「失礼します…」

なんて言ったところで、返事はないのはわかっている。冬島隊作戦室に本を読みに来たのだが、誰もいないとわかってはいたもののやはり寂しい。いつもなら半袖の冬島さんがデスクでパソコンのキーボードを叩く音とソファで漫画を読む当真師匠の鼻歌をBGMに、のんびり読書をしていたのに。なんてしんみりしてしまってぶんぶんと首を振る。しばらくの辛抱だ。すぐに帰ってくるんだから。
しばらく本を読みふけり、やっと諏訪さんたちから借りていた本をすべて読み終わった。なんだかんだで忙しい日々を送っていたので、読み終わるのに時間がかかってしまった。諏訪隊の作戦室に返しにいこうと紙袋に本を詰めて、立ち上がる。緊張するが、いざゆかん。



「ここ、こんにちは……」
「あれっ。蒼井!どうしたんだ、って…ああ、本を返しにきたのか。どうぞどうぞ、入ってくれ」

ノックすると堤さんが出迎えてくれた。紙袋を抱える私を見てすぐに本を返しに来たと気づいて、中へ招きいれてくれた。その際流れるように紙袋を持つのを代わってくれて、謝りつつもお言葉に甘えてしまった。紳士だ。お邪魔しますと言って中へ入ると、ソファやらデスクやらで思い思いに読書をしている最中だった。本当にお邪魔だったようで縮こまっていると、皆さんは驚いたように声を上げた。

「うおっ、蒼井!あ、本か。そういや貸してたな」
「おお〜!瑠花ちゃんじゃん。いらっしゃーい」
「びっくりした!誰かと思えば、蒼井じゃん!」

諏訪さんと小佐野先輩、笹森くんから次々に話しかけられておろおろしながらも返事をする。

「ほ、本…お返ししにきました。こんなにたくさん、ありがとうございました。返すの遅くなってすいません……」
「いーよいーよ、風間隊にはいったばかりで大変だったでしょー?むしろ忙しいのに読んでくれてありがとねー」
「とととんでもないです」
「まあまあ、座って座って〜」

小佐野先輩からそう言われてどこに座ろうかと思っていると、諏訪さんがくいっと顎を引いてソファの隣をぽんぽんと叩いた。隣へ座れということだろうか。お言葉に甘えよう、と紙袋を持っておずおずとソファの端に座る。そんな端っこ行かなくてもいいのによ、と笑われた。

「そんで?どうだったよ」

諏訪さんが読んでいた本を置いて私に話しかける。ぱっと表情を明るくして早口で返す。

「おもしろかったです!ミステリーも海外モノも漫画も…全部、本当に…夢中で読んでしまいました」
「そーかよ。そりゃよかったぜ」
「諏訪さんおススメの続編最高でした…!まさか犯人があの人だとは…」
「だよなあ!どんでん返しでおもしろかったよな!俺推理しながら読む派だからすっかり騙されちまって」
「私もです…!私てっきり最初に怪しかった人が黒幕なんだと……」
「俺も俺も。やっぱそうなるよなあ」

ここのシーンが、クライマックスがと興奮気味に語り合っていると、それを見ていた小佐野先輩が口をはさむ。

「私おススメのは?どうだった?」
「あっ、もももちろん!素敵でした…!」

今度は小佐野先輩と語り合い、その次は笹森くん、堤さんと一人一人に感想を伝える。どれだけ語っても話は尽きないのだが、ひとしきり喋ったあと、ごそごそと紙袋から違う本を数冊取り出す。これらは私の本だ。私ばかり借りているのも申し訳ないので、私からもと思って持ってきたのはいいのだが、皆さんは皆さんの読みたい本があるだろうし余計なお世話だっただろうかと少しためらう。まあここまで持ってきてしまったのだし、興味がなければ家に持って帰ればいいかと考えなおしてテーブルに四冊並べた。

「それで、あの、私も…家から持ってきたんです。もしよかったら……」
「えっすごーい!うれしい!」
「おお、それはうれしいな。ありがとう」
「マジかよ!さすが気が利くねえ。どれどれ…あ。これ」

諏訪さんが一冊手に取る。それがミステリーものだと気づいてくれたようだ。知っている作者だったのだろうか。

「は、はい!それは私が持ってるミステリーものでは一番好きなんです…ぜひ…!」
「…俺もこれ、持ってる。俺も特に好きなやつだわ」
「本当ですか…!す、すみません…!」
「いや、謝んなって。…なんか、おすすめされたのが自分の好きなやつって、テンション上がるな」

にっと笑って、もっかい読むわ、とそのまま諏訪さんの手に渡った。好み一緒なのかもなとまで言われてとても嬉しい。次に、興味津々に並べられた本を見ている笹森くんに、一冊手に取って差し出す。

「これ、笹森くんに…。私漫画は持ってないから、この前言ってたやつを持ってきたの」
「あ!一番のお気に入りって言ってたやつか!気になってたんだよなー。サンキュー!」

喜んでくれたようで安心した。その様子を見ていた諏訪さんが口を開く。

「もしかしてお前、一人ひとりにあったやつ持ってきたのか?残りの二冊、海外小説と時代物?」
「えっ、はい……私の持っている本は広く浅く、なので、どちらのジャンルもたくさん持っているわけじゃないんですが…その中で、皆さんならこれが好きそうだというやつを…選んだつもり、です…」
「ほんとだ、これ時代物だったのか。なかなかおもしろそうだね!読んだことないやつだ。借りるな、蒼井」
「ええー、私にぴったりなのをわざわざ選んできてくれたの?ありがと〜〜やさしーね〜」

一冊手に取って早くも読み始める堤さん。そしてデスクチェアに寄りかかっていた小佐野先輩が立ち上がって私のもとまで来る。驚く私をよそに、ソファの私の隣に無理やり入り込んできた。二人掛けのソファに三人ぎゅうぎゅうで座るということになっている。挟まれている私はどうすることもできず、そして今までにない距離感にどぎまぎしている。小佐野先輩、コミュ障のパーソナルスペースってものをわかってください。でも不思議といやではない。こんなにくっつくのが慣れていないだけで、心を許してもらえているのかなと思うと少しうれしいような気もする。

「よし、ここでよもーっと。すわさんもうちょっと詰めてよ」
「ばっか、おサノてめー、こっち狭すぎんだよ!そっちこそ詰めろ!つかデスクで読んでりゃいいだろーが!」
「ここで読みたくなったんだもーん。あ、次何貸そうかな〜」
「蒼井!漫画、次これな!冒険モノなんだけどな…」
「ひさと、それ多すぎない?私もまた貸すんだから、減らしてよー」
「これ冒頭からおもしろいなあ。読み応えがありそうだ」

にぎやかな作戦室でそれぞれが読書をはじめる。こんな、アットホームな雰囲気でみんなで読書の時間を過ごす午後というのも、素敵なひとときだ。


ミルクセーキに沈む午後


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