迫る崩壊の足音
なんだか、今日は良い気分。
快晴の下、ゆっくりと足を進める。
見廻りも終わってあとは屯所に戻るだけ。ちょっと寄り道して、お団子を食べながら帰っている。サボりじゃないよ。ちゃんと見廻りしたもの。
鼻歌交じりにみたらし団子を頬張りながら歩く。ぺろりと唇の端を舐めた。
今日も江戸は平和だ。


「よし、帰ったら書類整理して…」


予定を立てながら串をくわえて歩いていると、どんっと誰かにぶつかってしまった。あわてて振り向く。


「っと、すいません!大丈、夫……」

「あ…すいませ……ん…」


その人と目が合った。ぎゅっと心臓が掴まれたようにどくりと脈打つ。
くわえていた串を落とした。笑顔が固まる。


「ぁ…………え………?」

「…………あなた……は…」


どくどくと鼓動がうるさい。
だって、その人の顔は…
幾分か老けて、痩せたけれど、まごうことなき、まぎれもない_____


「…理御……」


"お母様"だった。


「……ッ!」


反射的に、足が動いた。その場から逃げるようにだっと駆け出す。
いや、逃げたかったんだ。
お母様という存在が、怖くて。


「理御!待って……!理御…!」


お母様の声を振り切って、ぎゅっと目をつぶって走った。走って、走って。足がもつれて転びそうになりながら。
なんで、お母様がこんなところに。お父様もいるの?なんで…なんで!

屯所に着くと、止まらずに自分の部屋へ走る。途中、真っ青で必死の形相のあたしに隊士達が驚いた視線を向けて来たけれどそんなの無視して、縁側で昼寝していた総悟を跨いで駆け抜ける。
すると、廊下にいたトシに声をかけられた。


「おい、理御?どうした、そんなに急いで」

「ト、シ……ごめん、ちょっと体調悪いから…部屋で休んでるわ」

「…?わかった」


声は震えていなかっただろうか。
部屋に戻り、襖を閉める。大きく息を吐いて、ずずず…とへたりこみ、俯く。一筋の涙が頬を伝った。


「…おかあさま…」


まだ収まらない心臓に手を当て、唇を噛んだ。








「本当に…ここに、理御が…?」

「ええ。真選組の見なりだったわ…行きましょう」


次の日、夫婦が屯所に訪れた。







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