二連休の間に基礎学力試験と基礎体力試験、それから面接をこなして、私は晴れてボーダーに入隊した。面接がまさかの本部長さん本人によるものだったので、たぶん太刀川さんが本当に本部長さんに私の入隊希望を言ってくれたものと思われる。とんでもなく緊張して何をしゃべったかあまり覚えていないのだが、後日届いた結果報告には合格と書いてあったので、一応問題なかったのだと思う。というかあの基礎体力試験で合格って、だいぶ基準が甘いようだ。自慢じゃないが私は体力の欠片も持ち合わせていない。結果報告も実はかなり諦めモードで開いたものだ。
親には試験前にボーダーに入りたい旨を伝えると、驚くほどあっさりとオーケーを出された。私が何かをやりたいと言うのは珍しいので、私の意見を尊重するとのことだった。



「というわけで、入隊しました………!」

週末明けに菊地原くんに事細かに報告すると、菊地原くんは何それ、といつものように不満そうに言う。

「まさか事後報告だとは思わなかったよ」
「私もこんなに早く入るとは…自分でもびっくりしてて…」
「なりゆきと勢いってわけね。まあ、これからせいぜい頑張って」
「は、はいっ!」

ボーダー入隊初日はポジション決めなどの重要なことがあるらしく、菊地原くんが仕方ないから付き合ってくれるらしい。お世話になりまくっている。迷惑かけてごめんね、と言うと、本当だよ、とノートで頭を叩かれた。何のノートかと思えば、この前貸した数学のノートだった。

「ノート返す」
「う、うん。」
「他の問題も勝手に見て結構役に立ったから、それで貸し借りチャラにしてあげるよ」
「うぇっ、あ、はい」

また変な擬音を言ってしまった。他の問題って…!落書きしてたページが確かあったはずだけど!まさか見られているのでは!?でも菊地原くんならからかってきそうだしなあ。言ってこないってことは見てないのだろう。よかったよかった。一安心だ。

「あ、そういえば」
「へっ?」
「蒼井って絵心ないんだね」

ばっちり見られてたああ!




そんなわけで、ボーダー入隊初日である。
C級隊員に配給された制服はわりと気に入っている。というか、私服のセンスが皆無なので制服があってよかった。
東さんというベテランの方から初歩的なことを習って、いよいよポジション決めだ。私を見張るように隣にいる菊地原くんが口をはさんだ。ちなみに菊地原くんは風間隊の隊服で、とてもかっこいいデザインだ。私の隣にいるとかっこよさがいっそう際立っている。

「蒼井は狙撃手じゃない?」
「狙撃手…」
「というか、狙撃手以外無理だと思う。距離的に。一番近界民から遠いから」
「えっ、じゃあそうします…!!」

私が即決すると、東さんはそれに待ったをかけた。何か問題があったのかな。ちなみに私のトリオン量は良くも悪くも普通らしいので、狙撃手でも問題ないはずだ。

「そんなに安直に決めていいのか…?射手はどうだ?」
「射手、ってどのくらいの…近さですか…?」
「ううーん、アタッカーほどではないが」
「蒼井は射手みたいな器用なこと絶対出来ないから狙撃手の方がいい。それに、狙撃手のほうが強化視力がなんか使えそうだし。テキトーだけど」
「…だそうなので、狙撃手にします…」

菊地原くんの冷静なアドバイスを受けて、私はうなずくだけである。なぜこんなに私のことをよくわかってらっしゃるのか…。でも確かに強化視力が使えるかどうかはとても重要だ。狙撃手で活かせるのかは果たして疑問だが、距離が遠いほど使えそうではある。

「…菊地原が決めてるけど、いいのか?」
「いや、その通りなので…。ところで菊地原くんは攻撃手だったよね…?」
「まあね。僕A級三位のチームって言ったっけ」
「…えええっ!!聞いてないよ!風間さんが2位っていうのは聞いてたけど…!」

速報です!菊地原くんは!トップもトップ、まさかの上から数えて三番目のチームでした!!風間さんが個人で攻撃手2位の実力者とは聞いていたけど、まさかチームでもそんなにすごいとは…いや、菊地原くんのことだから上位なんだろうとは思っていたが。菊地原くんが淡々としている隣で、私は無駄に慌てていた。

「す、すす、すごすぎるよ…!私といていいの…!?」
「は?別にダメとかないし」
「そう…?それにしても、菊地原くんってやっぱりす、すごい人だったんだね…あ、だからいろんな人に声かけられてたんだね…」
「それは先輩たちがウザいからだけど」
「う、うざいって…そんなこと言っちゃだめだよ。好かれてるんだね、菊地原くん。すごいなあ…」

敬意を表して見つめると、一歩距離を置かれた。ちょっとだけ傷ついた。

「ちょっと、見過ぎ。うざい」
「あ、ごめん…。」

菊地原くんの言葉にはいちいちとげがあって私の激弱メンタルには厳しいものがあります。これでもだいぶ慣れたほうだが。

「ええっと、とにかく、私狙撃手にします!」
「そうしなよ」

よし、決まった。私は狙撃手になります。見学のときのランク戦で見た狙撃手を思い浮かべて、想像してみる。…私あんなふうに撃てるようになるのかな…自信ないのですが。いやいや、これからだ。がんばってみようではないか。
東さんは私の宣言をなぜか笑いを耐えたような表情でうなずき、わかったよと言った。それから、菊地原くんと私を見比べて笑みを漏らす。

「…はは…。今日の菊地原はよく喋るな」
「……何かおかしいですか」
「いーや?ふふ、何もないさ」

じゃあ、狙撃手の訓練室にさっそく行こうか、と誘導される。ちょっとだけ、わくわくしている。



孵化した朝


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