「本当にご迷惑おかけしました、影浦先輩、北添先輩、絵馬くん……」
「もういいっつってんだろ、うざってーな」
「カゲ、言い方キツすぎ〜。大丈夫だよ、おつかれさま瑠花ちゃん!」
「……お疲れ様でした。気にしないでいいですから」

今日の防衛任務は影浦隊と合同任務だった…のだが、ゲートが幾度となく出現し、途中アイビスの使用とテレポーターの乱発で私のトリオンが底をついてしまったのだ。最終的には同じ狙撃手の絵馬くんに狙撃援護を任せることになってしまった。申し訳なさでしゅんとしていると影浦先輩にうざいとばっさり言い捨てられてしまった。落ち込んでいると北添先輩と絵馬くんがフォローしてくれた。優しい。
それにしてもこの頃ゲートの出現率が高い気がしてならない。何でだろう。この違和感は私だけではないようで、影浦先輩は肩を回してソファにどっかり座る。

「あ”ー疲れた。ったく、今日のゲート多すぎだろ。どう考えても」
「なんか多かったねえ。ヒカリちゃん、何回?」
「途中から数えるのやめた!いつもの倍以上だったぞ!」
「……何で?」
「アタシだってわかんねーよ!てか、市街地にはイレギュラーゲートも出てるらしいって連絡きてるし!」
「イレギュラーゲート?」
「何なのそれ」

市街地にゲートが開いたとあっては、被害者も多数出ているはずだ。街と市民が心配だ。おろおろしていると、仁礼先輩がパソコンの画面を見つめて情報を教えてくれる。

「偶然非番の隊員が近くにいたから犠牲者は出なかったらしい。でも、誘導装置が効かないからどこに現れるかわかんねーってさ」
「誘導装置が、効かない…!?」
「なんだそりゃ。どーなってやがる」
「さあ」

青ざめて窓に駆け寄り、サイドエフェクトを使って市街地の方を視る。確かに建物が著しく崩壊している場所がある。市民は見当たらず、避難済みだと思われるが、壊された街に人影のない光景を目の当たりにしてぞっとした。こんなことがあるなんて。言葉が出てこず突っ立っていると、トントンと肩を叩かれる。

「大丈夫ですか」
「あ……絵馬くん、だ、大丈夫…」
「…まあ、すぐ原因わかりますよ、きっと」
「……そう、だよね。」

同じ狙撃手ではあったが、狙撃手訓練室ではあまり話す機会はなかった絵馬くんが私の様子を見て励ましてくれた。年下なのにしっかりしていて冷静だ。ありがとうとお礼を言って、もう一度窓の外に視線をやった。イレギュラーゲートなんて、これっきりならいいのに。そうならいいのに、妙な胸騒ぎは消えない。


二日立て続けにイレギュラーゲートが出現した翌日、イレギュラーゲートの原因が発覚したとの発表があった。原因はラッドと呼ばれる小型近界民、ゲートを開く役割のあるそれが市街地に多数潜伏しているからだという。一斉駆除作戦が昼夜を徹して行われた。
レーダーと強化視力を駆使してラッドをしらみつぶしに狙撃していると、移動した先には奈良坂先輩がいた。同じラッドをターゲットにしていたらしい。

「…ん、蒼井か。お疲れ」
「お、お疲れさまです、奈良坂先輩…。ええと…ち、違うラッドに行きます…」
「ああ、お前もあのラッドを狙ってたのか。…待て、どうせなら俺も移動する。二人で一掃した方が早いだろう」

そそくさと去ろうとしていたところ、狙っていたラッドを始末して奈良坂先輩も一緒に移動することになった。ええっ一人でも大丈夫ですが…!!と思ったが、私を気遣ってくれたのだろうからお言葉に甘えることにする。奈良坂先輩は隊員がまだあまり向かっていないところへ目星をつけて向かい、私もそれについて行く。

「…撃ちっぱなしだろうけどトリオンは大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。テレポーターはあまり使わないようにしてるし…」
「そうか。ならいいんだが。あと一踏ん張り、頑張ろう」
「は、はいっ」

そう言っている間に射線の通る狙撃ポイントまで到達し、イーグレットを構える。奈良坂先輩とほぼ同時に引き金を引き、違うラッドを仕留めた。そして次。次。このペースなら二人でもこの付近なら一掃できそうだ、と思ったが、ラッドが道路の脇の排水溝に入っているのが視えた。どこからどう入ったのかはわからないが、蓋を開けなければ溝の中のラッドは始末出来ないのだ。

「…奈良坂先輩……」
「どうした」
「道路の脇の排水溝の中にラッドが2匹入り込んでます、が、狙撃出来ません…どうしましょう…?」

イーグレットを覗くのをやめてそう聞くと、奈良坂先輩は私を見てきょとんと目を丸くした。

「…なぜそこまで分かる?」
「あ、強化視力のサイドエフェクトで…」
「ただでさえこの距離なのに、排水溝の中まで見えるのか?」
「が、頑張れば…」
「…すごいな。分かった、少し待っててくれ。……秀次、陽介。今どこだ、どちらかでもいいがここまで来れるか?」

