なぜこんなことに。

「瑠花ー、準備いいか?始めるぞ〜。そっちチームもいいな?」
「たったちたち太刀川さん、ま、待ってください、私やっぱりやめます……!」
『こっちはいつでもいい』
『いっちょやるぜ!』『いいっすよ!』
『瑠花、諦めろー。ちゃんとやれよ〜』
「よっしゃ転送開始ィー」

私の叫びもむなしく、模擬戦の仮想マップへ転送が開始する。3対3の異様なメンバーでの模擬戦が始まる。もう一度言うが、なぜこんなことになってしまったのだ。
時は1時間前に遡る。
私は当真師匠との待ち合わせの時間までロビーで一人座って待っていた。今日の稽古は、アイビスの使い方を学ぼう編。私のサイドエフェクト的に、技術さえあればアイビスでの長距離狙撃があっているらしい。まだイーグレットしか使ったことがないので、今日の訓練は少しワクワクしている。そんな私に近づいてくる足音。ぱっと顔をあげると、当真師匠ではなく、太刀川さんと出水先輩だった。

「よっ、瑠花。俺のこと覚えてる?」
「よう!当真先輩待ちか?」
「!たっ、太刀川さんと、出水先輩ですよね…。えっと…あの時は、助けていただいてありがとうございました…」

ボーダー入隊前に危険なところを助けてくれたお二人だ。後で知ったのだが、まさかのA級1位の部隊だった。ひいいいおそろしや!A級1位の人たちに!話しかけられてしまった!

「”サイドエフェクト持ちの狙撃手女子がナンバーワン狙撃手に弟子入りして初参加の合同訓練でトップテンに入りB級に昇格した”ってお前のことだよな?」

長い!噂がどんどん長くなってる!そしてどんどん広まってる!汗が出てきたのを感じつつ、とりあえず頷いておく。嘘ではないし…。

「すげーじゃん、有望株だな、瑠花」
「いっいや、私なんか…まだまだで…」
「そんな瑠花に模擬戦のお誘いだ。10本、当真と一緒に付き合ってくれよ」
「へっっっ!?」

突然のお誘いに素っ頓狂な声をあげ、目を見開く。えっ、も、模擬戦!?私狙撃手、狙撃手ですよ!?

「俺と出水、それから米屋わかるか?ただの模擬戦じゃ面白くないから、狙撃手いれた即興の混成チーム作って戦ろうぜって話になったんだ。狙撃手がいいとこにいたもんだから声かけたわけだ」
「当真先輩もう少しで来るんだろ?そんで、暇そうな攻撃手だれか捕まえたら人数合うし」
「ちょ、ちょっと私は…そんな…お相手にならないと思います、ので…それに、今から当真師匠と稽古があって…」

しどろもどろになりながら断ろうとしていると、いいところに当真師匠が来た。天の助け、とばかりにすがりつき、事情を説明すると、にやっと笑って言った。

「面白そうじゃねーの。いいっすよ、戦りましょう」
「えええっ!?」
「そう来なくっちゃなあ」
「やった!さすが当真先輩!」

当真師匠はにやにやしながら、いいじゃんやろうぜ、いい訓練になるからよと私の背中を叩く。そういう問題じゃなくてですね!?!?A級と戦えるほどの技術は持ち合わせていなくて、ですね!?顔面蒼白で必死に首を振っていたが、話がどんどん進んでしまう。ふぎゃぁぁぁ。

「あと一人誰かやんねーかなあ」

太刀川さんがキョロキョロと見回す。いません、いませんよそんな暇な方。だから今すぐやめましょう、と私が念を送っていると、そこに現れたのは意外な人物だった。

「その混成チーム、参加していいか」
「かっ風間さん!?」
「おおっ、珍しい。いいっすよ、こりゃおもしろくなりそうだ」

太刀川さんは喜んで承諾してしまった。ちらりと私を見た風間さんが意味深な視線を送って来る。まるでお前の力を見せてもらおうかとでも言いたげな視線に、光の速さで視線を逸らした。無理ですほんと帰りますうううう!

