土曜日に当真先輩との事件が勃発し、日曜日はボーダーに行かなかった。行く予定だったのだが、行けるわけがなかった。当真先輩と会うかもしれないしこわすぎる。狙撃訓練はしたかったが、背に腹はかえられぬ。諦めて1日家で過ごして、そして月曜日のこと。学校へ登校すると、菊地原くんと歌川くんが話しかけてきた。

「ちょっと、蒼井。当真先輩からの弟子入りの誘い断ったって本当?」
「”菊地原の紹介で入隊したサイドエフェクト持ちの狙撃手女子がナンバーワン狙撃手の弟子勧誘を断った”って昨日ボーダー中に噂になってたぞ」
「えっええええ!?」

なにそれ!間違ってはいないが、正確には時間をもらっただけなのだが。そんな噂になることなの!?とパニックになっていたら、そりゃ噂になるだろう、と二人は頷いた。え、そんなに大変なことをやらかしたのか私は。

「だって普通、ナンバーワン狙撃手に誘われたら、断らないでしょ。何バカなことしてんの」
「まあ、断らずに弟子になってたとしても噂にはなってるだろうけどな」
「こっ断ったわけじゃなくって、時間をくださいって言っただけで…今日菊地原くんに相談しようと思って!あ、でもその前に一回断った気も…」
「ほらバカ。それに相談の余地とかないでしょ。ほんとバカ」

バカバカと連呼する菊地原くんに私は朝から涙目である。はたから見たら男子二人に泣かされている図に見えはしないだろうかと思ったが、みんな朝のおしゃべりに夢中で私たちの方は見向きもしていない。

「ば、ばかって…。だって、私は入りたてで、当真先輩はナンバーワンっていうものすごい人なんだよ…!?弟子入りなんて……!」
「だからこそでしょバカ。逆だってば。僕の時も同じ状況だったよ、まあ僕はスカウト受けたけどね。蒼井と違って賢明だから」

なぜか菊地原くんの機嫌がすこぶる悪い。怒っている。歌川くんがまあまあ、となだめると、菊地原くんはため息をついた。

「で、どうすんの。今日返事するでしょ。本当に断るわけ?」
「……弟子入り、お願いしてきます…」

私がか細い声で宣言すると、もう一度ため息をついて、ホントめんどくさいやつ、と言い残して席に戻っていった。残った歌川くんが、苦笑して私に話しかける。

「あいつはいろいろと言葉が足りないんだ。大目に見てやってくれ。それより…俺もそうしたほうがいいと思うぞ」
「…歌川くん」
「蒼井の言いたいことはわかるけど、このチャンスを棒に振るのはもったいない。あの人が弟子をとるなんて言い出すの初めてなんだぞ。ほかの狙撃手たちがうらやむ、ナンバーワン狙撃手の弟子になれるんだぞ」

そうかもしれないけれど。そうだからこそ、私でいいのだろうかと不安になるのはおかしいだろうか。もっと適任がいるのでは、と思ってしまうのだ。まだ私が曖昧に頷いていると、歌川くんが続けた。

「あの人の指導を受ければ、絶対強くなれるはずだから。上達したいんだろ?」
「……、うん。」
「じゃあ、答えは決まってるな」

今度はしっかり頷いた私の頭に手をポンポンと乗せ、歌川くんも席へ戻った。歌川くんすごい。ちょっとすっきりした気がする。細かいことは考えるなということだ。うまくなりたい、強くなりたい。だから弟子になる。それでいいんだ。
よし。
今日の放課後はがんばるぞ、と気合を入れたところで、ホームルームが始まった。





そして放課後になり、ボーダーに来て狙撃手訓練室に入った。案の定隊員たちの視線が痛いが、負けるな負けるなと自分に言い聞かせながら、当真先輩を見つけると早歩きで近寄る。

「当真先輩…っ」
「ん、おお。瑠花じゃん。なんか噂になっちまったみてーで悪いな」
「だ、大丈夫です」

大丈夫じゃないけど大丈夫って言っとくしかない。ソファに座っていた当真先輩の隣には荒船隊の隊長さんと荒船隊のもう一人の狙撃手さん。すいません名前わかりません。以前全力で逃げた手前、非常に気まずいが、気にしている場合じゃない。

「あのっ」
「おう」
「わ、わたし、入ったばかりで本当に初心者で、サイドエフェクトも役立たずかもしれないんですけど、それでも…、つよくなりたいんです」

だから、と言ってそこで区切り、どくどくとうるさい心臓に負けないくらいの声で言った。

「弟子にしてください!!!」

がばっと頭を下げる。声が訓練室に響いて、隊員たちの視線を浴びることになる。幸い今日は平日で夕方だし、そんなに多くの隊員がいるわけではなかったが、どうせまた噂になって明日には広まっているのだろう。ううう我慢だ。負けてたまるかー!
返事がないのがこわくなってきて、おそるおそる顔をあげると、当真先輩はにやりというよりは、にや〜と、満面でいたずらっこのように笑っていた。

「よっしゃ、そうこなくちゃな!よろしく頼むぜ、瑠花!」
「…ううう。はいぃ…!こちらこそ、よろしくお願いします、当真師匠…!」

なぜかわからないが、緊張がゆるんだ表紙に涙がぶわあとあふれてきた私を当真先輩…当真師匠はぎょっとしたように見て、なんで泣くんだよと頭をがしがしと撫でた。

「…なんか、すげーもん見たな」
「ああ、感動したな、なぜか。とりあえず、おめでとう?」
「へっへーん、うらやましいか、ポカリ!」

一部始終を見ていた荒船隊の二人の先輩が、当真師匠に言う。…ポカリ?きょとんとしていると、察した当真師匠が説明してくれる。

「あー、ポカリっつーのは、こいつのあだ名な。穂刈篤、だからポカリ」
「…な、なるほど…。あ、ええと、蒼井瑠花です。こ、この前は逃げちゃってすみませんでした…」
「ああ、気にするな。強面だからな、こいつが」
「俺かよ!どっちかっていうとソフトモヒカンのお前だろ!」
「荒船もポカリもでけーしゴツいから瑠花が怖がるんだよ」
「おめーに言われたかねーよリーゼント野郎」

キレのある突っ込みをしたのは、隊長さん。荒船先輩だ。穂刈先輩と荒船先輩、ちゃんと覚えておかなくては。それにしたって仲がいいなあ。

「じゃ、今日からビシバシ指導してくから、しっかりついてこいよ」

にっと笑った当真師匠に、しゃんと背筋を伸ばして大きく頷いた。


一等星にはなれやしないが


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