無線通信で三輪隊の攻撃手二人に呼びかける奈良坂先輩。こういうときに仲間を頼れるのも、チームの強みなのか。感心しつつその様子を隣で眺めていると、すぐに三輪先輩と米屋先輩が駆けつけたのが見えた。

『ここらへんか?』
「ああ、そこの排水溝の蓋を開けてラッドを始末してくれ」
『排水溝の中ァ?』
『…いた。なんで分かったんだ、レーダーじゃ分からないだろう?』
「ああ、蒼井が強化視力で見つけたらしい」
『…蒼井がいるのか』
「はっ、はい…こ、こんにちは」
『おお、瑠花!サイドエフェクトねー、ナルホド』

排水溝の中に潜伏していたラッドを見つけ出して弧月と槍で一撃で始末したお二人と通信で挨拶を交わす。レーダーに映るラッドの反応はまだ消えていない。ということは、まだどこかに潜んでいるはずだ。奈良坂先輩も同じことを考えていたようで、私の方を見た。

「でもまだこれで全部じゃないな。まだレーダー反応がある。…蒼井、ラッドがどこにいるか分かるか?」
「えっと……。あ、向こうの、ドラム缶の中…です」

頼られていると思って必死に探してやっと見つけたのは、ドラム缶の底でカサカサと動いているラッド。これも狙撃ではどうにも当たらない。

「陽介、そこのドラム缶の中にいるらしい」
『了解。おー、いたいた』
「あ、あと…フェンスの近くにも1匹います、茂みに隠れてて…見えにくいですが」
『分かった。始末する』

お二人はテキパキとラッドを駆除してくれた。これでレーダーの反応はこの付近では0になった。奈良坂先輩とうなずきあうと、直後迅さんの声が聞こえた。

『よし、ラッドは全て駆除し終えた!作戦終了だ!お疲れさん!!』
「…今のがラストだったかもしれないな」
「そうですね…!米屋先輩、三輪先輩…ありがとうございました!」
『おう!二人とも、こっちに降りてこいよ〜』

言われるままに階下へ降り、合流した。もう一人の三輪隊狙撃手である古寺くんも近くにいたようで、合流してから私に挨拶してくれた。

「お疲れー、瑠花。お前の目便利だな!」
「お役に立ててよかったです…!米屋先輩、ありがとうございました。三輪先輩も…」
「…こちらこそ。助かった」
「…そういやさあ〜」

にやにやする米屋先輩が三輪先輩の肩に肘をかける。首を傾げると、米屋先輩が言った。

「この前、秀次の買い物に付き合ってくれたんだって?」
「あ、三輪先輩から聞いたんですか…?」
「いいや、蓮さんがソッコーで気づいた。秀次のチョイスにしちゃあ、明らかにセンスが良すぎたからな。喜んでたぜ〜」
「そうですか…!よ、よかったです!…でも選んだのは三輪先輩ですし、私は意見を言っただけですので……」
「謙遜すんなって!なあ秀次」
「…ああ。蒼井のおかげだ」
「おおお役に立ててよかったです……」

こんなにお礼を言われるのにも慣れていないというか、後ずさりしつつぺこぺこしていると、古寺くんにクスッと笑われた。わ、笑われてしまった…。

「な、蓮さんもお礼したいとか言ってたし、今度メシ食いに行こうぜ、三輪隊とお前でさ〜」
「ええっ、ごごご飯ですか!?」
「おう!おごってやるからよ!秀次が」
「おい陽介」
「行こうよ蒼井さん、月見さんがお礼したいって言ってたんだ」
「古寺くんまで…。じゃあ、その…自分で、払いますので」
「お!いいってことだな?よっしゃ決まり!」

流れでご飯にご一緒することになってしまった。ひえええ、三輪隊のご飯に部外者が乗り込んでしまっていいのだろうか…。でもせっかくご好意で言ってくださってるのだから、お言葉に甘えてしまおう。いつがいいかねえ、と早くも計画を立て始める米屋先輩。早いです。

「うーん、遠征組が帰ってきたらまたお前忙しくなりそうだしなあ。暇な日教えろよ」
「えっ、あ!い、いつ遠征部隊帰って来られるんですっけ…!?」
「ん?正確には知らねーけど、そろそろ向こう出るって聞いたぞ」
「ああ、そうらしいな」

そうなんですか、と上の空な声で言った。きっかり二週間というわけではなく、ただの目安のようだった。少し遅いが、数日後にはみんな帰ってくる。嬉しくて気分は高揚するが、同時に不安もまたやってきた。

「……皆さん、怪我とかしてないといいのですが…」
「大丈夫だって、けろっとして帰ってくるからさ」
「……はい。」

遠征部隊の彼らの元気ないつも通りの顔を見なければ安心出来そうにないが、米屋先輩が背中を叩いてくれて元気が出た。そこでふと思い出したのは、出発前の菊地原くんのことだ。手作りお菓子でねぎらう約束をしていたのだった。ああ、思い出してよかった。何を作ろう。帰って来るまでの数日間は、遠征部隊の皆さんのことで頭がいっぱいだろうと確信した。


眠れない夜にお砂糖二杯


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