一歩、踏み出す
出発は、早い方がいい。出来るだけ、すぐ真選組を出よう。長居していたら、別れが辛くなる。だから、お母様とお父様が退院してすぐ、出て行くことにした。
そしてついに出て行く当日になった。
近藤さんと総悟には昨日言った。そのときたくさんたくさん泣いたから、今日は泣かない。何も知らないみんなに集まってもらって、あたしの口から知らせる。ぐるりとみんなを見渡して、口を開いた。


「あたし、副長補佐天海理御は、今日限りで真選組をやめることにしました」


しん、と静まり返る。みんな口を開いたまま、理解出来ないという様子で固まっていた。


「みんなもお母様とお父様のことは知ってるよね。あたしは、お母様とお父様とやり直すことにしたの」


突然でごめんなさい、と頭を下げる。


「真選組はあたしの家だった、家族だった。大好きだったよ。今まで本当にありがとう」


心からの気持ちを噛み締めながら言う。
するとすごい勢いで誰かに抱きしめられた。誰かと思えば美紀だった。嗚咽が聞こえる。泣いてくれているのだ。


「なんでもっと早く言ってくれなかったのよ…っ、馬鹿理御!」

「ごめん、美紀」

「さみしくなるじゃない…!」


わんわんと泣きつかれる。そんなに泣かれたら、あたしまで泣きたくなるじゃん、馬鹿美紀。隊士達の中にはちらほら泣いてくれている人もいる。
そのとき、バンッとふすまが開け放たれた。びっくりしてそちらを向くと、銀さんと新八君と泣きかけた神楽ちゃんが入って来た。なんで三人がここに…!


「理御ちゃーん、俺たちには黙って行くつもりだったのか?そりゃちょっとないんじゃないの」

「そうヨ!私達の仲でありながらなんで言ってくれないアルか!」

「そうですよ!姉上も怒ってましたよ!!」


銀さんの表情は笑っているが目が笑ってない。神楽ちゃんが美紀を吹っ飛ばすくらいの強烈なタックルをして来た。あたしは銀さん達には知らせていない。なのに、なんで。


「なんで銀さん達がここに…?」

「沖田君が連絡してくれたんだよ。さんきゅーな沖田君」


総悟を見ると、いたずらっぽくにっと笑っていた。


「お礼は今度でいいですぜィ、旦那ァ」

「おう。任せとけ」


銀さんはそう言って、あたしの頭をぐりぐりと撫でた。


「なんかあったらウチに来いよ。理御ならタダで依頼受けてやっからよ」

「…う、ん。ありがとう」


銀さんとも会えなくなるのか、と思うと、さみしくて。ぎゅっと抱きつくと美紀にばりっと引き剥がされた。
それを見ていた隊士達が、なだれのように群がって来た。号泣しているやつもいる。中には近藤さんが混じっていて、大泣きしながら抱きつかれた。それらを受け止めていたが、くす、と笑みがこぼれる。美紀がそれを見て言う。


「何笑ってんのよ」

「ん?ううん。やっぱりあたし、みんなのこと大好きだなあって思って」


そう言うと、いっそう抱きつかれた。




「土方さんは行かなくていいんですかィ」


理御から少し離れたところで様子を眺めていた俺は、総悟にそう聞かれた。
俺は、病院で言いたいことは全部言ったから、もう何も言うことはない。
…嘘だ。ある。
行くなと、引き止めたい。理御がいない毎日なんて考えられない。今あいつの元へ行ったら、俺は引き止めてしまいそうだ。だから、行かない。


「…俺はいいんだよ。そういう総悟はいいのかよ」

「俺ァそういう性格じゃねーんで。理御がいなくなるのがさみしくないってわけじゃねーんですが」


ごろりと横になってアイマスクをする総悟を見下ろし、素直じゃねーなと思う。さみしいならさみしいと言えばいいだろうに。まあ、素直じゃねェのは俺もだが。
少しからかってやろうと思い、冗談を言ってみる。


「どうせアイマスクの下では泣いてんだろ」

「うっせ黙れ土方コノヤロー」


図星かよ。


*


荷物を車に乗せ終えた。挨拶し終えたお父様とお母様の元へ行く。
もう隊服は脱いだ。普通の着物を着て、髪にはお母様にもらったかんざしをつけて。あたしの愛用していた刀は近藤さんに渡したし、今のあたしはもう副長補佐じゃない。ただの天海理御になったんだ。さみしいけど、あのころのあたしに戻っただけ。なんにも変わってない。
最後にみんなにお別れしたら、もうさよならだ。


「今までお世話になりました」


ぺこりと頭を下げる。美紀が前に出て来た。


「元気でね、理御」

「うん、美紀も」


にっこりと笑うと、頭を撫でてくれた。美紀の目は少し潤んでいる。


「またいつでも遊びにおいで!」


近藤さんが笑ってくれて、大きく頷いた。
長い間、本当に長い間お世話になった。感謝してもしきれない。居心地が良くて、恩返しのためにいたはずなのに。
たくさん人を斬った。たとえ相手が悪い奴だとしても、命を奪ったことは事実。その罪は抱えて生きていく。思い出とか罪とか感謝とか、全部忘れないように心に詰めて。新しい日々を一歩、踏み出す。

車に乗り込む寸前、勢い良く振り向いて、笑顔で手を振った。


「またね!!」


車に乗り込む。お父様の運転で車が動き出した。




発進した車を見送り、いつまでも手を振っている近藤さんの隣で、総悟がふうと息を吐いた。


「行っちまいやしたね」

「…そうだな」


煙草に火を付ける。振り向けば、美紀が泣いていて、山崎がその背中をなぐさめるように優しく叩いている。わらわらと屯所の中に帰って行く隊士達を見ながら、ぼそりとつぶやいた。


「……さみしくなるな」


明日から、理御がいない真選組での毎日が始まる。







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