これが私の日常
「終わんないいいっ!」


筆を投げ出し、ばたんと仰向けに倒れこむ。隣でトシが筆を走らせながらあたしに言う。


「文句言う暇あるなら進めやがれ。まだまだあんぞ」

「あとどんぐらい?」

「半分」


思わずうげ、と声が出た。

なんだかんだあったが、結局あたしはすぐに真選組に帰って来た。近藤さんに泣かれ、総悟に愛のある悪態をつかれながら美紀に抱きつかれ、まあトシに剥がされたのだが、てんやわんやでお帰りの宴会を開き。仕事場に戻れば、書類が山のように机に鎮座していたというわけだ。
おびただしいくらいの量の始末書は、つい先日あった攘夷テロについてのことがほとんどだった。あたしはいなかったのでどうだったかはわからないが、この書類の量を見る限りスムーズにいったというわけではなさそうだ。かなりデカいヤマだったと近藤さんが言っていたし、加勢したかった。


「頑張ったんだね、お疲れさま」

「…正直、けっこう苦戦した。理御がいねェから」

「あたし一人いないぐらい、どうってことないでしょ?」

「んなことねェ。戦力的にも精神的にもキツかった」


トシはあたしを過大評価していると思う。女ひとりいないぐらい、真選組なら痛くもかゆくもないだろうに。でも、そう言ってくれるのは少し嬉しくもある。

こんなあたしとトシはというと、いわゆる恋人同士になったのだが、だからと言って普段と何ら変わりない。ただいつもより幸せで、時々二人でのんびりするだけ。それでも、あたしの心は前よりもずっと満たされていて、前よりもずっと幸せなのだ。だから、これでいい。そばにいるだけで、いい。

むくりと起き上がり、うーんと伸びをする。
仕事は終わらないし、帰って来てそうそうコレなのだからげっそりするが、それでもなんだか気分はいい。


「なんか、戻って来たって感じ」

「……あァ」

「ふふ」


自然と頬がゆるむ。こんな日常だけど、幸せだなあ、なんて思えるのだ。すると、トシがあたしの前髪に手を伸ばす。さらりと前髪をあげて、きょとんとするあたしの額に優しいキスを落とした。


「…おら、やるぞ」


すぐにまた書類に向き合うトシ。かああ、と頬に熱が集まる。なんだか負けたみたいで悔しいから、あたしも。
何かを書き込んでいる腕をぐいっと引っ張り、こっち側にぐらりと傾いたその頬に唇を当てた。


「お返し!」


にっと笑うと、トシはかっと赤くなってあたしの頬を両手でつねる。


「急にんなことすんな、見ろ始末書の字が歪んだだろうがっ」

「いひゃいいひゃい!」


そんなとき、襖が突然勢い良く開けられた。


「副長ォオ!理御さん!…って、何やってんすか」


ザキだった。トシは頬からやっと手を離した。あーちぎれるかと思った。


「なんだ山崎」

「あ、はい!事件ですっ!先日の攘夷浪士の生き残りがっ!」


あたしとトシは顔を見合わせて、ふっと笑いあう。今行く、と言って立ち上がった。

やっぱりあたしには、あったかい家族との安心安全な家より、仕事場には書類が積まれていて男ばかりでむさ苦しく危険と隣り合わせな、ココが一番あっているようだ。







これが私の日常

大好きな家族と、大好きなトシと一緒に、生きていく。
これからもずっと、この場所で。
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