”菊地原の紹介で入隊したサイドエフェクト持ちの狙撃手女子がナンバーワン狙撃手の弟子勧誘を断った”という噂は、次の日には”菊地原の紹介で入隊したサイドエフェクト持ちの狙撃手女子がナンバーワン狙撃手に弟子入りした”と見事に上書きされてあっという間に広まった。視線はこれでもかと集まるようになってしまったが、こわくて当真師匠のそばにへばりついているとだんだんと注目度は静まってきた。皆が慣れてきたのか、当真師匠があまりにも堂々としているからなのか。たぶん両方だろう。

当真師匠の稽古は、とにかく大変だった。当真師匠は感覚派の天才型狙撃手であるようで、習っている私もだが教えている当真師匠も首をひねりながらの稽古の日々を送っていた。仕舞には、俺いつもどうやって撃ってたっけ、なんて言い出す始末である。しかし、習得するものはやはり、大きい。試行錯誤を繰り返しながら練習を積むうち、だんだん当たるようになってきて、的との距離をのばそうという段階にやっと到達した頃のことだ。当真師匠は私をじっと見て言った。


「なあ、瑠花。前髪邪魔じゃねーの?普段眼鏡までしてるしよ。いじめられてんの?」

いつか言われるだろうなあと思ってたことだ。逆に今まで言われなかったことが驚きなくらいだった。

「いじめられてはないです…ただ、私のサイドエフェクトのことで…」
「やっぱりなんか関係あんのか?」
「はい。ええと、これは言ってなかったんですが…私、視えないものが視えるんです」
「は?」
「その、いわゆる…お化けのたぐい、です」
「オバケぇ?」
「はい。ずっと見えてるわけではないんですが…建物の中ではあまり視えないんですけど、外に出たら、”いる”ときは、いつも視えるんです。地縛霊、とか、背後霊、とか…火の玉みたいなもの…とか」

信じてもらえるだろうか、と不安になりながらも告白すると、あんぐりと口を開けた当真師匠は引きつった笑いをこぼした。

「マジかよ…それサイドエフェクト関係あんのか?霊感あるだけじゃね?」
「そうだと思ってたんです、けど…でも、眼鏡かけたら、ちゃんとレンズを通して見にくくなるんです。ということは、やっぱり眼の影響なんじゃないかと。お祓いとかやっても効果ナシでしたし、視えるだけで触れたりとかはないので…」
「あー…なるほどな。マジか。やばいな」

神妙に頷く私を引いたような視線で見る当真師匠。絶対引いてる。一応信じてはくれたようだ。

「じゃあ、オバケ見たくないがために眼鏡かけてたのかー」
「まあ、はい。とくになぜか三門市はかなりの頻度で視えるんです…」
「あー、近界民の侵攻とかあったからかねえ」
「え?」
「あ、瑠花知らねーのか。この街、ボーダーができる前に一回ズダボロにやられてんだよ。そんときに死者もかなり出たからさ」

さらっと当真師匠が告げた言葉は、衝撃をくらったようだった。このボーダーに守られた平和な三門市が、そんな惨劇に見舞われた過去があったなんて。何も、知らなかった。

「…そんな、ことが…」
「古株のボーダー隊員は、そんときの被害者ばっかりだよ。近界民への恨みも晴らせるし、B級にあがりゃ、給料も出るしなあ」
「…そうなんですか…」
「あー、そんな暗い顔すんなって。今はこのとおり、平和な街だろ?俺たちがいるからな」

急に表情が暗くなった私の頭をがしがしと撫でる。されるがままになりながら、もっと強くならなくちゃと再度決意した。次にそんな大規模な侵攻があっても、もうこれ以上被害者が、悲しむ人が増えなくて済むように。

「話戻すけどよ、お前B級に上がったら防衛任務入るんだぞ?」
「…?そうですね」
「防衛任務、外だぞ。撃つとき、オバケ視えたらお前撃てねえじゃん」

ずぎゃーん。そ、そうか。それは全く考えていなかった。そもそもB級なんていつになるかもわからない話だとさえ思っていたのに。当真師匠の弟子になったからにはそうも言っていられないのだ。当真師匠の顔をたてるためにも、早く順位をあげなくてはならないのだ。そうすると、外での任務は避けられない。えっ、どうしよう。

「う、撃てるように、なりますよ。大丈夫です!……たぶん」
「…ま、そうだな。当分先の話だしな」

そこでその話は終わった。しかし、ちょっとこれは大変なことになった。裸眼であれを見ないといけないのか。…やだあああ。


いくじなしマスカレード


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