遠征開始から数日経ち、目的地である近界へ着いた。こうして地球とは違う星の大地を踏みしめるのも何度目だろう。慣れてしまって感傷も何もないが、今回は無性に早く帰りたかった。俺の弟子が気がかり、なんていえば、太刀川さんあたりに過保護だと笑われるんだろうが、遠征という長期間離れているのは弟子に取ってから初めてのことだし、あのコミュ障が俺と風間隊ナシでやっていけるのだろうかと心配になるのも仕方がないことだった。見送られる際に必死に笑顔を作ろうとする瑠花の表情が忘れられない。すっかり兄貴気分である。弟子にしようと決めた当初は、ここまで気に入るなんて思っていなかったのに、あいつの性格がそうさせるのだろう。遠征艇は相変わらず狭いし、毎日同じ面子と顔を合わせるのも大概飽きた。ああ、癒しが欲しい。


「なー。そういえば、気になってたんだけどよー」

遠征艇の中で太刀川隊、冬島隊、風間隊そろって食事をとっている際、前々から気になっていたことを聞いてみることにした。菊地原を箸でビッと指す。

「お前瑠花と付き合ってんの?」
「はあ?」

目を見開いて呆然としている菊地原が箸を落とした。動揺が隠せてないぞ。話を聞いた風間さんをはじめとする風間隊メンバーも固まっている。ついでに太刀川隊も全員野次馬根性むき出しでなになに?と話を聞いている。

「何言ってるんですか当真先輩。意味わかんないんですけど」
「サイドエフェクトつながりとか、クラスメイトだからってのはあるけど、菊地原が女子をボーダーに勧誘するってとこからどうしたって思ってたんだよなあ。あいつ、お前に絶大な信頼を置いてるし。ちょくちょく“菊地原くん”の話、聞くぜ?人違いじゃないかってくらい、柄にもなくいろいろしてやってるらしいじゃん」
「それは蒼井が勝手に脚色してるんでしょ。勝手な妄想やめてくださいよ」
「そうだぞ当真、勝手に話をすすめるな。まだ付き合ってない」
「まだぁ?」
「風間さんは黙っててください!」

風間さんはポーカーフェイスだがぽろっと口を滑らせた。それに菊地原が言い返すあたり、これはアタリだなと確信する。歌川や三上も違和感バリバリに視線をそらしている。風間隊全員知っているとみた。そうか、あの菊地原がなあ。俺の弟子やるじゃん。

「そういや、俺、前の防衛任務の時、菊地原が蒼井にプレゼント渡してるとこ見たぞ。瑠花が合同訓練で10位入りした日だったか?」
「それ俺は見てないんだよなー、めっちゃ見たかった!」
「あ、それ私聞いた〜。優しいとこあるじゃーん」

太刀川さんと出水、国近がにやにやしながら言う。プレゼント、と聞いて思いつくのは、初の合同訓練で10位入りした日の帰り際、菊地原にキャンディをもらったとか言ってたやつか。そういえばかなり喜んでたな。太刀川さんに目撃されたなんて運が悪い奴だ。太刀川さんに知られれば、次の日にはボーダー中に知れ渡っていてもおかしくない。

「いや、あれはただ…たまたま持ってたんで」
「嘘はよくないぞ、菊地原。コンビニでわざわざ買ってたじゃないか」
「いつから覗いてたんですか、趣味悪いなあ」
「いやあ、なんかおもしろそうな気配がしたんでな」

菊地原の余裕がなくなってきたのがわかる。そろそろ認めるか?認めちゃうか?今度は国近がうふふと意味深な笑みを浮かべる。

「瑠花ちゃんモテモテだねぇ、蓮さんが言うには三輪くんも好きらしいし〜」
「は?」
「あ、やっぱそうなのか?三輪隊との防衛任務のとき、何かあったんだろ?」
「あれ、当真くん知ってたの〜?衝撃的な出会いを果たしたって聞いたよー。三輪くんが一方的に意識しちゃってるだけらしいけどねぇ」
「そんなにべらべら喋っていいのかよ」
「え、ダメだったかなあ。まあいっか〜」

へらへら笑う国近。菊地原に再度視線を移すと、ぽかんとして驚いた様子だ。おもしれー。にやける頬が止められない。

「だってよ、菊地原。早いとこ捕まえとかねーと、三輪に限らず、誰に取られても知らねーぞ」
「……余計なお世話ですよ」

菊地原の一言を聞いて誰もがはたと箸を止めた。今のセリフは、認めたってことでいいんだよな。一呼吸遅れて失言に気づいたらしい菊地原は、そもそも好きとか誰も言ってないから、なんていまさらすぎることを言った。一部始終を黙って聞いていた冬島隊長が、ぼそりと一言、青春だねえと小さく呟いたのだった。


天使不在の裏庭より


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