補佐のお仕事
よく晴れた日のことだった。
聞き慣れない言葉に、首を傾げた。


「しんせんぐみ?」


近藤さんは、そうだ、と頷いた。


「江戸で、武装警察署をつくるんだ。かっこいいだろう!」

「江戸…。なんか分からないけど、すごいね」

「それでだな。理御ちゃんにもついて来て欲しいんだ」


…え、


「基本女子禁制だからむさ苦しい野郎共の中に一人だけ女って事になっちまうが、理御ちゃんがいてくれれば何かと心強い。理御ちゃんが必要なんだ、俺達には。どうだ、一緒に江戸へ行かないか?」


近藤さんがにかっと笑って手を差しのべる。

いつだってそうだ。いつだって、この人達はこうやってあたしを救ってくれるんだ。

あたしに迷いはなかった。






そして、月日は流れた。


「副長補佐っ!」


スパンと副長室のふすまが開かれる。呼ばれたあたしは、うんざりしながら筆を置いて顔をあげた。


「…何」

「これ、残りの報告書です」


どさりと、分厚い束の報告書が机に乗せられた。


「…あぁぁもぉぉ!終わらない!何なのこの量っ!」


目の前にこれでもかと積まれたおびただしい量の書類の束。今日は特に多くて、かれこれ五時間くらいぶっ通し。もうそろそろ手が痛いし、疲れた。
運んで来たザキは苦笑いしてお茶を持って来ますとか行って副長室を出た。あたしは畳に倒れこんで、トシに言った。


「トシ、休憩。休憩しよ」

「ああ"?んな言ってるヒマあるなら早く終わらせる事考えろ」

「うううう鬼…」


武州にいた頃は、平和だったなあ…後悔なんてしてないけど、ふいに思い出す事がある。昔を懐かしむ間もなく、トシに急かされて起き上がった。


「…で、なんで総悟がいるのかな?」


あたしの向かい合わせにいる総悟と視線を合わせた。


「気にしないでくだせェ」

「気にするわァァ!見廻りだろてめェさっさと行きやがれ!」

「あーうっせ、土方マジ消えてくんねーかなー」

「んだと総悟ォォ!」


アイスを舐めながら特に何をするでもなくあたしを眺めていた総悟。ヒマなら手伝ってくれるとかしてくれよ。まあ、そんなこと総悟がする訳もないけれど。
アイスが美味しそうで羨ましげにじっと見つめていたけど、トシの視線を感じてゴホンと咳でごまかして座り直した。


「はあ、やるしかないわね。よし、やろう!」


ポニーテールにしていた髪をお団子に結び直し、気合が入ったところで、筆をとった。
すると、総悟の溶けかけたアイスがたれた。


「あ」


書類の上にポタリと落ちた。あああ何やってんの!てか、もしかして。慌ててそれを裏返すと、特に重要な書類だった。


「ちょっとォォ総悟ぉぉ!これとっつぁんに出すやつなんだけど!!トシどーしよ!総悟のアイスが!」

「んだと、かせ!」

「え、マジですかィ。すいやせーん」

「軽っ!てかまたたれてる!!」

「もうドロドロでおいしくねーや、理御にやるよ」

「いるかァ!」


アイスの犠牲になった書類達を生き返らせるため、一時作業中断。
せっかくやる気になったのに。

その後、なんとか蘇生に成功し、ホッと一息ついたのだが。
なみなみとつがれたお茶を持ったザキが来て、最悪なことにつまずいてしまうという悲劇が待っていようとは、予想だにしていない。







補佐のお仕事

(お疲れ様です、お茶を…うわ!)
((山崎ィィィ!))
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