言う。

「あんなのと引き分けちゃダメですよ、僕なら百回戦って百回勝てる。あんなパッとしないメガネ」
「そうか?遅い弾で空間を埋めるとかいい手だったと思うが…」
「あんなのトリオン無限ルールだからできたことでしょ。最後の大玉だって一回フルガードして、それから差し替えせばよかったんですよ」
「そうだな。張り合ってカウンターを狙った俺の負けだ」

そう言う風間さんはどこか楽しそうに見えるのは私の思い込みだろうか。この先楽しみなやつだ、なんて思ってそうだと勝手に予想した。

「…ふふ」
「蒼井はさっきからずっとにやにやして気持ち悪いんだけど。何なの?」
「……私、三雲くん、好きだなって思って……」

実力も才能も全く及ばない相手に対して、20戦以上負けても諦めないで知恵を絞り出すところが、個人的に好印象というか、応援したくなる節がある。空閑くんと仲がよさそうだったし、いいコンビになりそうだなと感じて少し気分が高揚している。二人ともこれからどんどん強くなりそうだなあ、と考えていると、菊地原くんが驚いた様子で目を見開いて私を見つめていた。

「ど、どうしたの…?」
「いや、蒼井がどうしたのって感じなんだけど」
「え?だってなんか、こう…応援したくなるというか…」
「好印象をもったって意味だよな?」
「そ、そう!」

歌川くんに聞かれてこくこくと頷く。菊地原くんはあっそう、と言って私をじとりと睨む。

「どこが。あんな地味メガネ…」
「……私も本当は地味メガネだから一緒だなあ…」
「………蒼井のことを言ってるんじゃないから勝手に被害妄想しないでくれる?」
「わ、わかってるよ…!」

へらっと笑うと、なぜか怒られた。菊地原くんは機嫌が悪いようだ。触らぬ神に祟りなし。あんまり変なこと言わないでおとなしくしておこうとちょっと気を引き締めた。



揺るぎのない青


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