副長の異変
鴨が帰って来てまもない頃、それは起こった。


「トシが…?それは本当?」

「ああ。僕がこの目で見た。攘夷浪士に襲われたときに、土下座し命を乞うたところを。僕も驚いたさ、あの鬼の副長ともあろうものが」

「…………」


考えられない。絶対にあり得ない。あの、トシが?でも、鴨が嘘を言っているとも思えない。…何があったんだ…!


「近藤さんにももう伝えた。話をしたらしいが…話の途中でどこかへ走り去ったらしい」

「…!」


あたしの足は無意識的に動き出していた。


「天海さん!?どこへいくんだ!」

「決まってる!トシのところ!」


問いたださないと…!!
スパンッとふすまを開けると、そこにはアニメの流れるテレビにかじりつくトシがいた。


「トモエちゃん萌えーっ!…って…………」

「…………は?」


誰 だ こ い つ 。


*


「_____と、いうわけだ」


とあるファミレスにて、何もかもを聞いた。あたしは頭を押さえた。


「…り、理解したわ」

「信じてくれるか」

「あたしが信じなくて誰が信じるの?」

「…フ。そう言ってくれると思ったぜ」


タバコの煙をふうと吐き、わずかに笑む。でも、状況は笑っている場合じゃない。
妖刀に呪われた、なんて。
よりによって、鴨がいる今…


「なんとか、捨てたり…お祓いしたり、出来ないの?」

「それが出来りゃ苦労しねェ」


それもそうだ。あたしは汗をたらりと流し、ストローをくわえた。


「伊東が俺を副長から蹴落とす良い機会だと思って、隊内で悪評ふれ回ってやがる。俺自身、こんなになってから局中法度を犯し過ぎてる。伊東からいつ切腹の申し渡しが来てもおかしくねーよ」


タバコを灰皿に押し付けながら、ため息混じりにそう吐き捨てる。あたしは、視線を落としてボソッと言った。


「…鴨は、そんなこと…」

「しねェってか?お前も大概お人よしだな。あの態度を見てわかんねェこたァねえだろう」


知ってる。分かってる。気づいてるに決まってるでしょう。鴨が異常にトシを敵視していること…トシから副長の座を奪おうとしていることくらい。


「お前も俺なんかといると伊東に目をつけられるぞ。特にお前は…気に入られてるからな」


トシが立ち上がる。顔をあげて、立ち去ろうとするトシに言った。


「あたしは、副長補佐だよ」


歩き出すトシの足が止まった。


「副長補佐の仕事は、副長のサポート。何があっても、トシの味方だから」

「………どうなっても知らねェぞ」

「あたしは、真選組のために出来ることをやる。それだけよ」


聞き終わって、今度こそ立ち去るトシ。去り際、フッと笑った気がした。







副長の異変

(妖刀の呪い…)
(嫌な予感がする)
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