「説明させてくれ」

私たちの隣の空いていた席に移動してきた二宮さんと加古さん。二宮さんは深刻そうな表情でそう切り出した。

「防衛任務で出れなかった授業があって、そのノートを加古に借りてしまったことがすべての元凶…ノートを借りた礼にと、ここの期間限定スイーツに付き合わされて、カップル限定割引というのは知らされずに来たんだ。俺は付き合わされただけだ」

だから、俺と加古がそういう関係だなんて馬鹿な考えは消せ。と、一気に言い終えて二宮さんはジュースを飲んだ。加古さんはというと、そんなに全否定しなくてもいいじゃない、傷つくわ〜と言いながら、まあそんなわけだから勘違いしないでねと笑顔でこちらも否定している。仲が良いのか悪いのか、よくわからないおふたりだ。

「とりあえず、私自己紹介まだだったわよね。加古望よ、二宮くんとは同じ大学で同級生なの。ガールズチームの加古隊隊長をやってるわ。よろしくね」
「!わ、私は蒼井瑠花です。か…風間隊狙撃手…です」
「よろしくね、瑠花ちゃん!噂は聞いてるわ。なかなか接する機会がなくて自己紹介もできてなくてごめんなさいね。…こんなところで会うなんて思ってなかったけどねぇ」

明らかにタイミングがおかしい自己紹介を終える。自己紹介のときに風間隊狙撃手って言うのちょっと照れくさいというか、とにかくまだ慣れていない。

「ところで二人は付き合ってるの?隠さなくてもいいのよ〜」
「あ、いや……」
「ちちちちちがいます!デパートでばったり会って…私がここに一人で来ちゃって、入れないでいたので親切にも付き合ってくださったんです……!!」

にっこり聞かれて三輪先輩が答える前に私が即座に答えた。早口になってしまったが、とりあえずこれで誤解は解けたはずだ。

「優しいのね三輪くん、男前!二宮くんにも見習って欲しいわ」
「ついてきてやってんだろうが。文句言うな」
「あらやだ、文句は言ってないわよ?」

やはり仲はいいようだ。苦笑いしつつケーキを食べる。こんなときでもケーキはおいしい。しかし食べてる最中に加古さんが爆弾発言をした。

「でも、瑠花ちゃんって、菊地原くんと付き合ってるんじゃなかったの?」
「んぐっ、ゴホッ、げほ!…ちっ、ちがいます…!」
「あら?違うの?」

誰が言い出したんだそんなこと!誠心誠意全くの誤解だと伝え、加古さんはようやくわかってくれたようだった。

「その、ちなみに、ど、どなたからその噂を…」
「太刀川くんから、菊地原がプレゼントを瑠花にあげてたのを見たって聞いたのよ。ボーダーに入ったのも菊地原くんの勧誘だと聞いてたし、風間隊にも入ったでしょう?てっきりそうだとばかり」
「ええっ…!?」

コンビニ前でキャンディをもらったことだろうか。あのときしか考えられない。まさか見られていたなんて思いもしなかった。防衛任務だったとか、そういうことだろうか。なんだか恥ずかしくなって赤くなってしまうと、加古さんはやっぱりそうなの?とまた突っ込んでくる。違います、ともう一度否定する。
黙っている三輪先輩をちらりと見ると、いつのまにかケーキを完食していた。視線をあげた三輪先輩と目があってビクッとしてしまう。慌てて私も食べ終え、席を立った。

「ごちそうさまでした…」
「…ゆっくり食べてよかったんだが。急かしたみたいで悪いな」
「い、いえ、大丈夫です。…それじゃあ、二宮さん、加古さん、お先に……」
「…ああ」
「また今度ゆっくりお話しましょうね〜」

挨拶をして会計へ向かう。本当に半額の値段になったので嬉しくなりながら財布を出すと、三輪先輩が多めのお金を払った。あれ?私が払うぶんがない。そこでおごられてしまったと気づいてええっと小さく叫んだ。

「みみみ三輪先輩!い、いけません、お金はありますから……!」
「今日の礼だ、気にするな」
「そっ、そんなわけには……!以前もジュースをもらってしまっているのでっ」
「あれはあれ、これはこれだ。早く出るぞ」
「ええええ…!」

申し訳なさすぎてお店を出てからもしばらくねばっていたが、三輪先輩はいい、もう払ったと言って譲らない。私が折れるしかなく、縮こまってありがとうございます、と言うと、三輪先輩はふっと笑って言った。

「うまかったな」
「は、はい!本当に…!きた甲斐がありました、ありがとうございました。その、今度何かお礼を……」
「…まあ、お前の気の済むように」
「はい…!」

そこで三輪先輩と解散の流れになる。それでは、と私がぺこりと頭を下げて帰ろうとすると、三輪先輩が引き止めるように口を開いた。

「姉さんの話を、こんなに自然に話せるなんて思わなかった。……ありがとう」
「……えと、私は何も…」
「いや。蒼井だから話せるんだ」

今日は会えてよかったと、そう言ってくれるから。戸惑ったが、笑顔を浮かべて言った。

「…また、ぜひ聞かせてください。お姉さんのお話」

三輪先輩の別れ際、すうっとお姉さんが現れたのが視えた。こんな風に出現する瞬間を視たのは初めてで、ポカンとしている私に向かってお姉さんがほんの少しだけ微笑んだように見えた。



その帰り道、私が歩いて帰っていると、遠くから見知った顔の人が近づいてきたのが見えた。すぐさま迅さんだと分かると、緊張感が全身に走る。じじじじ迅さんだ!!!私の命の恩人、大ヒーローである迅さんだ!

「お、瑠花ちゃん。久しぶり。偶然だな」
「おおおお久しぶりです…迅さん…!」

迅さんはにこやかに手を振ってすたすたと歩いてくる。今日はよくボーダー隊員に会う日だ。

「き、今日は…どちらまで…?」
「ぼんち揚げを買いに、スーパーまで買い物にね」

ぼんち揚げと聞いてキョトンとしたが、そういえば以前廊下を歩きながらぼんち揚げを食べていたのを思い出した。好物なのだろうか。

「…ぼ、ぼんち揚げ、おいしいですよね…」
「お、ぼんち揚げの良さがわかるなんて、いいセンスしてるねえ。俺の大好物なの」
「そうなんですか……」

どことなく嬉しそうに話す迅さん。よほど好きなのだろう。好きなら今度一袋あげるよ、とまで言ってくれた。もしもらえたら神棚に飾ろう…ヒーローからもらったぼんち揚げ…なんて考えていると、迅さんはふっと表情を変えた。

「ところで、瑠花ちゃん。心に留めておいて欲しいことがあるんだ」
「…な、なんでしょう…?」

私が聞くと、一呼吸おいてから言い聞かせるように迅さんが言った。

「理不尽なことに悩むときもあるかもしれないけど、君の優しさは枷になんかならないってことを忘れないでくれ」
「………え、と…」

微笑みを絶やさず、それでもどこか遠くを見つめるような視線に私は少し恐れを感じた。何を言わんとしているのか、私には分からなかった。けど、今は分からなくていいよ、と言うので、曖昧に頷いた。

「これから全ての未来が動き出す。瑠花ちゃんにどんな未来が待ち受けているかは、君次第だ」

迅さんはそう言って私に別れを告げた。
迅さんは未来視のサイドエフェクトを持っているのだと聞いたことがある。迅さんには何が視えているのだろう。これから何が起こるというのだろう。それは果たして良い事なのか、それとも。
漠然とした不安を感じながら、遠ざかる迅さんの後ろ姿を目に焼き付けたのだった。


未来からの使者の足音


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