狂い出した歯車
「理御さん。お客さんが二人来てますよ」


副長室で仕事をしていたら、ザキがあたしを呼びに来た。肩がびくりと跳ねる。トシが怪訝そうに見て来たので、普通に普通に、と言い聞かせてザキを見た。


「あ、あたしにお客さん?」

「はい。夫婦みたいですけど」


あたしの中で、警報が鳴り響く。夫婦というキーワードで、答えは確定した。


「…帰ってもらって」

「え」

「い、今忙しいから…申し訳ないけど」


無理矢理"苦笑"を作ってザキに言う。ザキは不思議そうにしながらもはいと言った。
書類に目を落とす。トシの視線に気づいていないふりをして。筆を取ろうとして、手が震えている事に気づき、引っ込めた。




理御さん、どうしたんだろう。
そうは思いつつも、仕事が忙しそうだったのは事実だ。夫婦にその旨を伝えると、悲しそうに頷いた。


「そうですか…分かりました。すいません」

「いえ…」

「また来るとお伝えください」


そう言って帰ろうとする夫婦。後ろから足音が聞こえて、振り向くと、神妙な表情の副長だった。


「待ってくれ」


副長が引き止めると、夫婦がゆっくりと振り向く。少しだけ目を見開いて、口を開いた。


「…あなたは…?」

「真選組副長、土方十四郎だ。あんた方、理御に用があんだって?どういう関係だ、理御と」


副長は何か気づいたのだろう。理御さんの言動から、何かを。
俺も聞きたい事だったので、口を挟む事なく、ごくりとつばを飲み込んだ。ややあって夫婦の口から出て来た答えは、驚くべきものだった。


「…理御の、母です」

「……父です」


理御さんの、ご両親だったのだ。
俺は驚いて大声を出しそうになったが、なんとかぎりぎりでこらえる。そう言われてみれば、どこか面影がある。副長は瞳孔をこれでもかと開いて、眉間にしわを寄せる。


「な……なんだと…!?」


夫婦、いや、理御さんのご両親は儚げに笑みを浮かべた。


「話があって来ましたが…」

「やはり、受け付けてもらえませんでした」


すると、副長がいきなり父親の胸倉を掴む。うわ、なにしてんだこの人!理御さんのお父さんだぞ!しかし、副長は鬼のような形相で真剣だった。


「どのツラ下げて会いに来てんだ!」

「…自分達があの子に犯してしまったことは、分かっています。それを、謝りたいんです。そして、ゆっくり話をしたい」


話が見えない。どういう、ことだ…?理御さんに一体何があったんだ。理御さんの過去…、俺は何も知らない。
混乱していると、副長が手を離して俺に言った。


「…。山崎、中へ案内しろ」

「え…」


早くしろ、とガン飛ばされ、慌てて体を動かす。ご両親の顔が希望を得たようにみるみる明るくなって行く。


「理御を呼んで来るから、中で待っててくれ。理御の仕事なんか後でいい」

「ありがとうございます…!」

「ただし。俺と局長も立ち会う。副長補佐のことは、ちゃんと知っておきたい」

「勿論です…!」


副長が俺に視線をやる。お前は案内したら仕事に戻れ。そう視線が言っていて、むっとしたが頷く他はない。とにかく案内しなくちゃ、と思い、こちらですと中へ誘導する。すると、母親が俺に聞いた。


「あの子…副長補佐なんですか」

「そうですよ」

「…そうですか。」


少しだけ嬉しそうに目を細めたその表情が、母親の表情をしていた。







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