ミーティングの際、さらりと告げた突然の風間さんからの報告に一同が驚きを隠せなかった。蒼井を風間隊に誘ったのだという。何がどうなってそうなったんだ。そもそも、狙撃手はこのチームには必要ないはず。むしろ、狙撃手がカメレオンの連携プレーに入ることは出来ないのに。

「太刀川たちが蒼井と当真…狙撃手を入れた混成チームで模擬戦をするというので入ったんだ。蒼井がどれくらい成長したのか気になったからな。まあ、ただそれだけの興味の、気まぐれだったんだが…」
「風間さんが太刀川さんたちと模擬戦ですか!見たかったなあ」
「それはギャラリー多そうですね」

風間さんが混成チームで模擬戦。そんなことがあってたなんて。僕としたことが、何にも聞こえなかった。確かにそれは見ごたえがあっただろう。風間さんは先を続ける。

「蒼井とは俺は敵チームだった。太刀川と対戦していて、もちろんいつものようにカメレオンを使った」
「…それで、何かあったんですか?」

それまでの風間さんの言うことに何もおかしな点はない。そこでほんの少しにやりとして風間さんが言った。

「撃たれた」
「はあ?」
「撃たれた、って、カメレオン使ってたんでしょう?」
「ああ。蒼井の強化視力は、カメレオンも視えるらしい」

なるほど。それで誘ったのか。やっと納得がいった。それにしても、オバケは視えるしカメレオンも視えるし、なんだあの目。まあ僕の耳のほうが性能いいけど。狙撃手に撃たれたのは久しぶりだったな、と言う風間さんは機嫌がよさそうだ。

「蒼井が狙撃手として入れば、レーダーなしでサポートができるし三上の手もあまり煩わせないで済むだろう。近距離型の戦闘スタイルががらっと変わるだろうが、かなり得るものは大きいと思う」
「確かに、それなら一人増えても私は問題なさそうです」
「でも蒼井はまだB級になったばかりなんじゃ…」
「そうだ。しかしあの当真の弟子だ、それに初参加の合同訓練では狙撃手内で10位入りしたと聞いている。この調子で腕を磨けばかなりの腕前になるのは確かだ」

歌川の不安はさらりと解決された。当真先輩の変態狙撃の技術を受け継いで、かなりの腕前になってきたと、あの奈良坂先輩が褒めているのを耳に挟んだこともあるからその点は確かにあまり気にしないでよさそうだ。

「菊地原の耳に加えて、蒼井の目があればA級3位より上も狙えると見込んでいる。お前たちはどう思う」

風間さんは僕たちを順番に見つめる。確かに風間さんの話はメリットばかりだ。現実離れした話ではないし、反対要素は見当たらない…、が。そんなに簡単に事が運ぶ話ではないと思ったので、歌川と三上先輩がいいと思いますと答える中、口をはさんだ。

「でも、蒼井なら絶対断ると思いますよ」

そう断言すると、風間さんが視線をこちらに向ける。

「ほう。なぜだ?」
「蒼井は当真先輩に弟子入りの勧誘を受けたときもそうだったんです。僕がボーダーに誘ったときも。自分のことを過小評価してるから、A級3位の風間隊には私なんか無理ですって言うに決まってますよ」

目に涙をにじませながら、必死で首を振っているのが思い浮かぶ。あのめんどくさい性格の蒼井を、うんと言わせるのは骨が折れるだろう。間違いない。
すると、歌川がにやにやしているのに気が付いた。なんだよその顔。

「さすが菊地原は蒼井のことをよくわかってるな」
「歌川もちょっと考えればわかるでしょ。あのめんどくさい性格知ってるでしょ」
「言われてみればそうだな、確かに断りそうだ」

うんうんと頷きながら、気に食わない表情はそのままだ。なんなのこいつ。

「…そうか。なら、これはかなり頑張って勧誘しなければならないな。菊地原のためにも」
「……はい?」
「蒼井がほかの隊に引き抜かれる前にどうにかしないといけませんね。菊地原のためにも」
「………なんでそこで僕が」
「だって菊地原くん、蒼井さんのこと好きなんでしょう?」

三人のにやにやした表情をしばし見つめる。……何言ってんの、この人たち。頭の中お花畑なんじゃないの。なんで僕が蒼井を好きにならなきゃいけないわけ。あのめんどくさい性格、やたらうるさい心臓の音、すぐ泣くし、寝てるところ見られたし、いつもいつもほんっとイライラするっていうのに。

「でたらめ言わないでくださいよ、三人して何言ってるんですか」
「だってお前蒼井を誘ったときから蒼井の話ばっかりじゃないか」
「は?んなわけないじゃん」

確かに最初誘ったとき、歌川や風間さんに蒼井のことは教えた。強化視力のサイドエフェクト持ってる女子見つけた、コミュ障すぎて引くレベル、くらいは言った気がするがその程度だったはずだ。

「この前だって前髪上げた蒼井見たあとのお前のテンションの高さは驚いたぞ。珍しくランク戦吹っかけて、ソロランクいくつ上がったっけ、かなり本気出してたろ」
「あれはただ調子よかっただけだし」
「合同訓練前にはがんばれって言いにいってたじゃないか。あの言い方じゃプレッシャーかけただけだったが」
「は、聞いてたの?盗み聞きとか歌川趣味わっる」
「10位入りした日はその日のうちにコンビニにお菓子買いに行ったんだろ?そのあと本人に出くわして無事渡したらしいな。目撃者もいるんだぞ」
「そいつ誰、教えて今すぐぶっころしてくるから」
「防衛任務だった太刀川さん」
「…………」
「太刀川に見られたら次の日にはボーダー中に広まってると考えたほうがいいな。まあ、まだ知ってる人は少ないようだが。そんなに気を落とすな菊地原、……さすがに俺もとっくに気づいてたぞ」
「私も」

………何なのホント、帰りたいんだけど。

「よし、なんとしても瑠花を風間隊に入れるぞ。そしてゆくゆくは菊地原と恋仲に」
「風間さん、あのホント、そういうのいいんで。ホントいいんで。迷惑なんで」
「遠慮するな。全力を挙げて応援してやる。安心しろ」
「まずは外堀から埋めましょう。当真先輩に話を持ち掛けて…」
「それはいいな、よし三上のプランで行くぞ」

白熱する謎の作戦会議を死んだ目をして過ごしていると、歌川から背中をたたかれた。ゆっくり視線を向けると、歌川は笑顔で親指をグッと立てた。

「歌川ブース入って」
「は?今から大事な作戦会議じゃないか」
「今ズタズタにしてやらないと気が済まない。今すぐ入れバカ」

換装しながら作戦室の訓練室に早歩きで向かう。クソ、八つ裂きにしてやる。八つ裂きでも足りない。ああもう。まわりまわって、蒼井が悪い。


月の兎がとろめいて


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