ついに明日だ。つらかったこの一週間、学校の授業が終わってすぐさまボーダーへ行き、追い出されるギリギリまで狙撃訓練して帰って、家でDVDを見る、の繰り返し。かといって学校の課題はやらないわけにはいかないし、睡眠時間が削られて寝不足だ。眠さを堪えつつ目をこすると、チャイムが鳴って1日最後の授業が終わった。早くボーダーに行かなくちゃ。

「明日だっけ、初の合同訓練」

帰り支度を急いでいると、菊地原くんに声をかけられた。うん、と頷く。

「この一週間必死そうで見てて面白かったよ」
「お、おもしろ……。だって、C級トップ5に入らなくちゃ……」
「知ってる。…ま、期待してるよ。当真先輩の一番弟子なんだからね」
「ううっ………う、うん」

応援されたのかプレッシャーをかけられたのか分からない。後者しか感じなかった。うう、胃が痛い。そこで別れてボーダーへ急いだ。今日は明日に向けて最後の特訓だ。時間がもったいない。



そして来る当日。周りには狙撃手という狙撃手ががやがやとにぎやかにして仮想マップへの転送を待っている。

「緊張しすぎだってーの、瑠花」
「はひっ、だだだだいじょうぶですっ」
「それの何が大丈夫なんだよ。ほら深呼吸〜」

私はというと、余裕そうな当真師匠のそばでがちがちに緊張して縮こまっていた。こわい。いい結果を残さねば。訓練用トリガーのイーグレットをしっかりと抱え、深呼吸を繰り返す。
するとそこへ、荒船先輩と穂刈先輩がやってきた。このお二方ももちろん参加するのか。

「この一週間ずいぶんハードな稽古をしてたらしいな、蒼井。がんばれよ」
「見せ所だな。特訓の成果の」

ひいいいプレッシャーがああ。表情筋が引きつるのを感じながら、はい、と答える。
昨日の学校では菊地原くんから明日の合同訓練期待してると言われたのも思い出し、頭が真っ白になりかけたとき、ポンポンと頭をたたかれた。もちろん当真師匠だった。

「お前のことだからどーせ、俺に恥をかかせないようにーとか期待に応えなくちゃーとかいろいろ考えてんだろ?」

図星だ。すごい、エスパーだろうか。ぱちくりしていると、瑠花のことはなんでもわかるからな、と言われた。

「いろいろ考えるのやめだ。とにかく、全力で探して、撃つ。撃ったら逃げる。これだけ考えとけよ。何も心配しねーでいいから。ぼーっとしてたら俺がお前を撃ってやるからな!」

わかったか、と小突かれ、少し落ち着いて頷くとすぐに転送が始まり、目を閉じる。よし。さっきの当真師匠の言葉通りにしよう。全力で探して、撃つ、そして逃げる。これだけだ。深呼吸を一つして、目を開ける。もう訓練は始まっている。
運よく転送場所がビルの中だった。窓に寄り外を見渡すと、かなり見渡しが良い。これなら、いける。意識を集中させ、当真師匠から伝授された、”狙撃手が好む隠れ場所”をしらみつぶしに視ていく。路地裏、小高い丘、壁に阻まれたところ、高い建物の中まで。射線が通りそうなところを隅々まで辿っていく。集中すればするほど、あちらこちらに狙撃手を視つけた。いるいる、狙撃手がうじゃうじゃと。
呼吸をひそめて、イーグレットを窓から構えた。




「瑠花!」
訓練終了後、当真師匠から名前を呼ばれて顔を向ける。当真師匠は一つも被弾のマークを体につけていない。すごいなあ、と思いながら、自分の体を見た。C級の制服のあちこちにいくつもマークがついている。数えると、その数10。全然だめだ。あーあ、とため息をつく。目が乾くほど瞬きを惜しんで視ていたのに。これじゃあB級はまだまだ程遠い。どっと疲れが襲ってきた。

「すいません当真師匠、わたし……」
「は?何言ってんだ!すげーよ、さっすが俺の弟子だぜ!」
「……え?被弾10こもあるんですよ、あんまり最初のビルから動かなかったからすぐ場所ばれちゃって…」
「…お前まさか、自分の的中数わかってねーの?30だぞ、30!!」

さんじゅう…それが多いのか少ないのかもよくわからない。でも当真師匠の喜びかたからして、もしかしてC級トップ5に入れたのだろうか。どきどきしながら掲示板を見に行く。今回のランキングが上から順に発表されている。とりあえず上から見ていこうと思って1位から見ていると、10番目に私のブース番号と名前が書いてあった。……え?

「瑠花!10位だぞ!初参加でトップ10入り、C級の中じゃダントツでトップ!がんばったなー、えらいえらい!」
「えっ、えええええ!」

頭を乱暴に撫でられながら嘘じゃないかと目をこするが、何度見ても10位の欄に私の名前が載っている。ぎゃー!!ほんとだー!!うれしすぎて涙出てきた。

「と!当真師匠!」
「おう!瑠花!」

気持ちのいい音を立ててハイタッチをかわす。よっしゃ今日は冬島さんのおごりで焼肉だー!と喜ぶ当真師匠に、ある先輩が近づいてきた。

「…当真さん。」
「お?おーう奈良坂じゃねーの!聞いてくれよ、俺の愛弟子が初参加でトップテン入りだぜ〜。お前を抜く日も近いんじゃねーの!?」
「とととと当真師匠それは無理です…っ!」

奈良坂先輩だ。狙撃手になりたての私にこっそりアドバイスをくださった方で、いつもいつも安定した正確な狙撃をすることで定評のある、ナンバーツー狙撃手。まだあんまりお話したことはなかったが、私はこっそりしっかりその狙撃を見させてもらっていた。

「ああ、見たぞ。10位おめでとう、蒼井。すごいな、驚いたよ」
「あっありがとうございます…!」

ひいいい、奈良坂先輩に褒められてしまった!どうしよううれしい!顔が熱くなるのを感じながらぺこりと頭を下げる。奈良坂先輩は、こいつが蒼井と話がしたいっていうから来たんだ、と言って一歩下がる。と、背中に隠れて見えなかったが、白いおしゃれな隊服を着た女の子が一緒にいたのに気が付いた。二つ結びでかわいい子だ。隊服からして、A級かB級の部隊の子だろう。女の子の狙撃手と話すのは初めてでとても緊張する。私に何か用だろうか。もしかして、私に撃たれたから文句を言いにきたのかもしれない、と思いついて慌てて謝ろうとすると、その子が先に口を開いた。

「あの…、私、那須隊の日浦茜っていいます!中学三年生です!入りたてのころから熱心な先輩をこっそり見てて、いつもすごいなあって思ってました。初参加で10位、尊敬します!あの、蒼井先輩って呼んでもいいですか!?」
「……へ!?」

きらきらした目で見つめられて、動揺を隠せない。そ、尊敬?私を!?脳みそがぐるぐるまわっている。何歩か後ずさりしながらこくこくと頷くと、日浦茜ちゃんはやったー!と喜ぶ。私はいまだにいろいろと追い付けずに、とりあえず引きつった笑みをこぼした。



ミルクと銃口


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