狙撃手合同訓練を終え、奈良坂先輩に褒められたり茜ちゃんになぜか慕われたりといろいろあったのちに冬島さんのもとへ当真師匠とトップテン入りの報告へ行くと、とても喜んでくれた。本当に焼肉をおごってくれるらしい。先に帰りの準備してろと言われ、いそいそと訓練室へ戻りトリガーオフしようとしたところに、とんとんと肩をたたかれた。振り向くと見知らぬ人であからさまに動揺してしまう。

「…!?」
「蒼井さん、で合うてるよな。これ、落としはりませんでした?」

そう言って見せられたのはハンカチだった。どこかでハンカチを落としてしまっていたようだった。手汗でイーグレットがすべらないようにいつも持ち歩いているものだ。名前を書いていてよかった。

「あっ、ありがとうございます。私のものです…!」
「ええですよ。よかったわ、見つかって。さっきから探してたんやけど、おらんからもう帰ってしもたかと」
「あ、えと…わざわざすいません、その、探してもらって…」
「いえいえ。気にせんといてください」

慌てて受け取ると、サンバイザーが特徴的な男性隊員は、優しげな笑顔を向けてくれた。この方も狙撃手か。聞きなれないなまりは関西弁のそれだ。関西出身の人もいるんだ。ボーダーってやっぱり大きい組織だなあと実感する。なんて名前なんだろう、聞いておきたいと思っていると、向こうから名乗ってくれた。

「おれ生駒隊の隠岐孝二いいます。話題の蒼井さんとずっと話してみたかったからうれしいわ。それにしてもすごいなあ、いきなり10位」
「ええっ、めめ…めっそうもないです…」
「謙遜せんでええのに」

ずっと話してみたかったとか、すごいとか、いきなりいろいろと恐れ多いことを言われ思わず後ずさりしていると、くすくす笑われた。嫌な感じの笑い方ではない。どこか優しい雰囲気をまとっているので、私の心臓的には親切な方のようだ。

「B級狙ってるんやろ?」
「い…いちおう…」
「蒼井ちゃんならすぐいけると思うで。がんばってな」

さわやかな笑顔とともに頭を軽く撫でられ、ほななーと手を振って去っていった。なんか…さすが関西の人というか…コミュ力高いですね…。ぽかんとしていると帰り支度を済ませた当真師匠がやってきた。

「なんだまだ準備してねーの?もう行くぞ、肉が逃げるだろ」
「に、肉は逃げないかと…」
「ジョーダンだっつの!」

呆れた顔を向けられた。わ、わかってますよう、ともごもご言いながらトリガーオフして出てきた眼鏡を押し上げ、帰り支度をすばやく済ませる。ロビーに向かいながら、隠岐さんのことについて聞いてみた。

「あの…隠岐さんって…どんな方なんですか?」
「隠岐ィ?機動型狙撃手って呼ばれてるぜ。グラスホッパーを移動に使うんだ、あいつ」
「ぐらすほっぱー…?」
「あー、その辺は今度説明するわ。つかなんで隠岐?」
「さっき落とし物拾ってもらって…」
「瑠花はおっちょこちょいだからなー」

むむむ、言い返せない。黙っていると、わしゃわしゃと頭をなでられた。今日の当真師匠は機嫌がいい。





「そんじゃあ、瑠花のトップテン入りを祝してェ〜、乾杯!」
「乾杯〜〜」
「あ、ありがとうございます…っ」

焼肉を食べに来るのはなんと初めてです。基本外食をあまりしなかったので、新鮮な感じだ。この独特の煙の匂いだとか、ジュウジュウ焼ける音が、どれも食欲をそそられる。肉は好きです。あまり量は食べられないが。

「いやー、手塩にかけて育ててきた甲斐があったってもんよ」
「頑張ってたもんなあ。珍しく当真が真面目に、熱心に教えてたしなあ」
「冬島さんのトリガーと、当真師匠のご指導の賜物ですっ。本当にありがとうございます…!」

頭を深々と下げると、お前の努力の成果だよ、と笑って言われた。ううう優しい。こんな良い人たちに恵まれて、私は幸せ者だ。肉焼けたぞどんどん食え、と肉を皿に山盛りにされて、味わいつつ食べていると、ひょこりと椅子を隔てた隣の席から見覚えのある人が顔を出した。

「やっぱり当真じゃん!聞いたことある声がするなーと思ったんだよね〜」
「お、犬飼!ってことは二宮隊で来てんのか?」
「そーだよ。あれっ、そっちの子瑠花ちゃん?えっ何あの前髪と眼鏡?」
「あれがデフォルト」
「えっ全然違うね!?」

肉をモグモグしていたので挨拶が言えず、とりあえずぺこっと会釈をする。頑張って噛んで飲み込んで、遅れながらもこんにちは、と言うと、タイミングが悪くて次の当真師匠の声とかぶって聞こえていなさそうだった。ううう。お肉食べてたんですもん…。

「聞けよ犬飼〜。瑠花合同訓練でトップテン入りしたんだぜ。どーよウチの弟子、すげーだろ」
「えっ、トップテン?すげーじゃん!ちょっと、聞いてくださいよ二宮さん!例の当真んとこの弟子がトップテン入りしたって!」

当真師匠が私を自慢してくれた!それは嬉しいが、犬飼先輩が二宮隊の隊長さんに私のことを教えている!!二宮隊の隊長さんといえば、B級ランク戦を見学した時の鮮やかな戦法が目を引いた、あの射手の方だったはず。ひいいい恥ずかしいです!!やめてください!!縮こまりつつも、反応が気になって目を凝らす。椅子を通して様子を伺うと、二宮さんと呼ばれた方はあまり興味なさげに肉を焼いていた。きっちりした髪型にクールな表情は、こわい印象がある。それから隣にはもう一人攻撃手だった人と、オペレーターの人もいた。当真師匠に声をかけられてハッとして視るのをやめた。

「な、瑠花。次も余裕で勝ち抜くよなあ」
「えっ、え!?いや、今回は転送場所が良かったからでもあるので、その……」
「いやいや実力だぜ、なあ隊長」
「ああ、日頃の稽古の成果だと思うぞ。かなり距離あっても的中してたみたいだしな」
「変態狙撃も受け継いじゃってんの?瑠花ちゃんやるねえ」

ひいいい次へのプレッシャーがすさまじい!汗がぶわっと吹き出る。いやでも本当に今回は、転送場所が見晴らしのいいビルの中だったことも大きいのだ。…と言っても聞いてもらえない。うううこわい。次がこわい。いい結果を残すなら三週連続じゃないと、意味がないのだ。まだまだ練習を積まなければ。それから一心不乱にお肉を食べていたが、それらはあまり味を感じなかった。


星の呼吸も儘ならぬ


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