東隊と防衛任務で東さんの神がかった狙撃を目の当たりにした日の夜、うんと悩んで、悩んで悩んでようやく決断した。自分で決めたことだ。もう、迷わない。
学校を終えてボーダーに来るとすぐ、冬島隊の作戦室に向かった。自動ドアが開くと、ソファで寝ていた冬島さんがむくりと起きる。当真師匠はいないようだ。

「んー…おう、瑠花ちゃんじゃん。どうした?ああ、当真か。まだ来てねえよ」
「そうですか…。起こしてすみません」
「うたたねしてただけだよ。で?何か用があったのか?急ぎなら、電話してやろうか?」
「あ、いえ、大丈夫です。……あの、風間さんの勧誘 ……その……お受けしようと思って」

どきどきしながら決断したことを告げると、冬島さんはしばらくポカンとした表情で私を見ていたが、そうか、と頷いて苦笑した。

「……そうかあ。まあ、そうなるかなーとは思ってたよ。こりゃ当真が知ったら荒れそうだなあ」
「と、とにかく、風間さんのところに行く前に、当真師匠にご報告をと思ったんですが……」
「なるほどね。よし、待ってろ。どーせ学校帰りダラダラしてんだろ」

スマートフォンを取り出すなり、私が止める間も無く何度かタップして耳に当てる。電話するほどのことでもないのだが…。

「当真〜?ソッコーで作戦室来い、瑠花ちゃんから重大発表あるから。死ぬ気で来い」
「えっ、え、ふ冬島さん!?そそそこまで言わなくても……!」
「いーのいーの」

当真師匠の声が何やら聞こえていたが、ブツッと切ってポケットに入れてしまった。ええ…。何か申し訳ない。当真が来るまで小説でも読んでな、と言われてその通りにすると、5ページ読んだあたりで当真師匠が作戦室に飛び込んで来た。えええはやっ!早くないですか!?ぜえはあと荒く息を吐き、自慢のリーゼントが崩れかけている当真師匠を呆然と見る。当真師匠は息を整えつつにやっと笑った。

「ふー、到着〜。最短記録更新だなこりゃ」
「早すぎだろ、お前どうやって来たんだ?」
「バイクで向かう諏訪さん見つけたんで後ろに乗っけてもらった」
「オイこら、足に使うなや」
「隊長が重大発表とか言って急かすからだろ。で?何?」

諏訪さんん…すいません…と思いつつ、本題に入る。いきなり緊張してきた。

「あの…すごく、すごくすごく悩んだんですが…風間さんの勧誘、お受けすることに決めました」
「……マジか!!」

はっきりとそう言うと、当真師匠は私の肩を掴んだ。うわあっびっくりした!

「正直、俺もお前を入らせるなら風間隊が一番いいと思ってたぜ。お前のあの様子じゃ難しいかなーと思ってたが…よく決断したな」
「は、はい」
「頑張れよ、お前なら大丈夫だ。なんたって、この俺の弟子なんだからよ!」

頭をがしがしと撫でられる。うううなんか涙腺にくる…。視界が滲むのを感じながらこくこくと頷いていると、冬島さんから声をかけられた。

「感動シーンの途中で悪いが、風間のとこ行くなら早くしねーと、風間隊今日夕方から防衛任務って言ってたぞ」
「ほ、本当ですか!急がなくちゃ……!」
「よし、行ってこい!瑠花!」
「はいっ!」

当真師匠に送り出されて、作戦室を出る。あ、そうだ、大事なことを言い忘れた。戻ってひょこっと顔を出す。

「あのっ……と、当真師匠!」
「ん?忘れ物か?」
「か、風間隊に入っても、私は当真師匠の弟子ですから……!これからも、よろしくお願いしますっ!!」

勢いよく頭を下げて、行ってきますと告げて今度こそ走り出した。当真師匠と話したら、勇気が湧いてきた。きっと大丈夫だ、辛いことがあったとしても、私はひとりじゃないから。



風間隊の作戦室の前で、深呼吸を繰り返す。緊張する。緊張するが、私はもう迷わないって決めたんだ。大丈夫、大丈夫と心の中で何度も唱えつつ、ノックをしようと手を出すと、何もする前にドアが開いた。そこには風間さんが立っていた。

