ポンパドールの姿でいるのにいつまでたっても慣れない日々だ。最初は狙撃手陣とすれ違うたびにえっ誰!?と振り向かれてとても気まずかった。しかしこのヘアスタイルにしてから、命中率がぐんと伸びた。自分が思っていたより、前髪の障壁は邪魔だったようだ。

「瑠花ー、ジュース買いに行くぞ。おごってやんよ」
「えっ、そ、そんな」
「今日のノルマクリアしたご褒美な」

当真師匠はこうしてときどきご褒美をくれるのだが(お菓子やら食堂のデザートやら)、いつも断りきれずにもらっている。東さんに見られた時は、弟子は師匠に甘えておけばいいんだと微笑ましげに言われた。そういうことにしておとなしくおごってもらっているが、経費がかさむのではないかと心配している。



自動販売機のある中庭へ行くと、風間隊が任務終わりでジュースを買っているのに出くわした。

「おっ。皆さんおそろいで。お疲れ様でーす」
「お、お疲れ様です…!」

風間隊の三人は挨拶した私を見てぽかんとしている。あ、そういえばこのトリオン体で会うのは初めてだった。

「は?誰?」

菊地原くんの第一声はそれだった。蒼井です、と申告すると、嘘でしょと言われた。それが嘘じゃないんですよね。

「前髪は?眼鏡は?」
「冬島さんにトリガーいじってもらったんだよなあ。似合うだろ、ウチの瑠花」
「霊が視えないようにトリガーを改造してもらったの、そのときについでにって…」
「視えないように?そんなことできんの」
「う、ん。ええと、サイドエフェクトの一部を制御とか何とか、で…」
「…ふーん」

冬島さんに感謝しなよね、と言われたが、もちろん感謝はしているのだが前髪がなくなってしまって素直に喜べないというか…。まあ命中率上がったし喜ぶべきところなのだが。

「…見違えたな。ずいぶん印象が変わるものだな」
「ですね。一瞬誰かわからなかった」

風間さんはポーカーフェイスが崩れて珍しく驚いた表情だし、歌川くんも驚きを隠せないようだった。

「それはいいとして…頑張ってるようだな、攻撃手の間でも噂をよく聞く」

ほんの少し表情を緩めた風間さん。ええええそんな有名になるつもりはなかったんですが…。はあ、と若干引きつりながら言うと、風間さんは今度は当真師匠に視線を移した。

「蒼井を頼むぞ、当真」
「うっす。任せてください」

謎の会話を終えると風間隊は去っていった。それを見送り、菊地原くんの耳が拾わないくらい遠ざかってから、当真師匠は私をまじまじと見た。

「お前なんであんなに風間さんに気にかけてもらってんの?」
「わ、わかりませんが…菊地原くん経由で、入隊前に一度お話したことがあって…だからかなあと…」
「はーん。お前結構謎な人脈あるよな」

りんごジュースをおごってもらい、その帰り道、今日の昼飯は食堂で一緒に食おうぜと誘われた。拒否権はほとんどない。というかあっても言い出せない。内心ええええと叫んでいたが、黙ってりんごジュースを飲んでいた。


食堂に半ば強制的に連れてこられると、荒船先輩と穂刈先輩をはじめとした6人が大きなテーブルを囲んでいた。えっこわっ。それに気づいた私が突然立ち止まると、私の背中を当真師匠が押してくる。

「おいおい瑠花、立ち止まんなって。皆お待ちかねなんだからよ」
「っ!?えっ?なっ、ななな何事ですか?こわいんですけど!」
「俺の同期のメンツに弟子を見せびらかそうと思ってよー」
「ききき聞いてないですぅう!」
「だって言ったらお前来ねえじゃん」

無理無理無理こわすぎます!!18歳の先輩6人!知らない先輩がそのうち4人もいる!ぱっと見のガラの悪さは私じゃなくても近寄らないですよ当真師匠!!あああ引っ張らないでえええ!と本気で嫌がる私をずるずると引っ張り、待たせてわりーわりーとそのテーブルへ近づいていく。

「やっと来たか」「めちゃくちゃ嫌がってんじゃねえか」「えっめっちゃかわいくない?噂と全然違うんだけど?」「感情ビシビシ来てて痛え。怖がりすぎだろ」「ありゃりゃ。ゾエさん怖くないよ〜」「当真、あまり無理をさせるな」

6人が口々に話している。前に出された私は必死にうつむいているので誰が喋っているのかはわからない。あああ逃げたい。逃げたいが、ここで変な真似をしたら当真師匠の名に傷がつく。しっかりしなければ!と顔をおそるおそるあげると、皆さん興味津々で私を見ていた。ひいいいい!

「お待ちかねのお披露目ターイム。こいつが噂の俺の弟子な。見ての通りコミュ障やべーからなるべく優しく接するように、特にカゲ」

俺かよ、と舌打ちする先輩。ひいっこわい。とりあえず自己紹介をせねば、と息を吸う。

「ひっ…蒼井瑠花です、よ、よろしくお願いします……!」

ひっとか言っちゃったああ!と涙が出そうなのを我慢していると、先輩達はよろしくなと思っていたよりもアットホームな空気で答えてくれた。ちょっとだけ緊張がほぐれた気がする。

「じゃーこっちも自己紹介しなくちゃな!俺は二宮隊の犬飼澄晴、よろしく瑠花ちゃん」
「鈴鳴第一の、村上鋼だ。よろしくな」
「影浦雅人。影浦隊隊長」
「同じく影浦隊の北添尋。ゾエさんって呼んでねー」
「俺たちは自己紹介いらねーか。まあ、改めて、荒船隊隊長の荒船哲次だ」
「穂刈篤、同じく荒船隊。いつも頑張ってて偉いな、蒼井は。」

私は自己紹介にこくこくと頷いていたが、穂刈先輩に不意打ちで褒められてしどろもどろになりつつありがとうございますとお礼を言った。ひいいい、褒められた。
自己紹介を聞く限りでは、見た目ほどこわくなさそうな先輩たちだったのでホッとした。それにしても仲の良さそうな雰囲気だ。

「いやー、当真が弟子とるって言った時はビビったなー。ちゃんと師匠やってんの?」
「ナメんなよ、超師匠してっから。なあ、瑠花?」

犬飼先輩がにやにやして当真師匠に言うと、当真師匠はいきなり私に話題を振り、ビクッとしながらも口を開く。

「とっ、当真師匠はとっても良くしてくださっています、どんどん上達してる実感もありますし、私にはもったいないくらいの本当に素敵なお師匠です……っ」

言いたいことがうまく言えないが、とにかく思いつくことを一気に言い終えると、当真師匠を含めた7人の視線を一斉に浴びる。ええええそんなガン見しないでくださいいい。変なこと言ったかな、と不安になっていると、犬飼先輩がまず口を開いた。

「えっ天使?」
「やべえ…俺の弟子が天使……」
「前から思ってたけど本当…なんつーか」
「良い子の鑑だな」
「それだ。ポカリ」
「良い子すぎてゾエさん泣けてきた」
「当真にはもったいねーんじゃねーの」
「来馬先輩に会わせたい」

口々に言われてえっえっと慌てていると、なぜか皆さんから当真をよろしく頼みますと言われた。逆ですが……!!?


しあわせの輪郭をなぞる日々


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