親友の思惑
この子は本気で言っているのか。恋愛感情を知らないというのか。
まあ、理御は筋金入りの鈍感で純情ちゃんだけど、いやまさか恋愛したことがないとは…
ごほんと咳を一つして、気を取り直して質問に答える。


「好き、っていうのは、なんかこう…」

「なんかこう?」


なんと言えばいいのか。理御は真面目な顔でおせんべいを頬張る。ちらりとテレビを見ると、太郎と花子が恥じらいながら手を繋いだシーンだった。


「その人のことしか考えられなくなって、無性に会いたくなったり触りたくなったりするの。そばにいたくて、もっと一緒にいたくて。胸がドキドキしたり、きゅんってしたり、する」

「ふーん…」


あまりぴんと来ないようだ。言葉にしにくいのよね。目に見えるものじゃないから。私は少し気になったことを聞いてみた。


「理御は副長のこと好きじゃないの?」


副長補佐という立場だし、仲いいし、それに、副長は理御を好きだと思うんだけど。確証はないけれど、女の勘ってやつだ。…まあ、理御を好いているのは副長だけではなさそうだけど。
理御はあっさりと意外な答えを出した。


「好きだよ」

「え!?」

「近藤さんも総悟も好きだよ」

「………そっちか」


首を捻る理御、あたしは頭を抱える。恋愛感情じゃないじゃん、それ。


「そうじゃなくてね…」

「よく、わからないのよね。トシには感謝してるし、いつも助けてくれるし、補佐としてあたしも助けてるつもりだけど」


理御は言いながらごろんと横になる。うーん、まだ理御には難しい話だったかな。これじゃ、理御を好いてる男どもは報われないわね。


「あ、でも、今日…」

「ん?」

「あたしを助けるとき、抱きとめてくれたの。あたしが高いところに捕まってて、もう少しで危ないところだったから…助かったわ」

「……そう」


へー。副長、やるわね。そのとき、理御の頬がほんの少しだけだけど、一瞬染まったのを見逃さなかった。
あら…?あらら?


「…ま、理御もいつか経験するわよ」

「うーん…」


胸に手を当て、首を傾げる。その様子を見て、くすりと笑う。気づかれないように、おせんべいを砕く音でカバーした。
いつか…ずっと先かもしれないけど。副長が報われる日が来るのかな?
でもなんだか悔しいから。まだ、教えてあげない。







親友の思惑

(おせんべいなくなったー)
(早っ)
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