菊地原くんと別れて東さんについて来ると、(菊地原くんもついて来てくれると思っていたのに、僕攻撃手なのに狙撃手のとこなんか行くわけないじゃん、とさっさとどこかへ行ってしまった)、狙撃手訓練室には数多くの狙撃ブースが並んでいて、平日の夕方でもちらほらと練習している人がいた。同じC級の制服を着た人も何人かいるし、見慣れない服の人もいる。きっとB級かA級の人だろう。かっこいい。

「蒼井はC級だから、訓練用トリガーだ。まずはこれで慣れていこう」
「は、はいっ。」

大きな銃を手渡されて、ずしりとした重みを感じながら頷く。これで撃つのか。緊張する。

「眼鏡外した方がいいんじゃないか?」
「そ、そうですね!」
「前髪は…留めるか?」
「い、いえ、前髪は大丈夫です。眼鏡外すのでちゃんと見えますし、…お、落ち着かないので」
「ならいいんだが」

眼鏡を外して明瞭な視界になったところで、東さんから細かいことや基本の姿勢を習い、ひとまず一度撃ってみようということになった。初心者はまず近くの的から、ということで、他の人よりも近い的を狙う。とはいえ、私にはうんと離れているように感じる。よーくよーく狙って、おそるおそる引き金を引く。

「わっ」

銃口から弾が放たれた反動でバランスを崩しかけた。弾は的外れなところに当たっているし、全然駄目だ。

「………す、すいません」
「謝る必要はないよ。まあ、最初だからそんなもんさ。大丈夫、これからだ」

東さんが慰めてくれる。うう、こ、これ、難しくないですか。ちらりと離れたブースに入っている人の的を見ると、うんと離れた的の中心部に当たった跡がある。目を凝らすと、同じところに何度も当たったような跡が分かった。す、すごい。

「が、がんばりますっ」
「ああ。教えてやりたいのはやまやまだが、これから防衛任務なんだ。わからないことはその辺にいる先輩たちに聞いてみてくれ」
「あ、はい、大丈夫です。お気になさらず……!」

申し訳なさそうな東さんにこくこく頷いて、これから一人だということは何も大丈夫じゃないが大丈夫だと言っておいた。それに、こんなすごい人を独占していると、恨みをかったりしそうだし。私はひとりで地道に頑張ろう。



「……うーん」
うまく当たらない。とりあえず撃ってみてるが、かすったらいい方である。どうすればいいのだろう。これは誰かに聞くべきか、と思ったが、ちらりと見て話しかけられそうな人はいない。まず女子がいない。狙撃手って女子の人口少ないのかな。でも確か菊地原くんが、オペレーターはほとんど女子と言っていたから、そもそも防衛隊員には女子は少ないのかもしれない。私もオペレーターやるべきだったのだろうか、いやいや私は機械に弱いし無理だ。
なんて思いながら、さっきから正確な狙撃を繰り返す紫色の隊服を着た落ち着いた雰囲気のある先輩をじっと見つめていると、視線に気がついた先輩と目があった。ぎゃあああ気づかれた!
すさまじい勢いで顔を背ける。こわいこわいこわいです!ガン見してすいませんでした!

「………もう少し、本体を固定した方がいい」
「!」

呟くような声が聞こえて、ぴくりと反応する。ちらっと振り向くと、何事もなかったかのように先輩は的を狙っている。……もしかしなくても、アドバイスをこっそりしてくれたのだろうか。見るに堪えない狙撃してすみません、と思いながら、姿勢を作り直してがっちり固定する。よ、よし、撃ってみよう。せーの。
当たりませんでした。ううう。泣きたい。

「……銃口がぶれてる」

またぼそっと聞こえた。う、うわぁぁぁ。見られてたぁぁ。恥ずかしい、と思ったが、せっかくアドバイスしてくださってるのだから従わないと!
がっちりホールドして撃とうとすると、今度は、力が入りすぎてるとの呟きが来た。はっ、はいいっ。

「!あ、あたった…!!」

一発だけ。一発だけ、まともに的に当たった。おおお。感動する。それきり呟きは聞こえなくなった。お礼を言わねば、と思ったが、タイミングを見失ってるうちに先輩はブースを出てしまう。慌てて私もブースを出て、追いかけようと思ったが、でもどうやって話しかけたらいいのかと迷っている間にすたすたと帰宅してしまった。ああああ。

「どうかしたか?」
「!?」

知らない人から話しかけられた。高校生の二人組だった。今来たのだろう、まだ学生服だが上級生なことは分かる。帽子を被っている人とモヒカンっぽい髪型の人の顔はどちらもなぜか見たことがある。ああ、B級ランク戦を見学したときの狙撃手だ。えっこわい!身長高い!何か威圧感ある!

「誰か探してんのか?」
「いっ、いえ!大丈夫です……!」

声を振り絞って全力でブースに戻った。こっわー!!こわー!ひとりボーダーこわー!涙目になりながらも練習を再開したのだった。


ヨワムシンドローム


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