「待ってたぞ。中へ入れ」
「……まだ、ノックも…してないんですが…」
「菊地原が足音でわかったんだと」

防衛任務の直前でもうトリオン体の姿の風間さんが中へ誘導する。菊地原くんさすがです…。中へ入ると、トリオン体の菊地原くんと歌川くんがいて、オペレーターのデスクに座っているのはオペレーターさんだ。ひいいいなんか私すでにアウェー感が半端じゃない。というか隊服のお三方がとてもかっこいい。そういえば三人とも隊服なのを見るのは初めてだ。かっこいいなあ。私が風間隊に入ることになったら私もあれを着るのか。えっ絶対似あわない!!

「おい。蒼井」
「はいぃっ!」
「さっきからぼーっとしてるが」
「あ、すすすみません…」

気を取り直して風間さんの向かい側に座る。私がボーダーに入隊する前にもこんなことがあった。あのときはまさか、このチームに入ることになろうとは、思ってもいなかった。なんだか感慨深い気持ちになる。すう、と息を吸い込んで、風間さんの目を見つめる。

「お返事を…しに来ました」
「ああ」

静まる作戦室に、自分の鼓動だけが聞こえる。ゆっくりとかみしめるように、自分の意思を口にする。

「風間隊に、入りたいです」

お願いします、と頭を下げる。ああ、この瞬間が一番怖い。当真師匠の時もそうだった。今も私は、泣きそうなくらいに緊張している。ぎゅっと目をつぶって、風間さんの言葉を待つ。

「そうか」

風間さんはそれだけ言うと、顔をおそるおそる上げた私にふっと微笑んだ。

「ようこそ風間隊へ。歓迎するぞ、蒼井」

しばらく何も言えない私に、ぱちぱち、と控えめに手をたたく音が聞こえてぎょっとして振り向くと、オペレーターさんが笑顔で拍手をしていた。

「ようこそ、瑠花ちゃん。私は三上歌歩、風間隊オペレーターよ。さっそくだけどトリガーを貸してくれるかな。防衛任務が終わったら、隊服の設定とかしておくから。それから、部隊入りの手続きとかもしておくね」
「あっ、頼んでいいんですか…?」
「もちろん。オペレーターの仕事よ、任せて」
「四人、になると…オペレーターさん大変ですよね……」
「大丈夫、視えるんでしょう?レーダー援護とかしないでいいなら楽だから、あまり変わらないわ」

よろしくね、と笑顔がまぶしい。こちらこそよろしくお願いしますと深々と頭を下げる。優しいオペレーターさんでよかった。トリガーを渡し、諸々の手続きを頼んだ。

「入ってくれてうれしいよ、蒼井。頑張ろうな」

今度は歌川くんが声をかけてくれた。歌川くんがいるとなぜか安心する。大きく頷いてみせた。すると、その隣にいた菊地原くんがはあとため息をつく。これ見よがしなため息に、少しビクッとする。

「まさかホントに入るとはね。戦力になるのかどうか。足引っ張らないでよね」
「足手まといにならないように、が、がんばりますっ。入るからには、絶対に…戦力になります」

じとりと見られたが、ここで怯んではいけないと言い返す。もう覚悟はできているんだから。私がここまで言うと思っていなかったのか、菊地原くんは少し意外そうに目を見開いて、それからふいっと視線をそらした。

「……まあ、せいぜい頑張って。風間さんをがっかりさせないでよね」
「うん。よろしくお願いします!」

そろそろ防衛任務の時間だ。皆さんを見送り、作戦室に三上先輩と残される。三上先輩の隣で防衛任務を見せてもらうことにした。ゲートはその日2回開いた。バムスターとモールモッドが何匹か現れたが、どちらも素晴らしい連係プレーであっという間に倒してしまう。これ私入る必要あるのだろうか…と早くも自分の存在意義に冷や汗をかく。でも必ず私にしかできないことがあるはずだ、と思って食い入るように見つめていた。
こんな私を必要だと言ってくれた。だから私は、強くならなくちゃ。


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