素朴な疑問
部屋でごろごろしていると、ノック音が聞こえた。


「私だけど。いいもの持って来たの」


美紀の声だ。あたしはどうぞと部屋へ促す。入って来た美紀は大量のおせんべいを持っていた。


「先輩からもらったの。久しぶりに女の子水入らずでどう?」


先輩、というのは美紀より年配の女中さんのことだ。あたしはすぐに頷いた。


「いいわね。乗った」


疲れていたけど、美紀とおしゃべりしたい気持ちが勝り、美紀を座らせ、テレビをつける。
実はなんと、あたしの部屋にはテレビがあるのだ。あたし専用のものだ。ずいぶん前にとっつぁんがくれた。とっつぁんと近藤さんのおかげで、自室ではずいぶん快適な暮らしを送っている。


「特製おせんべいよ。江戸の老舗のお店のやつなんだって」

「おいしそー!さっそくいただきますっ」


おせんべいを一枚取って、パキンと折って口に入れる。かなりおいしくて、もう一口、もう一口と食べ進め、すぐに一枚食べ終わった。


「おいしい!」

「うん、さすが先輩だわ」


おせんべいを割る音が軽快に良く響く。おいしさを噛み締めながら、チャンネルを変える。あるドラマにチャンネルが止まったとき、美紀があっと声をあげた。


「あ、それ!そのドラマ好きだったの。再放送かな」

「へー、どういうやつ?」

「"太郎"っていう男の人と、"花子"っていう女の人が、いろいろあって結ばれるドラマ」

「うわあアバウト。てかその名前…ほんとに?」

「本当。いやそれが面白いのよ」


名前と結末しかわかんないよ今の説明。てか名前どうにかしてよ、手抜き感満載なんだけど!なにその標準すぎるネーミング!おかしいでしょ!
逆に興味が湧いて音量を上げる。テレビでは、去りゆく"太郎"らしき人の手を"花子"らしき人が掴んで止めている。"花子"の目には涙が浮かび、顔は真っ赤だ。


『好きなんです…、どうかお側に置いてください』

『ああ、俺も好きだ。愛してる」


と、そこで抱き合った。美紀が少しつまらなさそうに声を発した。


「最終回も終わりのところじゃない、なんだ。いいシーン見逃したわー」

「どんなシーン?」

「花子が太郎を投げ飛ばすところ」

「なにがあったの!?」


花子強っ!!かなり体格差があるようだけど!?


「あと、飛び蹴りのシーンも見ものだったわ。ジャーマンスープレックスとかもう最高」

「それなんのドラマ!?」


ジャーマンスープレックスって、あれでしょ!?超痛そうなやつ!超シュールなやつ!花子強っ!!
と、そこで抱き合った二人が、顔を近づける。キスシーンだ。思わずこっちまで赤面してしまい、クッションで顔を隠す。目だけ出して、しっかり見るけど。美紀がそんなあたしを見てくすりと笑う。


「純情ちゃんなんだから」

「ほっといてっ」

「まあ、でも、こんな恋愛してみたいかもね。いいドラマなのよ」


美紀がそんなことを言いながらおせんべいをかじる。
そこでふと思った。


「ねえ美紀」

「ん?」

「"好き"って、どういうこと?」 


あたしがおせんべいをパキンと割る音が妙に響いた。







素朴な疑問

(そもそも恋ってどんなやつ?)
(……………)
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