ある日の訓練中、当真師匠がにやにやしながらやってきた。スキップでもしそうなくらいの、上機嫌である。私は手招きされて眼鏡をかけつつブースを出る。

「瑠花、今日のノルマは?」
「クリアしました」
「よーし、じゃあちょっと来い来い」

首をことりと傾げる。何かあったのだろうか。聞いてみても、なーいしょ、とどうみても何か隠している笑顔で言われるのだ。とりあえずついて行ってみる。向かう先は、当真師匠の属する冬島隊の作戦室だ。中に誘導され、おとなしく入る。

「おお、来たな。瑠花ちゃん」
「こ、こんにちは、冬島さん」

冬島さんが出迎えてくれた。冬島さんは当真師匠の隊長さんだ。当真師匠の弟子になってからというもの、ときどき作戦室にお邪魔することがあって、よくしてもらっている。女子高生が苦手らしいが、私にはそんなことはなく、とても優しい方だ。特殊工作兵、というちょっと珍しいポジションらしい。

「今日は…何か…?」
「うんうん。よくぞ聞いてくれた、瑠花ちゃん。当真から頼まれてな、ちょっとこれ作ってみたんだ。使ってみてくれや。つってもまあ、普通の訓練用トリガーいじっただけなんだけどな」
「へ…?」

手渡されたのはいたって普通の訓練用トリガー。今使っているのとあまりかわらないように見えるが、何かが違うらしい。二人からせかされて、とりあえずトリガーオフしてトリガーをもらったものに変えてみる。

「トリガー、オン」

いつもの換装を済ませ、トリオン体になる。が、何か違和感を感じた。あ、れ?

「…!?えっ!?」
「…あらまあ。かわいいじゃん」
「うおっ、超いいじゃん。さすが俺だな!!」

な…ない!前髪と眼鏡が、ないっ!!
ぎゃあああ!!視界が最高に良い!なぜだ!前髪も眼鏡も、どこへ行ってしまったんだ!!パニックになる私の肩を抑える当真師匠。落ち着けと言われるが、落ち着いていられるものか。鏡を見せてくださいと必死でせがみ、見せてもらって呆然とした。眼鏡は忽然と姿を消し、代わりに長かった前髪が結ばれて大きめのピンでとめられ、おでこを晒したいわゆるポンパドールのヘアスタイルになっているのだ。

「ちょっと説明していいか、瑠花ちゃん?」
「はっははははい、えっちょっとこれどういう」
「あのな、当真から頼まれたんだ」

頼まれたって、当真師匠は私の前髪と眼鏡をなくすことを冬島さんに頼んだのだろうか。えっちょっとなにそれ遠回しに私への嫌がらせでしかないんですが。前髪返してください!眼鏡も!
なんて思っていたが、冬島さんの次の言葉に思考を止めるのだった。

「頼まれたことってのは、トリガーいじって、霊を視えないようにできないかってよ。意外とできそうだったんで、やってみた」
「え…!?そんなこと、できるんですか…!?」
「たぶんできた」
「うちの隊長にかかれば朝飯前ってことよ!」
「いやわりと大変だったけどな」

私のために、そんなことまで。当真師匠と冬島さんをかわるがわる見て、口をぱくぱくさせた。長らく悩まされてきたサイドエフェクトの悩みが消える、こんな日がやってくるなんて。夢のようだ。

「とりあえず、見え方に支障ないか?一応、サイドエフェクトの一部を制御して霊のたぐいだけ見えないようにしたつもりだが…上手くいってるかは正直よくわからんからな」
「えっと、外で使ってみないことにはわかりません、が…いちおう今の所は良好です!」
「そーか。また視えたら遠慮なく言ってくれよな、また改良するからよ。手探りだからなんとも言えねえから、そこはちゃんと正直に報告するように」
「は、はい。…本当に、ありがとうございます……!」

二人に向かって深く頭を下げると、二人は嬉しそうに笑ってくれた。う、う、うれしい。サイドエフェクトの悩みが解消されたこともうれしいが、なにより、私のためにこんなことまでしてくれたことが、嬉しいのだ。感謝の念しかない。

「いいってことよ。お前さんのこれからに投資したようなもんだ。頑張ってくれよな」
「は、はいっ。がんばります…!」
「これで、トリガー使ってる間はオバケの心配はないってことだな。よかったな、瑠花」
「はい、ほんとうに、ほんとうにありがとうございます…!!

じわりとにじんだ涙をぬぐい、微笑んでみせる。期待を裏切らないようにがんばるしかない。まずは早くB級にあがらなくては。
と、考えたところで。思考は最初に戻った。だって視界が良すぎて違和感が半端ないのだ。

「あの…それで、前髪と眼鏡は……」
「ああ、トリガーいじったついでに、オバケ視えなくなるんだったら前髪も眼鏡もいらねーなってことで、そのとおり。トリガーオフしたらちゃんと元に戻る。眼鏡も出てくる」
「ええええ!困ります!困ります!」

感動の涙が一瞬で引っ込み、いつものネガティブな涙が出てきた。全力で拒絶すると、当真師匠が唇を尖らせた。

「何が困るんだよ、いいじゃん。そっちのほうが数倍かわいいし」
「ふ、不安で落ち着かないんです…!」
「はい却下ー。俺とおそろいじゃん、いやなのかよ?」
「ええっ」

そう言われてしまうと嫌だとは言えないし、当真師匠とおそろいならいいかなんて思ってしまうからやめてください!!

「もしかしてずっとこのまま…ですか…?」
「トリオン体のときはずっとそれだな」
「なんだよ瑠花、オバケ視えなくなるのと前髪眼鏡あるのとどっちがいいんだよ」

なんてことだ、それは究極の選択…!!私が本気で迷い始めると、そこは迷うなよと頭をたたかれた。もちろん、オバケ視えないほうが、イイデス。
…戻ってこい私のバリケード〜〜。


とろける魔法は夢の底


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