そんなわけで今に至る。チーム分けは、太刀川さん、米屋先輩、私。対して、風間さん、出水先輩、当真師匠のメンバーになった。こわいんですけど、誰を狙えばいいのか分からないんですけど…!!!内心パニックになりながら、とりあえず狙撃ポイントについてイーグレットを構える。太刀川さんと風間さんのやりあいをサポートする米屋先輩と出水先輩を見下ろしつつ、どう太刀川さんをサポートすればいいんだと頭がぐるぐるしている。実は模擬戦初めてで、サポートの仕方がわからないのだ。と、とりあえず、敵チームの人を撃てばいいんですよね?しかし動きが速すぎてついていけない。すると、途中で太刀川さんが止まった。ん?なんで止まったんだろう。風間さんは普通に動いていて、ちょうど射線上にきた。隙だらけだ。えっ、これ撃っていいんですよね?一瞬躊躇ったが、これを撃たないなら狙撃手じゃないと思って引き金を引いた。

ドンッ!

「!?」「はっ?」「風間さん!?」「マジか」「おっ?瑠花!?」

「………?」

風間さんが落ちて、明らかに皆さん動揺している。えっ、今撃ってよかったんですよね…?もしかして風間さんのターンは誰も攻撃しちゃダメみたいな暗黙の了解が…!?と内心焦っていると、心臓に衝撃をくらって、当真師匠に撃たれたということに気づいた。ひいいい心臓撃ち抜かれたぁぁぁ。模擬戦怖い!!!

『…蒼井』
「ひゃいっ!!」

ベッドの上に落ちてきて、あと9本も残ってる、どうしよう、とため息をついたとき、風間さんがモニター越しに声を発した。声しか聞こえないけどなんか怖い。怒っているのだろうか、私が暗黙の了解を破って撃ってしまったから…!

『どうやって狙いを定めた?当てずっぽうじゃないだろう?』
「へっ。え、ふ…普通に…?」
『……普通に?』
「っすすすいませんでした!撃っちゃダメとか知らなくて…!!」
『……いや、全く問題ない。むしろどんどん撃っていい』

謎の言葉を残してブツンと回線が切れた。むしろ撃っていいって…どういうことですか…?とりあえず、わ、悪いことはしてないってことでいいんですか?不安でいっぱいになっている中、米屋先輩が出水先輩を落とし、居場所がばれた当真師匠が太刀川さんに斬られて1本目を終了した。2本目の開始のアラームが鳴り、転送が始まる。早く終わりたいです……胃が痛い……。




「いやー、楽しかったな〜」
「太刀川さんもっと手加減してくださいって!!」
「だって風間さん相手だし手加減したらこっちが殺られるもんよ。狙撃手いるしさあ。でも風間さんなんか今日不調でしたね?」
「………」

私が10本終えてフラフラしながらブースから出ると皆さんはとっくにブースから出て感想を言い合っていた。えっ皆さん超元気…。なんでそんなに元気なんですか…。
私はというと、撃って場所がバレて隠れる最中に見つかって落とされる、の繰り返しで疲れ切っている。そのうち3本は当真師匠に撃たれた。私の師匠の狙撃正確すぎてこわい。確実に落ちる心臓か頭しか狙ってこない。トラウマすぎる。出水先輩のフルアタックもトラウマになった。何ですかあのアステロイドの雨。射手こわい。容赦なく首を狙ってぶった切る太刀川さんも見ていてこわかった。もうA級皆こわい。
私の狙撃もなかなか頑張った方だとは思うのだが、サポートの仕方が分からずあまり役に立ったとは思えない。ちょっと模擬戦初心者の私には荷が重すぎました。体力精神力ともに削られ、へろへろになって椅子に座る。と、そこへ風間さんがやってきた。

「蒼井はどうやって俺を捕捉していたんだ」
「それ!俺も思いました!何で分かんの?」
「なんか狙撃めっちゃ当たってましたよね、何でだ?」
「え、と………?」

何でそんなことを言うのかわからない。風間さんは隠れていたわけでもないのに。むしろシールドもなく隙だらけだったのに。動きは速かったが。

「瑠花、風間さんはステルス戦闘ってやつのエキスパートなんだよ」
「…すてるす…?」
「隠密トリガー、カメレオンってのを使って戦うやつだ。あー、つまり、体を透明化して戦うんだ。普通は見えなくなる」
「透明化……」

当真師匠が説明してくれるが、やはり私はついていけないままだ。何も知らなかった。え、でも、透明化なんて。
してなかったですよね?

「やっぱなあ。瑠花の強化視力には、カメレオンが効かないみてーだな」
「………そういうことか」

皆さん揃ってぎょっとしたように私を見つめる。
私のサイドエフェクトは一波乱呼びそうです。


ぼくら奇跡の星生まれ


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