駆け抜けろ
部屋から出る。さて、どこへ向かえばいいのやら。
窓から外の様子を伺う。互角、のように見えて真選組が劣勢だ。お互い、潰す勢いだ。ごくりとつばをのみこむ。決意して、だっと駆け出した。


猛ダッシュで敵地を駆け抜ける。


「あ、あの女は…!?」

「逃げたのか!」

「あの格好は何だっ」

「捕まえろ!」


あたしに気づいた奴らが立ちはだかり、刀を振りかざし、あたしに襲いかかる。こんなことで怯えるなどと思っているのだろうか。甘いな。走りながら、叫んだ。


「あたしを斬っていいの!?」


その言葉に一瞬躊躇する。その隙を見逃さない!目にも止まらぬ速さでモップで斬りつけ、突っ切る。後ろから声が聞こえるが、そんなの気にしていられない。
すると、次は女が立ちふさがった。


「あんたに逃げられても私はどうでもいいんスけど、晋助様に怒られるから止めるっス」


ジャキン、と銃を構えるのは来島また子。あたしはたらりと汗を流しながらもニヤリと不敵に笑う。


「撃っていいの?あたしを殺しちゃ駄目なんでしょう」

「心配には及ばないっス。急所は避けるっスから」


鋭い視線で見つめられる。やっぱ、通じないか。ふう、と息をついた。
よし、あの手に出よう。気を抜かず、少しだけ笑む。


「こんな時になんだけど、あたし、あなたと高杉ってお似合いだと思うよ」

「えっ!!」


過敏に反応し、顔が赤くなる。かーわーいーいー。恋って、そんなに楽しいものなのかな。…ちょっと、羨ましい。なんて、内心そう思いながら、身振り手振りで少しオーバーに言う。


「可愛いし明るいし、強いし。高杉もきっと内心そう思ってるはず」

「え…そ…そうっスか!?」

「うん!あたしなんか、もう、間に入り込めないくらい!」

「そう思うっスか!?実は最近、晋助様がいじめてくる頻度が増えたんスよ…!」

「それもきっと愛情表現なのよ!愛されてるね!」

「そそそんな、愛されてるだなんて…!私、どうしたらいいんスかー!」


身をくねくねさせて体で喜びを表現する。照れているのか、手で顔を覆っている。しかしやがて動きを止める。


「でも、あんたは晋助様から気に入られてるっス、目障りっス」


声のトーンが下がり、慌ててあたしは首を振る。


「あたしなんか気に入られてないよ、ただ興味があっただけでしょ!あたしは高杉なんて嫌いだし。まず敵だし!だから、あなたのこと応援するよ!」

「ほ、ほんとっスか!…実は私、こういう悩みを相談する相手がいなかったんス!嬉しいっス!」


今度はぴょんぴょん飛び跳ねて手を取り合う。いつのまにか、銃は手になく、しまわれている。…よし、いける。あたしはさらっと話をずらす。


「それで、高杉ってどこにいるかわかる?」

「晋助様なら、この船で一番高い所にいるっス!見晴らしのいい、晋助様のお気に入りの場所っス」

「よく知ってるわね、さっすがー!」

「晋助様のことならなんでも聞くがいいっス!」


うんうん、と頷いてから、すぐに手を離す。そして歩き出しながら手を振った。


「じゃあ、またね!」

「うんうん!また今度いろいろ相談するっスー!」


ぶんぶんと手を振り合い、そこから走り去る。
単純な子で良かった…!!あの紅い弾丸から逃げられた上に高杉の居場所まで聞けて、さらに仲良くなれたのだ。あたしすごい。あの子との出会い方がもっと違えば、もっと仲良くなれそうだったのにと思いながら、走り続けるのだった。







駆け抜けろ

(いい相談相手が出来たっス!)
(あの…逃がしてよかったんですか…)
(え?…………………ああああ!!)
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