「ほ、ほんっ、本日三輪隊にお世話になる、狙撃手の蒼井瑠花でしゅっ、よよよろしくお願いしますっ」
「噛みすぎじゃね!?」

三輪隊の作戦室の自動ドアが開いて勢いよく挨拶した、つもりだった。出オチ感が半端じゃない。米屋先輩が速攻で吹き出して笑い始めた。その頭をはたいた奈良坂先輩が私を手招く。

「ああ。ようこそ。今秀次がいなくて悪いが…とりあえず中に入ってくれ」
「は…はい…」

おずおずと中へ入る。ちなみに学校帰りであったことにくわえて防衛任務のことで頭がいっぱいで、トリガーを起動していない状態で来てしまった。学校帰りでそのまま来たとはいえ、換装してきたほうがよかったかな…とびくびくしていると、中には美しいオペレーターさんが座っていて、ようこそ三輪隊へ、と微笑んでくれた。

「私は三輪隊のオペレーター、月見蓮よ。瑠花ちゃんね、よろしくね」
「は、はい。今日は一日、その、防衛任務初めてなんですけど、よろしくお願いします…」
「大丈夫、話は聞いてるわ。狙撃手は一人じゃないし、心配しなくていいわよ。今日は瑠花ちゃんは、防衛任務ってどういうものかを知るのが目的ってことにしましょう」
「はい……」

ああなんて優しいんだ!そして美人!そうだ、言われてみれば、私は狙撃手の古寺くんの代わりということにはなっているが、奈良坂先輩もいるし、あまり心配は必要ないかもしれない気にもなってきた。やっと落ち着いたころに、米屋先輩が隣に座った。

「なあ、瑠花って呼んでいいか?呼びやすいし」
「は、はい…えと、米屋先輩とお呼びしても…」
「もっちろん。なんでもいいぞ、よねやん先輩でも」

にこにこして話しかけてくれる。米屋先輩には、見学のときに飴をもらったり、模擬戦で戦ったりして一応かかわりはあった。でもちょっと苦手な先輩だ。テンションについていけない。

「つーか、秀次はなんでこんなに遅れてんの?」
「東さんに呼ばれたから遅くなるとか言ってたが、そろそろ来ると思う」
「ふーん。…あ、噂をすれば」

うぃーん、と自動ドアが開く音がする。悪い、遅れた、という声が聞こえる。ひいいい三輪先輩!話したこともないし見たこともない。米屋先輩と同じ17歳ということくらいしか知らない。ひいいこわい!とまた体がこわばる。そして入ってきた学ラン姿を見て、きょとんとした。てっきり、一人で来るものだと思っていたので、”ふたりで”来るとは予想外だったのだ。あれ、三輪隊は5人だと聞いていたのに。

「待たせて悪い、俺は隊長の三輪秀次だ」
「大丈夫です、狙撃手の蒼井瑠花です……ええと、そ、そちらの方は、ごきょうだいですか……?」

そう言った瞬間、部屋の温度がひゅっと下がったような気がした。皆が揃って固まっている。………えっ。これ、この空気、感じたことがある気がする。私は何かやらかした気がする。

「…ちょ、ちょい待ち。瑠花、なんの話?」

米屋先輩がそう言った瞬間、ハッとして立ち上がった。三輪先輩の背後に立っている女の人の下半身が目に入る。膝から下がない。幽霊だ、と理解したと同時にひゅっと息を吸い込んだ。ああ、やっぱり換装してから来るんだった!!

「とっ、トリガーを!」
「お?」
「忘れて、きたので…取りに行ってきます!すぐに戻ります!」

全速力で作戦室から出て、走りだす。ぎゃああああ!やらかしたあああ!無理だもう帰るううう!!狂ったように走り回っていると、通りかかった金髪のタバコをくわえた男性に見られてしまい、急に立ち止まって冷静にもどった。み、見られた…そしてあの人チャラそうだった、こわい…。とりあえずトリガーを起動させ換装すると、視界がクリアになる。よ、よし、戻ろう…。戻りたくないが、戻らねば。何と問いただされても、事情を説明するしかない。覚悟を決めて再度三輪隊の作戦室のドアを開ける。

「……し、失礼します……」
「大丈夫か?」
「はい、す、すみません」

三輪先輩をちらりと見ると、もう女の人は視えなくなっていた。冬島さん、トリガー改造大成功です。と思っていると、皆さんからの視線が痛かったのでとりあえず椅子に座り、涙目で縮こまった。もうどんな尋問でも受ける覚悟は決まってます。

「えーっと、どういうことか説明してくれんだよな?」
「はい…」


「つまり、瑠花ちゃんは強化視力で秀次くんのお姉さんの霊が視えたってことね」

強化視力の一連の効果を説明し、はい、とか細く返事をする。三輪先輩は以前に当真師匠が説明してくれた、大規模侵攻でお姉さんを亡くしているらしい。重い話をさせてしまい、三輪先輩はつらいだろうのに、すごく申し訳ない。縮こまっていると、三輪先輩が口を開いた。

「今も視えるか?」
「今は、トリガーを起動しているので視えません。冬島さんにトリガーを起動している間はサイドエフェクトを制御するように改造してもらったんです」
「そうか。……姉の霊がついているってことは、俺が姉に未練があるからまだ成仏できてないってことなのか」
「…くわしい知識は持っていなくて、なんとも…。すいません。私は視えるだけで、話したり触れたりとかはできないから…。」
「そうか」

それきり、黙り込んでしまった三輪先輩。でも、私の経験上、霊がついている人の意思には関係ない、気がする。

「でも、ついている人の意思は関係ない気がします…。て、適当なことを言うようですが、お姉さんが心配しているからかもしれません…」
「…姉が、俺を…」
「わ、わかりませんがっ」

すいません、と最後に付け加えて、またそれきり沈黙が続いた。沈黙を破ったのは、月見さんがそろそろ任務に行きましょうか、と立ち上がったときだった。こんな雰囲気で大丈夫だろうか。ほんとすいません…と泣きそうになっていると、最後に一つだけいいか、と三輪先輩が言った。

「姉は、その…元気だったか、と聞くのもおかしいが…どんな感じだった?」
「えっ。ええと……すました顔がすごく美人で、お綺麗で…それから…あ、三輪先輩にとてもよく似てらっしゃいました」

だからすぐごきょうだいだと分かりました、と言うと、三輪先輩はそうかとだけ答えて作戦室を先に出て行った。ああ、やはりこんな話をしたら、気分はよくないだろうなあ。本当に申し訳ない、としゅんとしていると、背中をたたかれた。何事かと思うと、少しだけ嬉しそうな米屋先輩だった。

「秀次、あれでも喜んでるんだぜ」
「えっ!?よ、喜んで…なんでですか、お辛い話をたくさんしたのに…」
「ま、話的には確かにヘビーだったけどよ、姉を褒められたうえに、似てるって言われたからだろうな。あいつねーちゃん大好きっ子だからさ。ありがとな、瑠花。話してくれて」

にっと笑って、さあいっくぞー、と走って行った米屋先輩の後姿をぽかんと見つめていた。兄妹がいない私にはわからない感情が、きっとあるんだろう。ちょっとだけうらやましくなった。



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