焼肉を食べた後、当真師匠にめいっぱい撫でられて解散した。当真師匠に褒められるのはすごく嬉しい。頑張ってよかった。家までまだ距離があるがスキップでもして帰りたい気分だ。なんたって今日は、10位入りしたんだから。

「10位かあ」

ぼそっとつぶやくと、なんだかじわじわと実感がわいてきた。当真師匠も冬島さんもとっても喜んでくれた。お世話になった人が喜んでくれると、嬉しい。お世話になった人といえば、菊地原くんだ。喜んでくれるだろうか。褒めてくれるだろうか。菊地原くんが喜んでいるところも褒めてくれるところもあまり想像できない。むしろなんで5位以内じゃないのくらいは言ってきそうだ。ちょっとこわいけど、それより早く報告したい。攻撃手の訓練場所まで報告しに行く勇気はないし、報告するのはやはり学校でということになりそうだ。早く月曜日にならないかなあ。

「……あれ」

学校付近のコンビニ前を通りかかったとき、ちらりと見えた姿に見覚えがあった。あれ。今の今まで考えていた菊地原くんに見えるのは気のせいだろうか。立ち止まって眼鏡をずらして目を凝らしてみるが、あの髪の長さといい、身長といい、確かに菊地原くんに似ている。あ、横向いた。菊地原くんだ!

「…きっ、くちはらくん!」
「うわっ」

レジで何かを買ってコンビニから出てきた菊地原くんを待ち構えて、勇気を出して声をかけた。ものすごくびっくりされた。目を大きく見開いて私を見ている。

「えっ、なんで蒼井がここにいるの」
「家に帰る途中で通りがかったんだけど、たまたま菊地原くん見えたから…」
「待ち伏せしてたの?こわいんだけど」
「ええっ、ご、ごめん…」

菊地原くんはじろっと私を見ながら、手に持っていたビニール袋をバッグの中に無理やり押し込んだ。その際ちらっと見えたのは、ブルーベリーのイラスト。ブルーベリー味のお菓子だろう。それより、今出会ったのは最高のタイミングだ。今日の報告をしなくちゃ、と目を輝かせる。

「あのねっ、今日…」
「合同練習でしょ?どうだったの」
「そう、それがね、なんと、まさかの……」

珍しくテンションが高い私。なかなか順位を言わないでいると、菊地原くんはすぐにしびれを切らして口をはさんだ。

「早く言ってよ、僕帰るんだから」
「あ、うん、ごめん…。えっと、10位でした!」
「…上から数えて?」
「うん」

下からだったらとっくに泣き帰ってます。ふーんと相槌を打った菊地原くん。その表情からは感情が読み取りにくい。表情をうかがっていると、菊地原くんは口を開いた。

「まあ、がんばったほうなんじゃない」
「!う、うん」

とてもわかりにくいが、菊地原くんなりに褒めてくれていると受け取っていいのだろうか。勝手にそういうことにしておこう。なんたって、今の私はテンションが高いから。

「菊地原くんに早く報告したかったの。月曜日まで待てないなあって思ってたところだったから……会えてよかったぁ」

へらっと笑ってそういうと、菊地原くんは黙ってしまう。…えっ、なんで黙ったんだろう。怒らせたかな。沈黙が気まずくて何か話題を探す。

「き、菊地原くんって…ブルーベリー味が好きなの?」
「は?なんで?」
「ブルーベリー味のお菓子、買ったんでしょう?さっきちらっと見えたの…」

するとあからさまに嫌そうな顔をした。えええさらに怒らせた!?なんで!?どうすればいいの!?一人でだらだら汗をかいていると、菊地原くんはため息をひとつついて、ごそごそとバッグからさっき押し込んだビニール袋を取り出した。

「……さっき、たまたま目についたから買ったんだけど」
「へ?」
「やっぱりまずそうだから、食べたくなくなった。あげるよ」

別にブルーベリー好きなわけでもないし、と言ってぐいっと私に押しつけてきた。好きなわけでもないのになんで買ったんだろう…と思いつつビニール袋をのぞき込むと、目に良い!と主張の激しいブルーベリー味の飴の袋だった。まだ開けてさえいないで、新品だ。

「えーっと…た、食べないの?」
「食べたくなくなったからいらない」
「……私がもらっちゃっていいの…?」
「だからそう言ってんじゃん」

ええと、とりあえず、もらっておこう。菊地原くんの機嫌を損ねるのもよろしくないし。そこではたと気が付いた。もしかしてこれは「今日がんばったねおつかれさま」のプレゼントだったりするのだろうか。ブルーベリーってことは、もしかして私の目を気遣ってくれたり………。都合よく考えすぎだとはわかっている。でも、菊地原くんの遠回しすぎるやさしさなのかもしれないと思うと、ああ、だめだ。顔がにやけてしまう。うれしい。

「……ふふ、」
「………何笑ってんの。気持ち悪いんだけど。」
「な、な、何もないよっ」

じゃあ、またね、とビニール袋を大事に抱えて別れた。大切に食べよう。





そして、次週、そのまた次週の合同訓練を終える。あっという間に3週こなして、ちょっと呆然としている。毎日稽古稽古の連続で、一週間が本当に早く感じられて、合同訓練では疲れ切っての繰り返し。今回は転送場所があまり良くなくて苦戦したが、サイドエフェクトを頼りまくって的中数を稼ぎ、16位という結果に。C級トップは守り続けたので、B級昇格、ということらしい。なんだか全てが一気に過ぎ去ってしまって全く実感が湧かない。

「蒼井、B級昇格おめでとう」

荒船先輩と穂刈先輩に瑠花が昇格するぞと得意げに話す当真師匠の隣で、どこかぼーっとしていると、東さんから声をかけられた。本当によく頑張ったな、と。東さんから言われると、実感がじわじわとわいてきて、ほろりと涙が出た。なんで泣くんだと慌てる東さんに何も言えないでいると、当真師匠が東さんが泣かせたと騒ぎ出す。

「嬉しいです。やっと皆さんのお役に立てることが。恩返し出来るように、これから頑張ります」

涙声でそう言うと、東さんは優しい微笑みで、当真師匠はにっと嬉しそうに笑って、まだまだこれからだぞ、と私の頭を撫でた。
そうだ、やっとこれから始まるのだ。本当の戦いが。


祈らずとも朝日はやさしい


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