今日の休日は、珍しくデパートへお出かけだ。
ずっと行きたかったカフェの期間限定スイーツが、今日までなのだ。本当は当真師匠についてきてもらおうなんて甘いことを考えていたのだが、遠征とかぶってしまって叶わず。勇気を振り絞って茜ちゃんを誘ってみたのだが、那須隊のみんなで遊びに行く予定があると断られてしまった。泣きそうだったが、何度も謝られてしまったし、仕方がない。期間限定最終日、混むだろうなあと思いつつ、クラスメイトやボーダー隊員に会ってもバレないように眼鏡を外し、前髪だけの変装もどきスタイルで一人でやってきたのだった。



デパートは苦手だ。人混みも苦手だし、立ち並ぶ店のどこに入っていいのかも困ってしまう。しかし今日はそうも言っていられない。全てはスイーツのためだ。一心不乱におめあてのカフェへ歩いて行く。

「…、あ」

そんなとき、ばったり三輪先輩に会ってしまった。知らないふりを通そうかとも思ったが、あちらは完全に気がついているようで、一瞬の沈黙の後、よう、と声をかけてくれた。変装スタイルは全く意味がない。ぺこりと会釈して、内心悲しみにくれた。

「ここ…こんにちは、三輪先輩」
「…奇遇だな」
「そう、ですね」
「……買い物か?」
「ええと…ちょっと、食べたいものが…。三輪先輩はお買い物ですか…?」
「まあ、そんなところだ」

そうですか、と返事を返すと、会話は終わってしまう。うーん、グイグイ来られても困ってしまうが、こう会話が終了してしまうのも会話を繋げられなくて苦手だな…。無理に会話を長引かせる必要もないかと、去ろうとして一歩二歩歩く。

「それでは、また…」
「、あ」

すると、手首のあたりを掴まれた。びっくりしすぎて声が出なかった。あちらも驚いたような表情で、ぱっとすぐに離された。えええ、何なんですか。まだ会話終わってなかったですか、すいません!!と思っておろおろしていると、視線をそらしながらこう言われた。

「……月見さんの誕生日が、近くて」
「へ……?」
「誕生日プレゼントを買いに来たんだが、正直どういうのがいいのかわからない」
「……は、はい」
「女子の目線から、選ぶのを手伝ってくれないか?」
「………わ、私が、ですか?」

こくりと頷かれて、ぽかんとしてしばらく固まってしまった。私が!あの月見さんの!誕生日プレゼントを選ぶだなんて!!誕生日を祝うほど仲の良い友達なんておらず、誕生日プレゼントなんて選んだこともない私がお役に立てるのだろうか!と思っていると、駄目ならいいんだ、と一言かけてくださった。が、その一言は私にとってだめ押しの一言である。断れるはずもなく、私でよければ、と返事をしてしまった。うわああ、どうしよう、大役を任されてしまった!

「ええと…何か、目星をつけてる、ものとか……」
「…特には。」

あてもなく、通路を二人で歩く。そういえば今日はお姉さんの霊は視えない。日によって視えるときとそうでないときがあるのだろうか。長年この目と付き合ってきているが、未だによくわからないこともあるのだ。
クールビューティな月見さんを思い浮かべ、何がいいんだろうか…と悩みながらゆっくり歩く。無難に雑貨とか…と思ったが、それこそ何がいいかわからないし、好みとかがあるかもしれない。そういえば月見さんのロングヘアーはキレイだなと前々から思っていた。ヘアアクセサリーとかなら、どうだろう。高価すぎず、デザインも幅広いからイメージにあったものがあるかもしれない。

「…わ、私も、プレゼントとか…選んだことないので、よくわからないですが……、月見さんなら、ヘアアクセサリーとか…どうでしょう」
「…俺があげて、変じゃないか?」
「変じゃないと思います…!ヘアアクセサリーなら高価すぎないし、髪の長い月見さんなら普段使いもしやすいと思うのですが…」
「…なるほど。行ってみるか」

ヘアアクセサリーのお店では所狭しと商品が並んでいる。バレッタ、バナナクリップ、シュシュやカチューシャ。華やかなものから控えめなワンポイントまで、種類は豊富だ。こんなお店に普段来ないので、私も楽しくなってきた。店中がきらきらしている。

「いいのがありそうですね…!!」
「…ありすぎてわからん…どういうのがいいんだ…?」
「えっ。えーと……」

月見さんに似合いそうな、シンプルかつ、シックで可愛らしさもあるようなデザインのものを選んで、いくつか挙げてみる。次第に三輪先輩も自分から探し始め、二人でああでもないこうでもないと選びに選び抜き、なんとか決めることができた。

「いいものが買えて良かったですね…!」
「ああ。助かった、ありがとう」
「いえ、お役に立てて良かったです…!」

意外となんとかなるものだ。ホッと安心しつつ、選ぶ楽しさに浸っていた。相手のことを考えながらプレゼントを選ぶって、大変なようでワクワクすることだ。月見さんが受け取ってどんな反応をするか楽しみだ。きっと喜んでくれるはずだ。こんなに月見さんにぴったりの素敵なヘアアクセサリーを選べたんだから。

「…随分時間をかけてしまった、蒼井の用は大丈夫か?」
「大丈夫です。お気になさらず…あっ、ちょうど着きました」

歩きながら話していると、ちょうど目の前に私のおめあてのお店があった。期間限定メニュー今日まで!と看板に書いてあり、まだ売り切れでもなさそうだが行列ができている。やはり人気なんだなあ。少し恥ずかしいが、ここまで来たら話さないわけにもいかない。

「……実は、どうしても食べたいスイーツがあって。期間限定で、今日までなんです」

三輪先輩はキョトンとしてから、女子だな、とふっと笑った。や、やっぱり恥ずかしい。
三輪先輩は店内と行列をちらりと見たあと、私の顔をまじまじ見た。なんですか、その意外そうな表情は…?

「……一人で行くのか?」
「えっ、そそそうですが……」
「…この中にか?」

指さされてあらためて行列を見ると、並んでいる人々は男女二人の組み合わせ、つまりカップルばかり。ついでに店内を視てみると、店内までカップルと思われる人々でいっぱいだ。なぜだ。慌てて看板をまじまじ見ると、カップル割引、半額!と書いてあった。それ必要なサービスなんでしょうか!?おひとりさま駄目なんですか!?ぼっち最高じゃないですか!とパニックになっていると、三輪先輩も店を見てぼそりと言った。

「…これは入りづらいな」
「そんなぁ………」
「……」

一人で行けないことはないが、さすがにこのカップルだらけの店にひとりで乗り込む勇気はない。このために慣れないデパートまで来たというのに。涙目になりつつ、我慢しようと意志を固めた時、すたすたと三輪先輩が行列の方へ歩いて行った。そして最後尾に並ぶと、私を手招きする。

「並ぶぞ」

その一言でやっと理解した。つまり、私が一人で入れないので、カップルのフリでもして私に付き合ってくれるというのだ。さあっと青ざめてぶんぶんと首を振る。

「えっ…えええ!いや、そんな、悪いです!!」
「食べたいんだろう」
「たべ…食べたい、ですが、こんなことに三輪先輩を付き合わせるのは申し訳ないですし…!!」
「プレゼント選びに付き合ってくれた礼だ。俺も食べたくなって来た、甘いものは嫌いじゃないんだ」

やっ…優しすぎませんか三輪先輩!!明らかにこういうキャピキャピしたカップルイベントとか好きじゃなさそうですよね!?申し訳なさすぎてもう帰りたいレベルなのですが、ここまでしてくれてるのに断るのもそれもまた申し訳ない気がしてきた。それに食べたいか食べたくないかと聞かれると、そりゃもちろん、最高に食べたい。勇気を出してここまで来たのに食べずに帰れるものか。悩んだ末、よろしくお願いします、と頭を深々と下げて列に並ぶことになった。そこで全く考えていなかった可能性が頭に浮かんだ。三輪先輩に彼女がいる可能性だ。勝手にいない設定で考えていたが、こんなに出来た先輩なんだし彼女がいてもおかしくない。彼女いたら、もう、私切腹するレベルだ。ひええええもうホントすいません。

「おい、大丈夫か?」
「ひええっ、すいません!」
「何がだ」
「かのっ、彼女いらっしゃったら……私とんでもないことをしでかしているのではと……」

声をかけてもらった矢先、混乱した頭で思っていることをそのまま喋ってしまった。すると三輪先輩はそんなこと心配してたのか、と笑った。三輪先輩に彼女はいないらしい。心底安心して、息を吐き出すと、あっという間に順番が回って来た。オシャレな店内に案内される。店内のレイアウト的には落ち着いているが、お客さん的には落ち着いてないし落ち着けない。とりあえず二人がけの席に座り、注文を終える。先輩も同じものを頼んだ。

「甘いもの、本当に大丈夫なんですか…?」
「ああ。…姉がケーキやお菓子が好きでな、よく付き合って食べていた」
「なるほど…!仲が良いんですね、私は一人っ子なのでうらやましいです…」
「そうなのか。…今は当真さんがいるじゃないか。ずいぶん兄貴みたいに振る舞ってるぞ」
「そ、そそそうですか?…よく、言われますが…嬉しい、です。…きょうだいって、素敵ですね」
「……そうだな」

当真師匠がお兄さん、と考えただけで、へらっとだらしなく笑ってしまって、隠すようにそう言うと、ふっと懐かしむように笑ってくれた。
注文を終えると気持ちはもうスイーツ一色だ。帰りたい気持ちはもう綺麗さっぱりなくなってしまった。スイーツが目の前に届くと、ふんだんに乗ったフルーツに心が踊る。切り分け、パクリと一口。

「〜〜〜〜、おいしいです!」
「ああ、うまい」
「食べれてよかったです、ありがとうございます、三輪先輩…!」
「…まだ食べ始めて一口目だぞ」
「そ、そうですね。でも一口ですでに幸せなので」

ひとしきりお礼を言ってから頬を抑えて味わっていると、向かい側の席に座っていた男性と目があった。……えっ、あれ、見覚えがありすぎる。一瞬で青ざめてバッと目を逸らしたが、残念ながら向こうも気づいてしまったようだった。今度来るときはもっと変装グッズでちゃんと変装して来ようと固く誓った。私の様子がおかしいことに三輪先輩が気づいた。

「?どうした、蒼井」
「えっ、あっ、あの、むむむ向かい側の席の男性が」
「…!?どうした」
「あの……ににに、にのみやさん…」

震える声でそう言うと、ゆっくりと三輪先輩が振り向く。私もおそるおそる視線をやると、やはりまごうことなき二宮さんだった。向こうも相当驚いているようで、さらに若干顔色が悪い。すると相席の金髪ロングヘアーの美人な女性の方が二宮さんの表情に気がついて振り向き、私と三輪先輩を見比べて目を見開く。

「三輪くんじゃない!そっちの女の子は当真くんの弟子って子よね。三輪くんの彼女?二宮くん、知ってた?」
「……なぜお前らがここにいる……」
「…二宮さん、と、加古さん………」
「ここここれは、違うんですぅぅ……」

四人の全く異なる思惑が行き交う、とんでもないティータイムとなったのだった。


きみとぼくの休日


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